世界で一番深いダンジョン
優子ちゃんを部屋に迎えたまま、引き続きアイと動画を見る。"カレッジサーチャーズ"の動画もそこそこに、今度は好奇心の赴くまま、雑学系の動画なんか見繕ってみる。
結構好きなんだよね、こういうの。他にも製造ラインの動画とか、作ってみたとか、見ていて楽しい。
こういうところに好奇心がいくわりには、学校の勉強があんまり好きじゃないのはどういうことなんだろうな。我ながら不思議だ。
「……お?」
「きゅ?」
「どしたの、兄ちゃん」
ふと気になる動画サムネイルを発見して、思わず声をあげる。アイと、俺のベッドに座り込んでスマホ触ってる妹ちゃんが反応してきたので、俺はパソコンから目を離さぬままに答えた。
「いや、気になるタイトルが……"世界最大のダンジョン! 太平洋ダンジョンについて解説! "って」
「太平洋? え、そんなとこにもダンジョンあるんだ?」
「ちょっとだけ聞いたことはあるよ。海面にどでかい穴が空いていて、そこがダンジョンの入り口になってるとか。でもそのくらいだな、世界最大のダンジョンなんて知らなかったけど……」
新規探査者教育の時、香苗さんとは別の教官さんから余談程度に聞いた話だ。太平洋のど真ん中、陸地なんてあるはずもないそこには、円周100kmにも及ぶ異常に巨大なダンジョンの入り口があるのだとか。
滅多にテレビやニュースでも扱われないから、世間一般にはあまり馴染みがないそうで。俺だって実際、探査者になるまで聞いたことなかったしな。
ともかく、そんな謎に満ちた太平洋ダンジョンがなんと、世界一大きいダンジョンだなんてタイトルの動画があるのだ。
これは気になる。こないだ潜った10階層全50部屋のダンジョンでもA級としては最小規模だったらしいから、世界最大なんて一体どれほどなのか見当もつかない。
ワクワクしながら動画を開く。いわゆる合成音声を使った動画で、愛らしいマスコットが時折漫才をしながらも楽しく解説していくスタイルの、このご時世においては割とメジャーなタイプの動画だ。
コントもそこそこに、説明が始まる。機械とも人間ともつかない無機質で肉感的な女の声が、太平洋に空いた大穴について話していった。
『発見されたのは大ダンジョン時代が始まってから40年ほどが経った頃。ヨットで太平洋を横断していた日本人冒険家によってもたらされた第一報は、"地獄の釜の蓋が開いてる"だったわ』
「盆かな?」
「正月かもよ」
兄妹揃って、60年も前の冒険家さんにツッコむ。いかにも日本人らしい言い回しだが、それは海外の方々には通じなかっただろうなあ。
実際、解説ではそのへんのエピソードについて補足がされていて、日本では大受けしたものの、海外ではノーリアクションというか、地獄に釜ってなんぞそれ? みたいに首を傾げられたとか。おつらい。
『すぐさまWSOによる大規模な探査者パーティーが組まれて、ダンジョン探査が行われた。けれど……60年経った今もなお、コアのある最深部への到達は実現していないの』
『え!? そ、それってなんでなの?』
『理由は二つあるわ』
解説する側と聞き手側に役割を分けての、ニ種類のマスコットによる解説。わかりやすくて助かるが、しかし……60年もかけて踏破できてないって、どういうことだよ。
単純に規模が大きすぎるってのはあるかもしれないが、にしても60年だぞ? いくらなんでもおかしくないか。
浮かんだ疑問に答えるように、解説側のマスコットはセリフを続けて読んだ。
『一つ、規模が大きすぎる。現在66階層まで探査が行われているけど、ほぼすべての階層において、部屋数が100を超えているらしいのよ』
『100!?』
「100!?」
自然と聞き手側のマスコットと被ってしまう、俺の声。探査者じゃない優子ちゃんにはピンときてないみたいだけど、もうこの時点で異常極まる話だ。
総部屋数じゃなくて、1階につき部屋数100ってこと、だよな? ……いやいやいやいや。インフレしすぎだろ、ソシャゲかよ。
ていうか、66階層まで探査しているってことは、6600部屋もあったってことになるよな。
滅茶苦茶だ、わけがわからん。なんだってそんなダンジョンがあるんだ?
混乱する俺を尻目に、解説はさらに続いた。
『そしてもう一つ。通常のダンジョンなら、一度モンスターを倒しきった部屋にはもう、敵は出てこないはずなんだけど……』
『え。ま、まさかだけど……』
『そのまさかよ。太平洋ダンジョン内のモンスターは、一定時間が経つと再発生するの。部屋の多さもあって、そのせいで攻略が遅々として進まないのよ』
「怖ぁ……」
戦慄というか、ゾッとする話だ。倒したモンスターが復活なんて、明らかに通常のダンジョンじゃない。
ていうかこれ、と気づく。
この異常性、まんまエラーダンジョンじゃん。春先のスタンピードを引き起こしたのと同じタイプの、機能面で不具合起こしてるやつじゃないか!
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