システムおかーさん
投稿遅れました
失礼しました
待ち合わせ時刻の7時30分には少しばかり早いかな? という頃合いに、我が家のインターホンが鳴った。甲高いピーンポーンという音に、ああ宥さんたちが来たかな? と察する。
いや、探査者の気配は家の前に一つしかない。逢坂さんの線もあるし、どっちかだなと推測しつつも俺は立ち上がった。
「よし、じゃあ行こうか。行ってきまーす」
「わかった。母ちゃん、アイちゃん。いってきまー」
「大学なんて初めてですよーウッキウッキ! いってきます!」
「はーいいってらー」
「きゅー」
俺と優子ちゃん、そしてリーベが、母ちゃんとアイに見送られつつもゾロゾロ玄関に向かう。なんていうか、ノリがちょっとした家族旅行めいている。
父ちゃん母ちゃん抜きにして、優子ちゃんとどっか出かけるのって久しぶりな気がする。最後はいつだったかな……去年の夏祭りとかだったか? それ以降は受験やら探査活動やらで、そもそも家族でどっか出かけるってことがなかったはずだし。
うーむ。そう考えるとなんだか、楽しくなってきた。リーベじゃないけどウッキウッキ! ってやつだ。
ニヤつきを堪えて妹ちゃんに話しかける。
「竜虎大学、どんなところだろうなあ。大学ってドラマとかニュースでしか見たことないんだよね」
「私もー。キャンパスライフってどんなんだろうね、やっぱり年中騒いでるのかなあ、ぱーりーぴーぽーいぇーい! みたいな」
「あー、それはあるかも」
大学生のイメージったら、やはり真っ先に思い浮かぶのは"陽キャ"あるいは"パリピ"だ。
春夏秋冬問わず、イベントがあればとりあえずバーベキューしたりナイトプールで遊んだりディスコで踊ってる印象が強い。
いやまあ、もちろんそういう人は一部というか、そうでない人たちもいるんだろうなってのはわかるんだけども。
表層的に一番目立ってるのはやはりパリピな方々なので、どうしても大学生=明るくて楽しいリアルが充実した人々、という公式を思い浮かべてしまうんだよね。
今さらながら、これからそんな明るくて楽しくてリアルが充実した人たちによって形成されている空間に出向くことに緊張してくる。
こないだ、梨沙さんの中学時代の同級生さんと知り合った時にも味わったドキドキだ。
こういう時、探査者になろうがアドミニストレータになろうが果てはコマンドプロンプトだろうが、山形公平は山形公平なんだよなーって感じる。
正直、陽キャに憧れはあるけれど、同時にああはなれないなという諦めもあったりする。多少自意識に変化があっても、そういうところは変わらないから心ってのも不思議なものだよなあ。
────あ、称号変わった。
ちょうど靴を履いたタイミングだ。唐突なステータスアップデートの感覚に立ち止まる俺はともかく、優子ちゃんとリーベは玄関を開けた。
そのまま外に出て、来訪者を出迎える。
「美晴ちゃん、みんな! おっはよー!」
「おはようございます、優子さん。それと、ええとあなたは?」
「かわいいかわいいリーベちゃんでーっす! はじめましてー!」
どうやら先に来たのは逢坂さんと、優子ちゃんのクラスメイトたちだ。宥さんはもうちょいしたら来るのかな?
受肉した状態で会うのは初めてなリーベが、かなりグイグイと逢坂さんに絡んでいっている。客観的には初対面なんだけど、リーベからすれば俺の脳内から何度か見ている間柄だからね。物怖じしないリーベなら、そりゃそうなるか。
さて俺も挨拶しなきゃ、と言いたいけれど。先にワールドプロセッサからの小言あるいは愚痴、クレームを確認しないとな。
すっかり俺の称号欄がそんなふうに使われていることについて、複雑な思いはあるけれども。ある意味この世でたった一対だけの存在同士、多少は仕方ないかなとも思う。
あんまり待たせないようにそそくさと俺は、ステータスを開いた。
名前 山形公平 レベル759
称号 託した明日を、未知なる世界を抱きしめて
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
名称 よみがえる風と大地の上で
名称 清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師
称号 託した明日を、未知なる世界を抱きしめて
解説 まだ見ぬ未来、まだ見ぬ世界。楽しんでいきましょう、コマンドプロンプト
効果 なし
《称号『託した明日を、未知なる世界を抱きしめて』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……我々にも予測できないこれからの世界。物怖じしても、きっとあなたは進んでいけます。日向も日陰も、抱えていけます》
ご覧のとおり、まさかの激励である。お母さんかな?
すべてが終わり、肩の力を抜いたからか慈愛たっぷりというか必死さがなくなり、包容力のあるお言葉をくれるようになったな、ワールドプロセッサ。
こうも言われると、なんだか勇気が湧いてくる単純な俺ちゃんだ。
『ワールドプロセッサも大概だけど、コマンドプロンプトも大概だよねこの世界。まったくなんでこんな連中に大逆転されちゃうかね、僕もさあ』
ぼやく脳内のアルマ。それとこれとは話が別だろ!
ツッコミを入れつつも、俺は逢坂さんたちに話しかけていった。
ブックマーク登録と評価の方よろしくおねがいします
各書店様で書籍1巻の予約受付が始まっております。よろしくおねがいします。




