SNSでも狂信者
昼ご飯の後始末も終わった。みんなでリビングのソファに座り、冷房の効いた真夏の午後に寛ぐ。
自室もいいけど、こうやって広々とした場所でダラダラするのも悪くないよねーなどと思いつつ、俺は氷コップに麦茶なんて入れちゃって優雅なアフタヌーンティーを楽しんでいた。
「それじゃあ、明日は公平さんはその竜虎大学ってところに行くんですかー。それも優子ちゃんとー、モッチーも連れてー」
「どっちかって言うと宥さんに俺たちが連れて行ってもらうんだけどな。一応引率だけど、ことの発端はあの人なわけだし」
「むー……」
俺と優子ちゃんに挟まれてちょこんと座るリーベが、膝元に丸まって眠るアイを優しく撫でながらそんなことを言った。
なんの気なしに明日、大学行って探査者サークルのイベントに参加してくるぜー! これで俺っちもパーリィピーポゥだぜー! ……嘘だぜー!! 俺は陰キャだぜー!! みたいなことを話したところ、何やら仲間外れにされたと思ったみたいで唇を尖らせ始めている。
たしかに、リーベももう探査者なわけだし。優子ちゃんは連れて行くのにお前は留守番なー! ってのはおかしい話ではある。
引率役としても、なんだかんだ俺と同じく500年を生きるシステム側の存在だしな。頼りになるのはたしかだし、可能なら一緒に行ってもいいかもしれない。
俺は優子ちゃんに尋ねた。
「優子ー、リーベも連れて行っていいと思うんだけど、どうかな? 俺とお前が行くのに、一人だけ家に残るのもなんだかなーって思うし」
「んー? 別にいいと思うよ、望月さんがOK出したらだけど。私だって、美晴ちゃんに誘われてるだけだしね」
「そりゃそうか。ちょっと聞いてみるかな」
返ってきたのは至極ごもっともな話で、そもそも宥さんから話を受けた逢坂さんが、一緒にどうですかと優子ちゃんを誘った流れで俺にも話が来たわけだからね。
妹ちゃんにメンバーに関する決定権は実のところ、なかったりするわけだ。となれば単刀直入に宥さんに連絡するのが一番早いと、俺はスマホのメッセンジャーアプリを立ち上げた。
さっそく文章を打ち込む。
「えーと。お疲れさまです、山形公平です。明日の探査者イベント僕も参加させてもらいます、よろしくおねがいします。あとリーベも連れてきていいですか、と。送信」
宥さんのアカウント、その名も"ゆうゆう"さんなんだけど、その人にメッセージを送り、俺は一息ついた。
まあ、断られることはないんじゃないかなーとは思うけど、もし人数的に厳しい場合、なんなら俺の代わりにリーベに行ってもらっていいかもしれない。
こう見えても仕事はしっかりする頼れるやつだからな。使命感や責任感も人一倍あるのは、アドミニストレータ計画を主導したことからも証明済みだ。
探査者として新人ではあるものの、能力自体は香苗さんや俺のサポートをきっちりこなせるほどなんだから、どんな局面でも足を引っ張ることにはならないと思うし。
……そう考えるとリーベって、探査者としてもすごく有能になりそうだよなあ。メインで戦闘するほうでなく、支援とかサポート役とかそっち方面で。スキルもサポート系だし。
となると、逢坂さんにも何かしらいい影響を与えられるかもしれない。彼女、スキルから称号に至るまですべてが極端にサポート方向に偏ってるからね。
と、スマホ画面に通知が。"ゆうゆう"さん、つまりは宥さんからだ。早いな、今日はオフの日なのかな?
タップしてアプリを開く。やたら長文で、何やら書いてある。
『美晴ちゃんからお話は伺っております公平様本当にありえないくらい幸せな気持ちでいっぱいですまさか公平様と大学に通えるだなんて……いえ実際はイベントのための一時的なものでしかなく泡沫の夢としかいえない儚いものなのですけれどそれでも構いません夢が叶いました公平様と一緒にキャンパスを歩くなんて叶うはずがないと内心諦めていた夢がこんな形で実現するなんてこれも救世主様の御業なのでしょうか? そうですねそうに決まってますだって公平様こそが救世主なんですもの改めて深く尊敬いたしますリーベちゃんの件については承知いたしましたぜひとも一緒にお越しくださいませ明日楽しみにしていますあなた様の信徒である使徒望月宥より』
「怖ぁ……」
「? どうしたんですかー公平、さ……怖ぁ……」
絶句。俺も絶句したし、つられて画面を見たリーベも絶句している。怖ぁ……それ以外に言葉が思い浮かばない。
この人、俺が絡むとたまに、SNSでもこうなるんだよな……いや宥さんだけでなく香苗さんもだけど。
文章として見ると一目瞭然なんだけどね? 何かが琴線に触れると途端に句点と読点がどっか行っちゃうんだ、この伝道師さんと使徒さんのお二人は。たぶん正気を求めてガンダーラとかそのへんに行くんだと思うんだけどカムバック、句点と読点!
「え、ええとー……と、とりあえずリーベちゃん、ご一緒していいみたいですねー……や、やったー……?」
「お、おう。おめでとう……」
ドン引きしながらもなんとか、喜びらしき感情を示すリーベに、俺は良かったねとしか言いようがない。
とにかく、参加できるみたいだしそれは素直に喜ぼう、うん。それ以外は……うん。
怖ぁ……
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