くうねるリーベ
ソフィアさんと一頻り、雑談から世間話までをして昼前頃、俺は通話を終えた。
長い時間、話したな……それだけ人との会話に餓えていたってことなんだろう。別に嫌じゃなかったのはもちろんだけど、正直なところちょっと気疲れはある。
「ふいー」
「お疲れ様、兄ちゃん」
「きゅー」
緊張から解放されて、ベッドに寝転がる。動画を楽しく見ていた優子ちゃんとアイが、俺を労ってくれた。
ぱたぱたと翼をはためかせて、俺の胸元に飛び込んでくるアイ。その頭を撫でてやると嬉しそうに鳴いて、鼻を擦りつけてきた。
「きゅう、きゅう、きゅう!」
「兄ちゃん、今さらだけどすごい人と知り合いだよねー……WSOの一番偉い人とマブダチって感じじゃん」
「え。いや、さすがにそこまで友人感もないんじゃないなあ。少なくとも俺からすれば雲の上の人だし」
我が愛しの妹ちゃんからしてみれば、電話一本でWSOの統括理事とやり取りできるってのは、相当親しいゆえのものと見えるんだろうね。
実際のところは、俺がノンアポでいきなり不躾な電話をしてしまい、それをあの人が寛大に許してくださったがゆえの温情措置なんだけど。わざわざみっともないことを自分から言う気もないし、まあ黙っておこうと思う。
スマホで時刻を確認する。もうじきお昼か……結構喋ったからかな、腹が減ってきた。
今日は母ちゃんも父ちゃんも仕事だし、家には俺と優子ちゃんとリーベとアイの三人と一匹だけか。そういえばリーベ、朝食を一緒に食べてからずっと、リビングのほうにいるみたいだ。誰もいないし寛いでるのかな?
「……お?」
「どうしたの?」
「いや、リーベがこっち来てるから」
能力者の気配を感知する称号効果で、リーベが徐々にこちらに向かって来ているのを察する。噂をすれば影がさすというか、絶妙なタイミングで来るよなあ。
さては腹が減ったからご飯にしようという呼びかけかな? ちょうどいい、冷凍食品も家に結構あるし、今日のお昼はみんなで冷凍食品祭りといこうか。
もう足音が聞こえるくらい近くにまでリーベは来ている。
さぞや腹をすかしていることだろう。いいぜ俺ちゃん特製、冷凍食品フルコースを見舞ってやろう。レンジを唸らせるだけで完成するという素敵な料理の数々をいざ、味わうがいい!
……などと、腹が空いてるからか地味ーにアホなことを考えているうちに、俺の部屋のドアがノックされ、そして開かれた。
「みなさーん! お昼ご飯できましたよー!! お残しは許しませんよー!!」
「…………え?」
勢いよくやってきて開口一番、そんなことを言う金髪の少女。お気に入りの水色のワンピースに、薄地のカーディガンを羽織って清楚さを醸し出す彼女は、しかしその言動の騒々しさから淑やかさでなく活発さをイメージさせる。
精霊知能リーベ。今やすっかり山形家の一員となった俺の相棒は、眩いばかりの満面の笑みで俺たちに告げてきていた。
ごはんできた。お残しはゆるさない。
一瞬理解できなかった言葉の意味を、どうにか咀嚼して飲み込んでから、困惑とともに俺は尋ねる。
「ご飯……え、リーベが作ったの? 料理なんてしたことないだろうに、いつの間に練習してたんだ」
「リーベちゃん、食べ專の人なんじゃ……」
「きゅう……」
「食べ專!? きゅう!? なんなんですか失礼なー!?」
「きゅう!?」
「アイは関係なくない!?」
優子ちゃんと、あとなぜかアイに抗議するリーベだが実際、今まで作ったことないじゃん、ご飯。
もっぱら食うほう専門じゃん。優子ちゃんよろしく言うけど食べ專じゃん。少なくとも俺の知る限りでは。
それがいきなり、ご飯ができましたーなんて言われてもなあ。優子ちゃんと顔を見合わせて、困惑するしかない俺たち山形兄妹である。
リーベはすっかりむくれて、唇を尖らせた。
「むー……そりゃあリーベちゃんはたしかに、食の喜びにすっかり取り憑かれたかわいいかわいい胃袋宇宙のリーベちゃんですけど!」
「毎食必ず白米おかわりしてるもんな、お前……」
「その細い身体のどこにあんなに入るんだろう。不思議……」
「でーすーけーどー!! それはそれとしてー、最近では作るほうにも興味津々なのですよー!」
むきー! むきー! と腕を振り回して騒ぐ姿はまるで清楚さの欠片もない。そんなワンピースにカーディガンなんて令嬢みたいな格好しといてお前、本当にさあ……
まあそれは置いといて、作るほうにも興味を示したか。美食家は次第に自分で料理するほうに進むと聞くけど、その類なんだろうか? いや2ヶ月かそこらで美食もへったくれもないけどさ。
「無理をいってお母様に料理を一から教わって、かわいいかわいいリーベちゃんはさらなる進化を遂げたのです! 今日はその成果を存分に味わってもらうってんですよ、公平さんに優子ちゃーん!」
「きゅうー……」
「あっ……も、もちろんアイの分もありますよー? 仲間外れなんてするわけないじゃないですかー!」
「きゅ? きゅきゅきゅ? きゅっきゅー!!」
テンションに任せて口走った挙げ句、アイに弁解する羽目になっている。何をしてるんだこの子は……
いつもより暴走気味なリーベをどうどうと宥めて、まあそういうことならと俺たちは、昼飯を食べにリビングへと向かった。
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