語尾にシャイニングとつけろシャイニングぅ
春頃、宥さんがリッチに乗っ取られ行方不明になったこと。そこを俺が救出し、以後彼女が狂信者になってしまったこと。
それらについてどうやら、文芸部というか宥さんの知り合いの人たちは基本、ある程度の話を把握しているようだった。
「救世の会チャンネルでも、御堂さんが延々ハープ弾きながらことの顛末を語ってたからね。何が宥ちゃんの身に起きたのかは、文芸部のみんな知ってるところだよ、山形くん」
「そ、そうなんですか」
文芸部の女性がそんな説明をしてくれる。宥さんはニコニコと、俺を見つめるばかりだ。
まあ、あの騒動についてはだいたいのことを、香苗さんがネットで吹聴してるからな。なぜかハープを弾きつつの吟遊スタイルで、リッチに乗っ取られた宥さんを俺が泣きながら浄化して終了、みたいなあれやこれやを散々唄った動画は、例の組織チャンネルの代表的な動画だ。
ちなみにあれ以来、リッチについての再研究と対策についてが議論されだしているとかいないとか。
人間の体を乗っ取るモンスターなんてのが前例がまったくなかったから、業界に割とガチな激震が走ったらしい。
あれは単に、邪悪なる思念が行きずりのリッチに願いを叶えさせる力を与えた──関口くんにもやらかそうとしていた、あれだ──結果の行為に過ぎないので、すべてが決着した今、人を乗っ取るモンスターなんて物騒なモノは存在しないんだけどね。
システム側の事情を抜きに説明できる話じゃないから、黙っているしかないのが実際のところだ。
「みんな山形くんのことは知ってるし、感謝もしてる。宥を助け出してくれて、本当にありがとねシャイニング」
「ありがとうシャイニング!」
「望月さんを頼んだぞシャイニング!」
「宥を泣かせないでよシャイニング!」
「いつか私も使徒になりますシャイニング」
「ひえぇ……」
語尾がシャイニングになってるよみんな、怖ぁ……ていうか使徒なんてものを目指すんじゃないよどなたか知らないけど女の人!
変な団体の変なチャンネルを見た結果、変に染まってやしないだろうな? 変な自称使徒も身近にいるだろうから、なんとも不安だ。
ともかくそんな謎のエールをした後、文芸部のみなさんは去っていった。
なんでも彼らの今日のテストは1限の30分で早くも終了したそうで、あとはみんなで繁華街に出、あちこち巡って遊ぶらしい。自由かよ。
「テスト中に退席していいものなんですね、大学って」
「授業にもよりますけどね。概ね開始30分以降、退室できるんですよ」
なんとも素晴らしいシステムを宥さんから聞く。うちの高校もそうだったらいいのに。
わかんない問題なんて考えたところで仕方ないんだし、ちゃっちゃとやるだけやって終わったら帰らせてくれよ〜と、現実逃避の極みみたいな考えなんだけど何度思ったことか。
特に理数系なんて開始して30分頃にはもう、すっかり匙を投げちゃってる俺ちゃんである。いやまあ、コマンドプロンプトとして覚醒した今ならそこまで苦でもないんだろうけど。
染み付いた苦手意識ってのはどうしても、拭えないからね。
素敵な大学生活の素晴らしすぎる制度に、やはりキャンパスライフ楽しみてぇなぁ〜と意欲が湧いてくる。
どうせ進学しなかった場合は俺なんてひたすらダンジョン潜るばっかりなんだし、4年間をよりよく暮らす意味においては大学進学とは素敵な選択肢だよなと、思えてきている俺がいる。
高校1年の夏でこんなふうに考えられる機会に恵まれたのは、ありがたいなあと思いながらも。
俺たちは宥さんに引き連れられ、いよいよ探査者イベントの集合会場へと足を運んだ。
第二学舎そのものの施設の、すぐ隣にある部活棟。学内のあらゆる部活動の拠点が在籍する、一種のアパートだかマンションだかみたいな施設へと向かう。
中に入るわけではない。その施設の裏手にある、竜虎大学の学生がレクレーションに使用するというホール施設が会場なのだ。たしかに、そこに集中してちらほらと探査者の気配もしている。
時刻は9時過ぎ。集合時間が9時半だから結構、ジャストタイミングってところだね。
ホール入口にたどり着く。混雑ってほどじゃないにしても結構な人の量だ。スキル持ちもそうでない人たちも、それなりに集まっている。
受付と書かれたテーブルに、宥さんを筆頭に進む。これだけ人が多いと俺と優子ちゃんはすっかり尻込み気味で、なんなら逢坂さんとリーベに先に行ってもらっているくらいだったりした。
俺たちに気づいた受付の男女、学生さんかな? が、応対してくる。
「おはようございます。こちらにご記入お願いします。パンフレットはこちらになります」
「おはようございます」
挨拶しながら、俺たちは提示された記入帳に必要事項を書いていく。パンフレットまであるとは、なんだか本格的だなあ。
名前。探査者・非探査者のどちらか、探査者ならば何級か。まあプライベートなところまでは当然、踏み込んでこないよな。ちょっと安心。
全員記入を終えて、受付の人にお返しする。にこやかに受け取った男女ペアは、しかし名簿を見てにわかに目を見開いた。
「望月宥さん、逢坂美晴さん……山形公平さん!?」
「!? え、もしかしてシャイニングさん? え、マジ? ……え、嘘待って待って待ってほんと? えっ、嘘でしょマジ……?」
「怖ぁ……」
何やらワナワナ震え始めた女の人のほう。俺を見て、口元を隠して待ってを連呼している。え、なんか感極まって泣いてない?
待って? 俺のほうこそ待って?
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