勝手に消える前に消してやる系伝道師
光紛によって弱まっていく軍勢。じわじわと自分たちの身を削り侵食してくる光の粒子に、リッチエンペラーたちはもう、外敵に対処するどころではない。
慌てふためくモンスターたちを見て、香苗さんはリーベへと叫んだ。
「リーベちゃん、もう大丈夫です! ありがとうございます、これならば問題なく一網打尽にできます」
「わっかりましたー! もうちょっと踊っていてもよかったですけどねー《空間転移》!」
これ以上の支援は不要との言葉に、天使のような光翼をはためかせた精霊知能はすぐさまスキルを発動する。《空間転移》……そちらからあちらへ。遠く離れた2地点を繋げるスキルだ。
人が一人通れるくらいのワームホールが空いた。リーベの眼前と、俺の隣と。そうして彼女が穴を通れば、あっという間に室内上空から俺たちの元へ、その身を転移させていた。
まさしく瞬間移動。マジックさながらの奇跡の光景に、アンジェさんが驚きを露にした。
「え、え!? 《空間転移》って、ウソ……本当にあるんだ、そんな瞬間移動のスキル」
「へっへーん! どうですリーベちゃんの素敵なスキル! 精霊知能の中でも優秀なリーベちゃんですからー、このくらいはー、お茶の子さいさいなんですよー!」
「まあ……優秀ではあるのだろうが。でなくばアドミニストレータ計画を主導する立場になど据えられまい」
これ以上ないってくらいドヤ顔をかますリーベに、ヴァールは苦虫を噛み潰したような、微妙な表情でしかし、その優秀さを認めている。
普段のノリを見ているからか、認め難いんだろうなあ。アンジェさんもランレイさんも、なんか胡散臭いものを見る目をしているし。
リーベがこれでいて、精霊知能としてはかなり上位のほうだってのは事実なんだけどね。普段の振る舞いからだろう、納得されにくいのは間違いない。
普段の行いって大事なんだねと、俺もなんだか複雑な気持ちになりつつも香苗さんを見た。こちらのほうにリーベが離脱したのを確認して、その安全が担保されたことに一つ頷き、そしてモンスターたちを見る。
おもむろに右腕を頭上にやり、呟く。
「せっかくフォローいただいたのです。あまり時間をかけず、大技で一掃としましょう。《光魔導》──」
彼女の代名詞たる《光魔導》の発動だ。この世にたった一人、御堂香苗だけの現象である虹が、ダンジョン内にアーチを描いて現出する。
軍勢の端から端まで覆うような七色の輝き。幻想的な煌めきをも見せるその虹は、人々にとっては希望であり、モンスターにとっては絶望そのものだろう。
永らく君臨していたA級トップランカーから、いよいよ世界の頂点たるS級へ。探査者として極みへと登り詰めた天才の、大技が今、放たれる。
「──プリズムコール・アークディザスター!」
瞬間、架かる虹が一際強く輝きを放った。七色の識別が難しくなるほどの白色光が、俺の視界を遮る。
思わず手で目を覆いながらも、明滅する世界の中でたしかに俺は見た。
──モンスターたちが、犇めく軍勢が、次々と消滅していく。
倒されて光の粒子へと変換される、といういつもの現象ではない。別の要因によって、生きたまま消されていっている。
すさまじい勢い。なんなら部屋内の、土塊でできた床や壁も刮げるように所々が消滅し、拉げて形を変えていくほどに。どうしようもない破滅が、眼前を埋め尽くしていた。
そんな恐ろしい威力の技を、香苗さんが発動してから10秒と経たず。
リッチエンペラー以外のアンデッドたちはすっかり、塵一つ遺さず消滅してしまっていた。
「ぐげごが……!? ぎぎぐぎががががががが!?」
そしてそのリッチエンペラーも、間もなく消えていこうとしている。やつだけはA級モンスターだからか他より永く耐えているが、それでももう半身はない。
そのままでも勝てるだろう。そんな状況でも油断なく、さらに香苗さんは右手をリッチエンペラーへと向けた。
「終わりです。プリズムコール・アークキャリバー!!」
追撃、技の発動。宣言ともに新たな虹が、香苗さんの右腕から敵へと、すさまじい速度で放たれた。
アーチ状でなくまっすぐとした虹色の剣の形をとり、その先端部分だけを遠く遠くに延ばし──
「ごが──!?」
そのままモンスターたちの頭部を貫いた。
完全に致命傷だ。リッチエンペラーが、わずか残った頭部だけを光の粒子へと変じていく。
つまりは頭部以外、アークディザスターで消滅しているってことか。
「怖ぁ……」
「怖ぁ……」
俺とリーベが、異口同音に呟いた。
香苗さんの言う"大技"の、あまりの威力に開いた口が塞がらないとはこのことだ。
モンスターの亡骸は通常、光の粒子へと還る。これはオペレータが、モンスターの身体が残ることで心理的に負担に思うのではないかという懸念から、システム側によって講じられたオート分解機能なわけなんだけど……
まさかその機能が発動するまでもなく消滅させてしまうとは。いや消滅とはいっても、モンスターの魂まで残さず消し飛ばしているわけではないのはわかるんだけども。
「ふう……終わりました。お疲れさまです、みなさん」
室内はすっかりもぬけの殻。あれだけいた軍勢が、ものの一分と経たずに消え果てていて、広い体育館くらいもある空間はがらんどうそのものだ。
この光景を生み出した香苗さんが、一息ついて笑顔で戻ってくるのを俺たちは出迎えながらもすさまじい実力に驚いていた。
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