優雅な夏のぐーたらモーニング
今日も今日とて夏だ、暑い。朝からお陽さまが爛々と、世界を照らしていらっしゃるよ。おはよう、いつもお疲れさまです。
アンジェさんやランレイさん、ヴァールとのダンジョン探査を終えて2日経過したこの日。俺は特になんの予定もないので部屋でのんびり、クーラーをガンガン効かせてネットとゲームと漫画とアニメを楽しむつもりでいる。
椅子に座って机に置いた、パソコンに向き合う。
最近お気に入りの探査者チャンネルを見ながら、スマホでソシャゲをプレイするぐーたら生活。懐にはアイが収まって、俺の真似をしてパソコンを眺めている。
この子もやはり元々はモンスターだったからか、ダンジョン探査動画に興味津々で楽しそうに見ているな。他にも探査者向けの戦闘技術動画とか、有名探査者同士のコラボレーションとかにも夢中だ。
なんなら贔屓の探査配信者がいるみたいで、その人のゲーム実況動画をリーベや優子ちゃんと一緒に見てたりするね。
うん、どこからどう見てもミーハーです本当にありがとうございました。
「きゅ〜きゅ〜。きゅきゅきゅ〜きゅきゅ〜」
「ご機嫌だなあ、アイ」
「きゅう!」
頭と尻尾を揺らして鼻歌まじりに動画を見る、アイを撫でながら言うと、甲高く一鳴きしてから俺のほうを見て笑った。
うーん、めっちゃご満悦。かわいい。うちの家族が首ったけになるわけだわ。
この家に来てまだ日も浅いながらも、アイはすでにうちの家族全員から、溺愛と呼ぶことすら控えめなレベルで可愛がられている。
元より可愛いもの好きの妹ちゃんと父ちゃんはもちろんのこと、母ちゃんまで初孫が何か? ってくらい可愛がっているレベルだ。
アイのほうもそんなふうにして愛されているもんだから、完全に家族に懐きまくっている。幼いながらもそれなりの知性があるゆえか、最近はちょっとした家事手伝いなんかもしているほどの馴染みぶりよ。
「きゅっきゅ、きゅきゅー。きゅ〜」
「おお? どうした、やけに甘えてくるなあ」
「きゅ〜ぅ〜」
もっとも、このように頭を擦りつけて俺に甘えてくるあたり、この子にとっての一番はどうやら依然、俺のままらしい。一応救われた形にはなる相手だからな。それもそうなるもの、なんだろうか?
おかげで優子ちゃんからはズルいと連呼されて悲しい、とてもつらい。あの説明会から徐々に不安定でなくなってきたのは非常に喜ばしいんだけど、それに伴って兄離れが加速しているきらいがあるのが何よりつらい。
「きゅー?」
「なんでもないよ、アイ。いいこいいこ」
「きゅきゅっ、きゅっきゅ!」
シスコン全開な俺ちゃんの寂しさを感じてか、アイがどうしたのと聞いてくる。人を思いやれる、優しくて暖かい子だ。
その頭を撫でてやると、やはり喜びの鳴き声をあげた。子どもができたらこんな感じなのかもなあ。かわいい。
さてさて、とアイを可愛がるのもそこそこに動画を見る。今、見ているのは探査者グループとしては異例の人気を誇る"カレッジサーチャーズ"という集団によるダンジョン探査配信だ。
大学に在籍しながらも探査業をやっている、いわゆる大学生探査者の人たちによって組織されているらしく、国内ではかなり大規模な学生サークル連合だとか。
本部を首都に置いて、日本全国に支部が山とあるほどなんだけど。今回見ているのは俺の住まう地、関西を拠点とする支部の動画チャンネルなわけだった。
「俺も大学に進学したら、ここに加入するのかなあ」
「きゅう?」
「……いや、ないか」
一応、大学にまで進学するつもりではいる俺だけど。もしどこぞかの大学に入学したとして、この"カレッジサーチャーズ"に加入して活動するかというと、たぶんないなと考える。
というのも、どう考えても付随してくるだろうしがらみのあれこれに対応できそうにないのだ。
ただでさえ普通の探査者とは完全に別物になってしまっているステータスを、不特定多数の集団の中で活かせる気がまったくしない。
一から十まで意味のわからん俺のステータスなんてバレたりしたら、変な目で見られ弄られネタにされ、場合によっては除け者とか排除とかされかねないしね。
そして何より、これが一番の問題なんだけど……ストレートに言うけど、俺にこんなパリピの群れに混じっていくのは無理だ。
混じっていくのは無理だ。大事なことなので何回でも言うね、無理です。
「どう見ても陽キャの、陽キャによる、陽キャのためのグループだもんな怖ぁ……」
動画内では髪を金やら赤やら茶やらに染めたお兄さんお姉さんたちが、ことあるごとに声を揃えてなんかウィッシュ! とかうぇーい! とかやっている。
陽気に笑ってモンスターを倒し、戦闘中でもポーズを決めたりコントをしたりとまあ、やりたい放題だ。
それだけ実力がある集団ってことだし、パフォーマンスのために体を張っていく姿はすごいと思う。
たぶん日頃からちゃんと探査業をこなした上で、しかも動画配信用の動きや演出も練習とかしてるんだろう。頭が下がる話だ。
それだけにもし加入したとして、あれと同じノリを俺ができるのかと考えると、心の底から無理ですという答えが、頭の中にこだまするわけ。
だからもし、大学進学を果たしたとしても。やっぱり俺は今の感じで活動するんだろうなと、そんな予測を立てるのだった。
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