ハジマリのスキル、ハジマリのポエミー
雑談という名の暴走伝道ショーをほどほどのところで抑えて、俺たちはいよいよ出発した。
炎天下の中、引率役の宥さんと俺を先頭に、中学生女子たちが後ろに並んで歩く。リーベは最後尾に位置して、後方の安全を確保していた。
「それにしても知りませんでしたよ、宥さん。竜虎大学の学生さんだったんですね」
国道沿いを駅に向かって進む道すがら、俺はふと宥さんに言った。彼女が実は、今から向かう竜虎大学に在籍している女子大生だったなんてことは、今回初めて知ったことだ。
女子大生……今まであんまり意識してなかったけど宥さん、現役女子大生探査者なんだよなあ。だから何? って話かもしれないけど、ちょっとこう、ドキドキするところはあるピュアボーイ俺ちゃんだったりする。
宥さんははい、と頷いて答えた。
「わざわざ大学名まで自分から明かすのも、なんだか自意識過剰な気がしていまして……すみません。公平様にはもっと、早くお伝えしておくべきでした」
「いえいえ、そんなお気になさらずとも。それで、探査者サークルのイベントだそうですけど、宥さんもそこで活動を?」
「あ、いえ。私は学内探査者サークルには所属していません」
「え、そうなんですか」
なんか意外だ。正直この人、絶対探査者サークルに入ってると思っていた。なんならその美しさでまったく無自覚に姫扱いされててもおかしくない。
じゃあ無所属なのかと問うと、それはそれで否やと返される。
「実は私……文芸部に所属してるんです」
「文芸? っていうと、ええと?」
「小説を書いたり、詩を書いたりして……本にしてまとめて、学祭で配布したりする部です。ふふ、驚きました?」
「へぇー……! たしかに驚きましたけど、宥さんの知的な感じにピッタリかもですね」
素直な感想を述べると、頬を染めて恥じらうその姿。宥さんの可憐さはまさしく、芍薬や牡丹か百合の花ってところだな。
しかし文芸部かあ、その発想はなかった。いやでもたしかに彼女の清楚さとかお淑やかさには、詩文的な雰囲気が漂っている、ような気がする。
すごいな、創作活動してるんだ。俺自身はそうした活動をしたことがないけど、なんだか憧れちゃうな。
……いやまあ、俺のステータスの内容はポエムだらけだから、強ち縁がないってことはないけどね。
元よりワールドプロセッサによるポエムノートもしくは自由帳扱いだった俺ちゃんのステータス画面だけれども。昨今はスキルを自作する関係上、俺ことコマンドプロンプトのポエムも混じりだしてるのがなかなかにカオスだ。
ていうかそもそも論、なぜにあいつは手ずから創ったスキルに、やけにポエミーな名前をつけるんだろう?
振り返れば、初代アドミニストレータに用意された原初のスキルからしてすでにポエミーというか、ワールドプロセッサの心情らしきものを名前にしていたりするしね。
コマンドプロンプトだった頃、隠れてあいつの創ったスキル名を確認して意図がわからずに首を傾げていた記憶がある。
えーと、なんだっけ。
大体450年は昔のことを、どうにか思い返す。初代アドミニストレータに与えられたハジマリのスキルは、たしか。
「……《光一つも差さない闇に、希望の種を芽吹かせて》だったかな」
「公平様? どうかされましたか?」
「あ、いえ! なんでも、なんでも」
思い出しながらついつい、口に出してしまった。いけないポエミー山形を、望月さんのきょとんとした顔が羞恥を喚起させる。
もらい事故だこれ。顔が熱くなる感覚に内心で呻きながら、それでも誤魔化す。
でもたしか、そんな感じの名前だったはずなんだよ。この世界で初めて創られたスキルってのは。
邪悪なる思念によって世界の半分が侵食された際に、流入してきた異世界由来の概念。それを利用してワールドプロセッサが創り上げた、世界で一番最初のスキル。それこそが《光一つも差さない闇に、希望の種を芽吹かせて》なんだ。
効果はなんだったかちょっと思い出せないけど、アドミニストレータ用スキル、ひいてはそこからダウングレードと量産化に成功したオペレータ用スキルへと発展していった、紛れもなく元祖にして本家本元。
思えばこの時点でワールドプロセッサはポエムってたんだ。なんというか……逆にあいつすごいな。500年もよくポエムし続けたもんだよ。
「恐るべしワールドプロセッサ……っと、それはともかく。宥さんはそれじゃあ、小説とか詩をお書きになるんですか?」
「あ、はい。そうなんですよ……お恥ずかしながら、小説を書いたりします」
「へえ……!」
お話を書くんだ、宥さん。
どんな作風なんだろうな。恋愛小説とかかな? いやもしかしたらファンタジー小説かもしれないし、はたまたまさかのSFとか、ああ推理小説の線もあり得るかな?
ラブコメとか書いてたらぜひ読ませてほしい。俺ちゃんラブコメ好きなんだよ、漫画とか結構読むし。学校でも片岡くんと究極のラブコメとか至高のラブコメについて熱く議論したりするほどだ。
もっとも大体の場合、途中で梨沙さんや遠野さんが興味津々で会話に参加してくるので若干スンッ……てなるんだけどね。
さすがに女子相手に男向けラブコメのあれやこれやを熱弁はできない、陰キャコンビの俺と片岡くんなのだ。
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