学校の中にコンビニ!?
学内をさらに進んだところ、宥さんの言っている広場に出た。
立派な、まさしくキャンパスって感じの広く、開放的な空間だ。円形の芝生を中心に、石造りのベンチが等間隔に並べられて囲んでいる。
何より、周辺に赤煉瓦の棟の数々の目立つことよ。ご丁寧にそれぞれ何号館か、外観の最上部にくっきりと文字にして刻んである。
この第二学舎に通う学生さんたちは普段、こうした棟の内部にある教室や講堂にて授業を受けているのだとか。
「大学生協のコンビニ、学食も棟内にありますね。特に学食は棟ごとにそれぞれ、中華や洋風などで特色が違うんですよ」
「ご、ゴージャスですね……特にコンビニは羨ましいなあ」
「東クォーツ高校、山の上だから近くにコンビニなんてないんだよね」
思わず母校と比較してしまい、呟く俺に優子ちゃんが反応する。前に食卓でぼやいていた話を、どうやら覚えていたみたいだ。
いかにも俺の通う高校は山の上にあって、それゆえ通学路がかなり険しい。俺で言えば電車で一駅、そこからバスで30分ほどだからね。慣れないうちはなんだこれはと唖然としたもんだ。
そういう立地ゆえ、コンビニなんてものは学校の付近にはない。というか最寄りの店が、歩くこと30分はかかる場所にあるショッピングモールという有様なので、コンビニエンスなストアが存在する余地なんてどこにもなかったりする。
風光明媚、自然豊かな土地にあるのは素敵だし、近くに図書館やら美術館があるのも魅力的ではあるんだけどね……道中最後のコンビニが駅前ってのは、なんというかすさまじいよねいろいろ。
「学校内に購買や自販機があるからまあ、問題ないっちゃないですけど……つい羨ましくはなりますね、こういうの」
「ちなみにここのコンビニは、学生用に向けての書店も兼ねています。学術書なども普通に置いてありますし、後で探査学関係の本をご覧になってみてはいかがですか? 公平様」
「さすが最高学府ですね、そのへん。そうですね、お昼時に寄る機会があれば見てみましょうか」
学術書なんて普段、本屋に寄ったって見ることないからちょっと気になる。仕事に密接に関係するジャンルの本ならばなおのことだ。
あるいは現行の世界がどのくらい、ダンジョンやオペレータについて研究を進めているのかを測れるかもしれないしな。
ワールドプロセッサと同格の存在として、この世の理の大元に位置する俺は、それゆえ探査学が解き明かそうとしている分野について、間違いなくこの世の誰よりも詳しい。
これは自覚とか自信とか自負とかでなく、確定事項だ。全知全能ではもちろんないけど、ことシステム領域が絡む事象ならばほぼ網羅していると言って差し支えないだろう。
言ってしまえば俺自身が答えそのものみたいなもんなのだ、要するに。
だから人間の研究者さんたちが現状、どこまで踏み込んだところまで研究しているのかを確認するのは、コマンドプロンプトとしての観点から結構、楽しそうに感じてたりする俺ちゃんだった。
「おー、宥ちゃーん」
「あら?」
楽しそうな場所ばかりでワクワクしていると、不意に宥さんの名前が呼ばれるのを聞く。当の彼女含め俺たちが振り向けば、棟のほうからやって来る男女数人。
見るからに大学生ですって感じのグループだ。宥さんの知り合いみたいだけど、気配感知には引っかからないから探査者ではないな。
そんな彼ら彼女らは親しげに宥さんに手を振って、ここまでやって来る。
「お疲れー。え、今日テスト?」
「お疲れ様、みんな。私はもうテストはないわ。探査者イベントがあるから、知り合いにも来てもらったの。今、案内しているところよ」
「あ、今日だったんだ? へー……」
イベントのことを知らないあたり、探査者サークルとか同好会のメンバーでもなさそうだ。おそらくだけど宥さんが所属している文芸部の人たちってところかな。
みんな温和そうな見た目をしている。なんていうかこう、パリピ感はなく本当に大学生のお兄さんお姉さんって感じだ。
宥さんが続けて俺たちに紹介してくる。
「こちら、文芸部の同期です。この人たちも詩や小説を愛好する、いわば同好の士なんですよ。素敵な作品をいつも、作っている人たちです」
「そうなんですね」
「いやまあ、普通に本を読んだり書いたりが好きなだけなんだけどね」
苦笑いなんか浮かべてグループのうち、眼鏡をかけた男性が応える。大袈裟だなあ、と呟く姿に、だよねーと思わず頷きそうになる。
なんにつけ過剰だからね、宥さん。香苗さんもだけど、話を盛ることに躊躇いがない。今だって、まさか探査業関係ない友人知人にまで狂信者しないとは思うけど、かといって何も言わないとも言い切れ──
「それでね、みんな。こちらにおわすお方が私の神様、私の救世────」
「ちょちょちょちょ待って待って待って待って宥さん!」
「それ以上いけません!」
言ってる傍から暴走し始めた! 俺と逢坂さんで彼女を止める。
怖ぁ……躊躇なくいったよこの人。事情を知らないだろう人たちに、年下の男子高校生を神です救世主ですと言い切ろうとしちゃったよこの人。
ゾッとする。これで宥さんの人間関係がおかしくなったら、償っても償いきれないぞ。
血の気が引いた面持ちで俺は文芸部の皆さんをそーっと見上げる。すると。
「やっぱり! シャイニング山形!」
「うわ本物だ、サインください!」
「宥の命の恩人、だよね……!」
「はい! そうなんです、この方が私を、助け出してくださったんです!」
「えぇ……?」
何やらすでにご存知の様子。俺に向け、なんかキラキラした目で見てきているし。
怖ぁ……何これ、怖ぁ……
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