空元気も元気なら、逆恨みも恨み
今回から新エピソードって感じです
今日も今日とて学校だ。朝の爽やかな空気とともに、俺は教室に入る。
スタンピード以後、俺の東クォーツ高校一年13組での生活は結構、変わったところがある。
「おはよ、山形くん!」
「ようシャイニング!」
「山さん、ちっすー」
「おはよーっす。松田くん、シャイニングやめれ〜」
すっかり慣れた挨拶を交わす。
ギャル系女子の佐山さんと隣の席の松田くんと、俺のことを山さんと呼ぶ女子、木下さんたち。まだ来てないけど片岡くんと、遠野さんも含めて。
そこに俺を加えての計6人グループ。前にカラオケに行って親睦を深めたこの6人は、何をするにも一緒なのが当たり前になっていた。
授業と授業の合間の時間も、昼休みも、放課後にどこに遊びに行くのも。何なら、休日だって遊ぶこともある。
俺はダンジョン探査があったりもするけど、正直E級くらいのダンジョンなら一つ一時間くらいで終わる。まったくプライベートを圧迫しない、良い感じのワークライフバランスになっていた。
先ほど俺にシャイニング呼ばわり──って言い方も変か。言い出したのは俺で、それを気に入った男子たちにネタにされているだけなのだから──してきた松田くんに、軽く笑って抗議する。
別に本音で嫌がってるわけじゃない。シャイニングがあだ名でも別にいいかなって思っているんだが、まあ、これもスキンシップだと思う。
ほら、松田くんも乗っかってくれてるし。
「無理言うなって山形ー。あの動画の輝いてるレスラーがお前だなんて知れたんだぜ。そらシャイニング言われるってよお」
「だよな〜」
「でも山形くん。シャイニングって言われるのが本当に嫌になったら言ってよね? 私ら女子が、男子たちにガツーンって言ってやるし!」
「ありがと、佐山さん」
「梨沙でいいって〜!」
佐山さんがやたらと俺を案じて、結構な勢いで話しかけてくる。下の名前呼びは無理だって! ハードル高いって!
そんな内心を知るや知らずや、佐山さんは可愛く笑う。
これがスタンピードの後、俺の学園生活においての日常になった光景だ。
スタンピードの折。退避していた人たちに襲いかかろうとしていた狼人間を食い止めたわけだが、何の因果かそこにいたのは佐山さんたちクラスメイトの女子だった。
つまりは彼女たちは、俺がシャイニング山形するところをバッチリ目撃していたことになる。ついでに言うと、香苗さんの狂信者ムーヴにもしっかり遭遇していた。
だからか翌週、学校に登校した時に佐山さんたちクラスの女子グループがものすごく優しかった。めっちゃ感謝してくれたし、何かあると会話に混ぜてくれたし、若干浮いてた俺と他の男子たちとの橋渡しもしてくれた。
お陰様で俺はようやっとクラスに溶け込めたし、何ならシャイニングネタでウケも狙えるようになったのだ。探査者としてのちょっとした小話なんかもすると、それが意外に人気になったりもして率直に嬉しい。
一方で悪化したものもある。前から俺を敵視していた、関口くんとの関係が決定的に駄目になったのだ。
「…………ふん」
「関口くん、どうしたの?」
「いや? 別に何でもないさ」
クラスの美男美女リア充グループの輪から、時折、鋭く睨んできている。怖ぁ。
彼は内心を表に出さないことに長けているみたいで、他のクラスメイトには俺への憎悪なんて尻尾たりとも見せないのだけど。
当人であるところの俺と、意外なことだけど佐山さんはそういう悪意に気付いていたりした。
「山形くぅん……大丈夫?」
「え、うん。平気だけど、佐山さんこそ大丈夫? ああいうの、傍から見てても辛いでしょ」
「私は標的じゃないし、別に。てかアイツ、逆恨みにも程があるっての、もうっ」
プリプリ怒る佐山さんはやはり、派手派手しい見た目の割にどこか品がある。良いとこのお嬢様なんじゃないかって疑惑が俺の中で浮上しているけど、さてどうなんだろう?
それはおいても関口くんだ。彼、スタンピードの時に狼人間をまんまと取り逃がし、あまつさえ追いかけようとしていた俺を妨害しようとしていたんだ。
やむなく……いや正直、キレちゃったんだけど。つい投げ飛ばしちゃってどうにか、狼人間を阻止することができたわけなんだが。
問題は関口くんの方で、彼の一連の行為が組合にバレてしこたま怒られたらしい。居合わせた同業からのタレコミはもちろん、まさしく佐山さんはじめ退避していた、探査者じゃない人たちからも多く苦情が組合に寄せられたそうな。
あれだけ大勢いた中での暴挙だったからね。バレるよねそりゃあ。
結局、関口くんはペナルティとして学校終わりに一週間の再教育を組合で受け。
その期間が終わると、今度は一ヶ月間、朝早くから商店街の清掃活動に従事し。
あまつさえ休日には、これまでサボってた分までやれと言わんばかりに、ダンジョン探査を義務付けられているそうだ。
「ドロップした素材を没収されないだけでも、相当に温情がある処罰ですよ。一歩間違えれば大惨事だったんです、償いには生温い程です」
とは、香苗さんの言だ。
たしかに、これでもし一人でも命を落としていたら彼は今頃、探査者としての資格を剥奪された上で探査者専用の刑務所に入れられている。
今受けているのとは比較にならない程の重い罰を受けていた可能性もあるんだ。
それを思えば、まあ温情措置というものなんだろう。
なんのかんの言っても彼だってスタンピードを食い止める為に現場にいたんだし、未成年でもあるからね。
「……………………山名田ァ…………!!」
「…………山形ですけど〜」
小声で、本当に小声で──探査者として鍛えられた俺の聴力でやっと聞こえる程度の音量で俺を呼ぶ。
もう憎悪は隠すことなく、明らかにわざと名前を間違えているなあ。
頼むから、俺への憎悪はそのままで良いから、変な悪事に手を染めたりはしないでくれよ。
そう思いながら俺は、小さく小さーく訂正をした。
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