アルマ「僕、なんかやっちゃったかな?」
電車に乗って数分、宥さんの話を聞き終えるか終えないかってくらいのタイミングで、俺たちは目的地に到達した。
竜虎大学第二学舎へ到る、最寄り駅だ。早い……本当に早かったよ。時計を見ると8時30分前、家を出てから1時間もかかっていない。
駅構内は朱を基調とした、和式って感じの色合いで珍しい外観をしている。
それっていうのも駅を出たすぐ目の前に、国内でも有数の大神社があって、そこを基点にこの辺の土地が、一種の観光地として栄えているからとのことだった。
「せっかくですから軽く、お参りしていきましょうか。おみくじはまだ引けない時間帯ですけど、参拝はできる頃合いですしね」
駅から一歩踏み出したところ、宥さんがそう言い出した。
セミの鳴き声をバックに広がる青空。見ればたしかにすぐ目前に、何メートルもある巨大な鳥居が鎮座している。少し遠くにある社、おそらく本殿だろう場所につながる一本道の、入り口があるのだ。
俺でも知識はあるな、この神社。商売繁盛にご利益のある神社で、テレビドラマの舞台にもちょくちょくなってるほどの有名な場所だ。
え、もしかしたら有名人さんとかいるかな? と思ってキョロキョロする。そうでなくとも隣県だし、芸能人がしれっと彷徨いてるなんてことはあるって聞くし。
ふと気づくと同じようにキョロキョロしている、我が愛しの妹ちゃんと目が遭った。
スン……となる俺たち。山形家の兄妹しかこんなおのぼりさんムーヴしてませんでした。新島さんや宮野さんが若干距離を置き、リーベと宥さんと逢坂さんが微笑ましいものを見る目で俺たちを見ているのがつらい。顔が赤くなる。
誤魔化しがてら、優子ちゃんが尋ねた。
「イ、イベントは大丈夫ですか? 望月さん」
「ええ。9時30分スタートで、ここらだともう、歩いて10分とかからない距離よ。少しくらい寄り道するくらいでちょうどいいわ」
「ふふ、行きましょうよ優子ちゃん。もしかしたらテレビの撮影とか、オフの有名人が歩いていたりするかもしれませんよ?」
「うなっ……そ、そんなん気にしてないし! に、にに兄ちゃんだけだしおのぼりさんの田舎者山形は!」
「つらい」
必死に俺だけに擦り付けようとするけど……妹よ。ああ妹よ。
君もしっかりおのぼりさんの田舎者山形だ。血は争えないのだ。たぶん父ちゃんがいたら俺たちと同じことをしているのだ。つらいのだ……
そんな内心の慈しみはともあれ、俺たちはじゃあせっかくだしと神社に詣でさせてもらう。
鳥居の前で一礼し、入場。禊場で水で両手を浄め、口元もすすぐ。本殿に入る前にまた、一礼。
神様の家って聞くからね、神社って。人の家に入るんだから、なるべく礼儀作法はしっかりしないとね。失礼だからね。
と。不意に感じる気配、視線。
明らかにこの世のものでない、ナニモノか。
「うん?」
「どうかなさいましたか、公平様?」
「…………あ、いえ。あはは、綺麗な本殿だなあって」
小さく訝しんだ俺に反応する宥さんへ、笑って誤魔化しつつも内心にて考える──概念存在か。
察するにこの社に、この土地に住まう神だか精霊だかが見てきているな。おそらく他の人間と異なるものを感じ取った彼らの、興味を惹いたのだろうか。
コマンドプロンプト、というかシステム領域に関する知識など彼らにはないので、なんかよくわからんけど変なのが来たぞ、くらいな感じだろう。好奇の視線をそこかしこから感じる。
なんならリーベにも向けられているみたいで、あいつも微妙に居心地悪そうにしているな。
うーむ。彼らの居場所に異物が踏み込んでしまった形になったのは正直、申しわけない。
俺もリーベも、特に何かしらの権能を使っているわけでもないのだからバレないだろう、と高を括っていたか。
『……いや、たぶん僕の存在が原因だと思うよ、公平』
アルマ?
脳内にて響く、今や無害と成り果てた邪悪なる思念の声を聞く。
『今、公平と僕の魂は二重に重なっている状態にある。しかも一応人間のフォーマットにダウングレードしている公平とは違って、僕はワールドプロセッサそのままの魂だからね。概念的な存在であればそりゃあ、この異質さに気づくよ』
…………なるほど。たしかにそれは気づかれるよな。
すっかり失念していた。今の俺には半ば、アルマが取り憑いている状態だったんだ。
邪悪でも腐ってもこいつはワールドプロセッサ、かつては一つの世界を管理運営していた存在だからなあ。
ましてや輪廻や受肉という形で魂を、人間のそれに適応させている俺とは異なりアルマの場合、天然素材そのままなワールドプロセッサの魂、存在だ。神やら精霊に属するモノであれば、気づかないほうがむしろ、ありえないと言える。
「しまったな……ビックリさせちゃったみたいだ」
「公平さん。これってリーベちゃんたち、何かやっちゃいましたー? ってやつですかー?」
「いやまあ、普通にしてれば見られるだけで終わるよ。さ、お詣り、お詣り」
敵対的なものでは決してないけれど、何やら窺うような気配をそこかしこから感じ続ける。彼らを驚かせる形になってしまったのは、率直に悪いことをしたなと反省する。
ポリポリと鼻の頭を掻いて俺は、困惑するリーベの背中を押して、さっさと参拝を済ませるのだった。
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