あなたの称号、なんてーの?
2024/01/08追記
普通の探査者の初期称号を《ダンジョン探査者》から《ノービス》に変更しました
「大ダンジョン時代ヒストリア」の設定と齟齬がないよう擦り合わせる形での措置となります
ある日の放課後。学校も終わって、学生たちは思い思いにプライベートを満喫している時間帯。
俺は香苗さんと二人、組合本部にある会議室にて向き合っていた。俺がデスクに座り、香苗さんが前方、ホワイトボードの前に垂らされたスクリーンの横に立ち、教鞭を持っている。
いかにも女教師って感じで、いつも着ているリクルートスーツが余計に雰囲気を醸し出している。本人も悪ノリなのか、度の入っていない眼鏡なんて掛けて準備万端だ。
プロジェクターからスクリーンへ、映像が投影される。プレゼン資料感のあるまっさらなページにでかでか、タイトルが記載されていた。
《救世主 山形公平様の所持称号について》
《作成 御堂香苗》
「それでは僭越ながら。救世主神話の伝道師たる私、御堂香苗が今回、救世主たる山形公平さんに、御自身のこれまで獲得された称号について説明させていただきます。よろしくおねがいいたします」
「……よろしくおねがいします」
凛とした面持ちで香苗さんは、今日ここにいる目的であるところの、俺の称号についてのまとめたところを発表し始めた。
そう、今回こうして集まったのは他でもない、俺こと山形公平がこれまでに得た称号について、再確認と少しばかりの議論を行うためなのだ。
先日のスタンピードの折、香苗さんが俺より俺のステータスに詳しいことを知り、正直、このままでは駄目だとおもったのだ。
探査者として最低限度、自分の得たものは把握しておく癖を身に付けたいと思ったのだ。同時に、探査者となってからここに至るまでを振り返り、新しい何かを発見できたらなお良い。
そんなことを香苗さんに伝えたところ、二つ返事でOKが返ってきた。SNSの文面上でも分かるくらい興奮していたので、たぶんその時スマホの向こう側で彼女は、またしても救世主がどうの尊みを感じていたのだろう。
まあそんなわけで、御堂香苗先生によるレクチャーが始まったわけである。発表資料まで作っちゃってもう、やる気しか見えないね。
まずは一つ目。俺が最初にスキルを得た時点での称号が表示された。
称号 まだ誰でもないあなた
解説 誰になるのかは、あなたの歩みが示すのでしょう。
効果 なし
懐かしい。いや、半月くらいしか経ってないけども。
ここから俺の探査者としての道は始まったんだ。
「最初にスキルを獲得した時点の称号がこちらですね。スキル《風さえ吹かない荒野を行くよ》があまりにも異常だったために見落とされていましたが、こちらの称号も地味ながら異様です」
「あれ? スキルはともかく、称号も?」
《風さえ吹かない荒野を行くよ》は分かる。ポエムな名称もさることながら、効果がとにかく異常極まる。
当時、組合の人に相談しにいったらまず、この効果のおかしさでたくさんのスタッフさんが飛んできたんだよな。あれは怖かった、俺なんも悪いことしてないのに取り囲まれたんだもんよ。
だからそういう意味でも、このスキルは印象深い。
だが称号の《まだ誰でもないあなた》はそこまでおかしくないだろう? 言ってしまえばすっぴん状態、効果もない、君はこれからだよってだけのものでしかない。
強いて言えば、やっぱり名称がポエミーなことくらいか? だけど香苗さんは、そここそが異様なのだと言っていた。
「一般的な探査者の場合、スキルを得た直後の称号は《ノービス》で統一されているのです。効果は同じくありませんし解説もないですが、大ダンジョン時代が始まってから今まで、一度たりとも例外は現れませんでした……あなた以外には」
「…………なにそれ。怖ぁ」
思わず頬が引き攣る。おいおい、最初の称号からしておかしかったのか。誰も言ってくれなかったし、他の探査者が最初にどんな称号を持つのかなんて気にも留めてなかった。
効果のない、完全にフレーバーテキストでしかないものにすらポエミーって一点で区別してくんのかよ。泣くぞ。システムさん、何のつもりなんだ?
リーベなら知ってるのかな?
『システムさんのご都合やお考えなんて、精霊知能には計り知れるわけないじゃありませんか。効果もないなら、ただの演出かお気持ち表明でしょうし、別に良いんじゃないですかね? 交換日記の最初の1ページに、何書けばいいか分からなかった女の子なんだなー、くらいに思っとけばいいんですって』
いや軽っ。しかもお前、かなりシステムさんにキツくない? ブラック上司にストレス溜めてるの? 俺で良ければ空いてる時間にでも話聞くよ?
『かわいいかわいいリーベちゃんはー、パワハラ上司に無理難題押し付けられてる新入社員じゃないですよー? でも、お気遣いありがとうございます。リーベちゃんポイントを10点進呈しちゃいますね!』
いらない。
一言ですっぱりお断りして、俺は香苗さんの話に耳を傾ける。
「効果自体はないため、他に異常なことはありませんが……ふふ。最初の称号一つとってもやはり、公平くんが救世主として並々ならぬ使命を背負っているのだと示しているのですよ。これこそまさに始まりの一歩なのでしょう。うふふ!」
こっちもろくなこと言ってなかった。
もう良いので次行きましょう、次!
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