虫取り少年山形公平(500+15歳)
翌日の朝。隣県にある竜虎大学に行って、探査者サークルによるイベントに参加する日。天気も相変わらずの快晴で、問題なく予定どおり、俺は外出する準備を済ませていた。
朝ごはんもしっかり食べたし、顔も洗ったし、なんならシャワーだって浴びてさっぱり爽快な気分だ。
もそもそと私服に着替える。今日はこないだみたく、いきなり神魔終焉結界を着込むようなことはしない。探査イベントとはいってもダンジョン探査はあんまりしないみたいだし、何よりあれ、暑くはないけど見た目が完全に夏用じゃないしね。
大学生の人たちにドン引きされるわけにはいかないしと、持ってる服の中でお洒落っぽいのを選んで着る。ええと、ジョガーパンツにシャツに、薄地のジャケットを羽織って、と。
「どうあがいても背伸びした高校生感しかないなー……」
鏡の前に立って自姿を確認すると、遠い目をせざるを得ないこのファッションセンスよ。とはいえ日常の、短パンに半袖シャツでハイ終わり! みたいな寝間着同然の姿で大学をうろつくわけにはいかないし、こんなもんとしておこう。
ほか、特に荷物はない。財布とスマホくらいなもんか。お一人様だったら耳慰みにイヤホンくらいは持ち歩くけど、団体様だしね、今回。
さて、準備完了! リビングへ向かう。リーベや優子ちゃんはまだもうちょい時間かかるだろうな。女の子のそういう準備は大変なものだって聞くし。主に母ちゃんから。
「あら? 公平、ちゃんとした服なのね、今日は」
「そりゃ大学行くしね」
リビングに入って早々、テレビを見ながら家事をしていた母ちゃんからそんな声が。それなりな格好をした俺にふーん、みたいな顔をしている。
そんなに普段、ちゃんとしてないかなあ。一応TPOを弁えた服装はしているつもりだけど。若干釈然としないものを覚えている俺に、母ちゃんは肩をすくめた。
「よかったわー。あんた夏休みだからってまた、麦わら帽子に色シャツに短パンにサンダルみたいなテキトーな格好で行くんじゃないかしらって、気が気じゃなかったんだから」
「う……いや、あれは近場のコンビニ行くとかだけだしさ」
「それだって正直、やめてほしいんだけど? ご近所さんから山形さんとこのご長男は、探査者になってもファッションセンスが虫取り少年ねって言われてるんだから」
「そんなに!? 嘘でしょそんなこと言われてんの!?」
怖ぁ……預かり知らぬところで俺のご近所付き合いに支障が出始めていませんか? いいじゃん別に夏なんだし、虫取ったっていいじゃん別に。虫とか死ぬほど嫌いだけど。
思わずショックを受けてソファに座り込む。機能性とか快適さとか以前に見た目大事、マジ大事。心に刻んでおこう。
「きゅ。きゅきゅきゅ」
「アイ……慰めてくれるのか。ありがとな」
「きゅっ」
項垂れる俺に、アイがトテトテと歩いて近寄ってきた。そのまま俺の身体をよじ登って肩に座ると、前足で俺の頭をポンポン軽く、叩いてくる。慰めの動作だ。
いい子だなあ、それにかわいい。その姿に、負った心の傷がそこはかとなく癒やされていく。
「アイー!」
「きゅきゅー!」
「やっぱりアイちゃん、公平には人一倍懐いてるわねえ。さすがは親代わりってとこかしら? 妬ましいわー」
お返しにアイを抱きしめて、目一杯愛情を込めて撫でてやると、ものすごく気持ちよさそうに鳴いて笑う。母ちゃんが結構それなりに本気で羨ましそうにしてるのがちょっぴり怖さと優越感。
へへーん、アイはなんだかんだ言っても俺に一番懐いてるんだもんねー! なんて幼稚なマウントを取ってみる。いやまあ、なんのかんのアイはもう、この家の人間全員に等しく懐いてるとは思うけどね。
「おっまたせ〜!」
「お待たせしました、公平さーん!」
と、そんなタイミングで優子ちゃんとリーベの二人がやってきた。それぞれ、ものすごく気合いの入った格好をしている。
優子ちゃんに至っては薄っすらだけどメイクしてない? 探査者イベントを合コンか何かと勘違いしてないかちょっと心配になる入れ込み具合だと、一目見てわかるほどだ。
「へっへへー。大学なんて初めてだし、めっちゃ頑張っちゃった!」
笑う優子ちゃんは、いつものポニーテールでなく髪を下ろして大人っぽい感じに仕上がっていた。
服装も、割と普段着はボーイッシュなのが多いんだけど今日はスカートに淡桃のワイシャツにネクタイ、そしてノースリーブのカーディガンを着こなして、ちょっぴり清楚めだ。
中学生よりもうちょい年上、それこそ俺と同年代くらいにも見えるかもしれない……うーん、美少女。友達にこんな子いたら速攻告ってるわ。いや無理だわ、尻込みするわ。
「かわいいかわいいりーべちゃんもどうですかー? えへへへ!」
同じくにっこり笑顔のリーベはこれまた、今度は意表を突くボーイッシュスタイルだ。髪をポニーテールにして、膝丈くらいのハーフパンツにチュニックを身に着けて、活発なイメージを醸している。
元がとてつもない美少女だからか、ボーイッシュにしてもビックリするくらいかわいい。リーベの性格を考えるとむしろ、ベストマッチと言えるほどだ。
「あらー、二人ともおめかししちゃって!」
「ああ、驚いた……優子もリーベも、すごくかわいいよ」
俺と母ちゃんの賛美に、照れながら笑う二人。
大学でもこりゃあ人気出るぞと、俺は確信を抱くのだった。
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