通話料と引き換えに美女と電話で話す権利をやろう
太平洋ダンジョンについての話も、まあ聞きたいことは聞けたので一段落ついた。それでもまだ、ソフィアさんと俺は通話を続けている。
どうにも人寂しさがあったみたいで、格好の話し相手ができて喜んでるみたいだ、この人。
正直、通話料が目も当てられないことになるからそろそろちょっと……って感じもするんだけれども。
意外に寂しがりなソフィアさんを放っとくのもどうかと思うし、通話料が多少嵩んだところで、ダンジョンを一つ踏破すればそれだけで余裕でお釣りが来るし。まあいいかなって感じでもある。
「それじゃあアンジェさん、入院まではしなかったんですね」
『ええ。リーベ様の《医療光紛》のお力で、ワイバーンの毒など影も形もないなかったそうです。さすがは精霊知能様ですわよね、うふふふ』
優子ちゃんに代わってベッドに腰掛け──長電話するなら代わってくれと言われた。彼女は今、アイと仲良く動画を見ている──話す俺とソフィアさん。
話題は多岐に渡るが今はもっぱら、この間のダンジョン探査にてワイバーンと交戦、毒を食らってしまったアンジェさんについてだ。どうやら入院するまでもなく、リーベのスキルによって解毒されきっているとのことでひとまず胸を撫で下ろす。
「よかったです。万一のことがあれば、マリーさんに合わせる顔がありませんしね」
『ちなみに顛末を聞いてマリーちゃん、安心しながらも未熟って笑っていました。あの子ったらほんと、いつまで経っても意地っ張りなんですから』
「ははは……まあ、身内相手だからこそ辛口になるものなんでしょうね」
あのマリーさんをまるっきり子供扱いする、ソフィアさんに思わず苦笑する。探査中、マリーさんの若かりし頃の話を聞いているため、意地っ張りって評もなんだか頷ける話だ。
もちろんマリーさんも、アンジェさんとランレイさんの腕前は本心では認めていると思う。ヴァールと香苗さんが揃って太鼓判を押したことまで聞いているんならなおのことだ。
なんなら俺だって、壁を超えて大きく飛躍した彼女たちの力に、驚愕と感嘆を禁じ得なかったくらいだ。
《闇魔導》により生成した己の分身と二人で放つ、双魔星界拳を体得したランレイさん。
新たなスキルを駆使しての星界拳は、これまでの何倍もの威力を誇る。そうでなくとも分身体は使い道が多いだろうし、汎用性とか万能性で言えば、それこそ彼女の妹、星界拳正統継承者たるリンちゃんをも上回ることは明らかだ。
今後は《闇魔導》の精度と双魔星界拳の威力を高めることになっていくだろうけど、恐らくは香苗さんに代わり今、最もS級に近いのは彼女だと俺は思う。
すなわちそれはA級トップランカー。今はそこまで辿り着いてないけど、力に目覚めた以上は間もなく、ランレイさんはかつての香苗さんの立ち位置にまで登り詰めるだろうな。
そしてもう一人、アンジェさん。彼女はワイバーン戦の最中、誰にも──それこそ俺やリーベ、ヴァールにも予想できなかったスキルを獲得した。
《重力操作》。周囲の空間、物質にかかる重力を変動させるこのスキルは、オペレータには滅多に与えられることのないスキルの一つだ。まあ、普通に因果改変に指の先っちょくらいは入ってるからね、これ。
その場にいるものであれば、問答無用で負荷をかけたりなくしたりするとてつもない効果のスキル。アンジェさんがあのタイミングで獲得したのはなんだか、裏を感じなくもないけれど。
永らく壁を超えられなかった彼女がそれを得て、新たな地平を見出すことができたのは素直に喜ぶべきことだと思う。持ち前の剣術と組み合わせて使えば、S級探査者の領域にだって普通に辿り着けることだろう。
元からあらゆる距離に対応可能だった彼女に《重力操作》はまさに鬼に金棒ってところか。ランレイさんともども、一気に飛躍したよなあ、本当に。
「そのうちマリーさんにお会いしたら、俺からも伝えますよ。アンジェさんもランレイさんも、きっとマリーさんの想像以上にすごい探査者になっています。そう遠くない未来で、かつてあなたがいた領域にも辿り着けますってね」
『ヴァールも称賛しきりでしたね〜。あのお二人は絶対にコンビを組むべきだ、組まなかったら探査者業界の損失だって、私宛の手紙にひたすら書いていました』
「そ、そうなんですか。いや……まあ、あいつはあいつでのめり込み過ぎと言いますか……」
怖ぁ……厄介ファンみたいになってない、ヴァール?
探査を進めるごと、目に見えてアンジェさんとランレイさんへの言葉や姿勢が熱意の籠もったものになっていってたけど、自分からそれをソフィアさんに伝えていくのか。
たしかに息もピッタリだし、何よりランレイさん側が人見知りすぎるからアンジェさんと組むってのは悪くない話だと思うよ。でも組まないからって業界の損失とまで言い切る度胸はとてもじゃないけど俺にはないなあ。
『昔からあの子はそうなんですよ。思い込んだら一直線といいますか、真面目過ぎて融通が利かないといいますか』
「そうみたいですね……」
『でも、そこが可愛いんですよ。うふふ、私の最高に素敵なパートナーなんです!』
花が咲くような笑みを浮かべているんだろうなあ、と俺にもわかる嬉しそうな声。
ヴァールもヴァールで、いいパートナーに巡り会えてるよなあ。
ブックマーク登録と評価の方よろしくおねがいします
各書店様で書籍1巻の予約受付が始まっております。よろしくおねがいします。




