狂信者も黙るうっかりベナウィ
部屋いっぱいのモンスターの群れを、わずか一分経たずに消滅させた香苗さん。
そう、消滅だ。倒して光の粒子に変えたとかそういうレベルではない、完全に彼らの身体を崩壊させて分解させて消滅させ、文字通り塵一つも残さなかったのだ。
問題なく倒し尽くすだろうというのは予想していた俺たちも、さすがにここまで圧倒的な光景を見ることになるとは思いもよらず、呆然として彼女の話を聞いていた。
「思ったとおり、というほど確信していたわけではありませんが……」
S級探査者としての圧巻の実力を見せつけた彼女が、なんでもないことのように涼しげに口を開いた。スーツについた少しの汚れを手で払い落としつつ、口角を上げて上機嫌に語る。
「プリズムコール・ソーラーレイを習得する際に鍛えた出力の調整技術は、《光魔導》の威力そのものを大きく底上げしてくれていますね」
「い、いい、威力を弱めるための、修練が……!?」
「武術を治めるあなたにならご理解いただけるはずです、ランレイさん。無駄を削ぎ落としてその分、注力すべきところに注力する。パワーコントロールとはすなわち、己の技への理解を深めることなのです」
いつもの挙動不審だけじゃない。あんまりな威力に心底から驚愕と畏怖を覗かせて、尊敬さえ感じさせる興奮気味の態度でランレイさんは質問した。それに対して、至極冷静に答える香苗さん。
たしかに、技一つとっても余分な力は削ぎ落とすのは基本中の基本であり、だからこそ何よりも難しい部分ではある。
余計な動作や行動を省き、最短手での最適解を導く。どんなジャンルのどんな領域であれ、突き詰めれば達人と呼ばれる人たちはそこに執心していく傾向にある。
近い例で言えばマリーさんとか典型だろう。極限まで無駄を削ぎ、かつて使っていた名刀さえ手放し、より便利に使える仕込み杖を用いていた彼女の居合抜は、まさしくパワーコントロールの極地の一つに達していたようにも思えるな。
「な、なるほど! 星界拳にも色々、無駄をなくすためにやらなきゃいけない苦行があります! お、おおおなじですね、私たち! えへへへ!!」
「苦行!? い、いえあの。私はそこまでのことはしてませんので。同じにされるとちょっとその、遠慮させていただきたいと言いますか……」
「!?」
ガビ~ン!? みたいな顔をしてムンクの叫びみたいになってるランレイさん。
まあ、嬉々として苦行とか持ち出して同類認定してくるのはなあ。さすがの香苗さんも顔がひきつってるし。ていうか何をさせてるんだよ星界拳。何をやらされてるんだよシェン一族。
ヴァールが戦々恐々と呟く。
「発端に関わったワタシが言うのもなんだが、シェンの血族は一体、どれだけの無茶をしているのか……ランレイほどの者に苦行と言わしめるなど、尋常でないぞ」
「二重人格じみた豹変ぶりもそのへんの苦行が関係してたりしたら、闇ですよねかなり……」
星界拳とシェン一族の成立にも、大きく関与している者ですらこの怯えよう。アンジェさんが恐ろしい推測を立てているのもあり、余計にシェン一族の授業内容が恐ろしいものに思えてくる。怖ぁ……
と、みんなして星界拳に戦慄している中でリーベが割って入った。凍り気味の空気を溶かすように、明るい笑顔で言ってくる。
「そ、それよりそれよりー! すごかったですねアーク、えーとディザスターとアーク?」
「アークキャリバーですね。アークディザスターと併せ、私の《光魔導》の中では最大級の威力を持っているはずです。ソーラーレイ開発で身につけた出力調整技術をすべて、火力に振ってみた結果生まれた新技ですよ」
ナイスな話の戻しぶりだ、リーベ! 闇深そうな星界拳のあれこれから離れ、香苗さんの新技についてみんなの意識が向く。
プリズムコール・アークディザスターとプリズムコール・アークキャリバー。見た感じ範囲攻撃と単体攻撃って感じなんだが、アークキャリバーは大きな剣を象る都合上、ある程度の範囲内なら薙ぎ倒したりできそうだな。
そして何より、特筆すべきはこの二つの技の威力の高さだ。繰り返しになるけどモンスターを粒子化させる前、つまりは倒す前に消し飛ばすなんて、よほどの威力じゃないと不可能な芸当だ。
大抵の場合、倒せば勝手に消えるんだから消し飛ばす意味なんてないからね。だから、そんな意味のなさすら関係ないとばかりに消滅させる火力だったことがシンプルに驚きなんだ。
心底から感服して、俺はこう言う他なかった。
「まさか香苗さんが、ベナウィさんみたいな方向に行くとは思いもしませんでした。お見事です」
「えっ。いえ、あの。なぜベナウィさんと同じみたいに言うのですか、公平くん?」
「だって今の技、やってることの規模と範囲をもうちょい伸ばしたら《極限極光魔法》ですよ?」
「…………あっ!?」
今やっと気づいたみたいに、香苗さんが大声をあげて愕然としている。
そう。魔導とか魔法とかのスキルを、火力方面に伸ばしきった極地にいる人を俺たちは、すでに知っている──ベナウィ・コーデリア。
知的でクールに見えるけど酒好きで遅刻魔の破天荒なS級探査者な彼の、常軌を逸した威力と範囲のスキル《極限極光魔法》こそ、香苗さんのさっきの技の行き着く先と言える。
ていうか床とか壁のあちこちが、塹壕でも掘ったみたいに拉げたオブジェになっちゃってるあたり、もうこれは0.6ベナウィさんくらいにはなっているんじゃなかろうか。
そのことを指摘したら、香苗さんはショックを受けたままそれでも呆然と、呻いた。
「…………ダンジョン破壊の常連と同じ扱いはされたくありませんね。公平くんには特に」
「本人が聞いたら泣いて浴びるようにお酒を飲みますよ、きっと」
「飲ませればいいでしょう、そもそもこの場にいないですし! ああ、できそうだからとつい、恐ろしい技を開発してしまいました……息をするようにダンジョンを半壊させる探査者扱いは勘弁です。この技は封印します。封印!」
どんだけだよ。キッパリと即断即決で技の封印を決める彼女にこっちがドン引きだ。
悪い人じゃないんだけどね、ベナウィさん。火力のコントロールが無茶苦茶なのだけが、なあ……
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