なんでもできるよリーベちゃん
「《防御結界》でミッチーをしっかり保護してーっと。リーベちゃん、いっきまーす!」
香苗さんを、スキル《防御結界》によるドーム型の半透明防護壁で外界からシャットアウトしてから。光翼を生やしたリーベが地面を飛び立った。
すなわち空を飛んだのだ。波打つようなアンデッドの軍勢の上空を軽やかに舞い、天井スレスレのところでピタリと静止する。
「《飛行》スキル? 羨ましいわねー……でもあんな光の翼、出るものなのかしら?」
「し、知り合いに何人か《飛行》を持つ人がいるけど、翼はなかった、かも……」
アンジェさんとランレイさんの、羨望混じりの疑問。
空を飛ぶためのスキル、そのものズバリ《飛行》スキルは、獲得したいスキルランキングで毎年上位にくるほど探査者たちに人気のスキルだ。
なんなら一般人にとっても、探査者という存在に夢を抱かせる大きな要因の一つになっているほどだ。それゆえかリーベが今、自由に空を飛び回っていることについてもスキルによるものと認識したみたいだね。
実際のところ、これは精霊知能としての彼女が持つ個性、特性の一つなためスキルは関係なかったりするんだけども。アンジェさんやランレイさんからはスキルに見えてもおかしくないし、精霊知能の生態なんて語るようなことでもないので、特に訂正はしないでおく。
どのみち空を飛べるってことに違いはないからね。ヴァールも特に反応はしないため、彼女も同じ結論に達したんだろう。
「さぁーてさて、いきますよー! 《破砕光紛》!」
考えている間にリーベの攻撃が始まった。状況開始だな。
光翼が大きく長く伸び、一度、二度と標的たる軍勢に向けてはためいた。すると輝く光の粒子が大量に放たれ、リーベの直下へと降り落ちていく。
雪のように舞い降りる光紛。一見美しいそれだが、モンスターに触れた途端……敵の身体が一気に変色した。スケルトンの骨にはヒビが入り、ゾンビやグールの肉体は爛れていく。
《防御結界》にて護られている香苗さんを除いた、部屋中のあらゆるモンスターたちがそのような有様だ。
軍勢の主たるリッチエンペラーですら例外でなく、目に見えて腐り、弱り、ダメージを負っていく部下たちと己に、ひどく狼狽した様子でいた。
「げぎがぐごがぎげぐごがご!?」
「うわー、グロい……え、毒なのあれ? あんなに綺麗なのに」
「う、美しいからこそ怖い、のかな。リーベちゃん、すごい……」
煌めく粒子の、見た目の麗しさとは裏腹の効果のエグさにドン引きしているアンジェさん。反面ランレイさんは、その美しさやらリーベの能力にひたすら感心しているらしかった。
まあ、最終決戦が終わってからのあいつはひたすら遊び倒していて、挙動の愉快なオモシロマスコットくらいなもんでしかなかったからね。
それがまさか空を飛んで恐ろしい粒子を撒き散らす怪獣だったなんて、思いもしなかったんだろう。気持ちはすごーくわかる。
「ふむ……後釜のスキルは《医療光粉》と《空間転移》しか見ていなかったが。このようなものもあるのか、万能だな」
「お前と比べて明らかにサポート寄りだろ。《破砕光紛》に関しても、威力も足止め程度が限界だしな」
「そうなのか? だが手札が多いのはいいことだ。鎖を振り回すしかできないワタシとは、そうした点で区別化されているわけか」
同じ精霊知能として、ヴァールがあれこれと考察している。自分と比べてリーベのほうが、多種多様な場面で様々な役割を担えるところに着目したみたいだな。
《破砕光紛》にしろ《医療光粉》にしろ、ヴァールの《鎖法》と同じでワールドプロセッサがリーベ専用にと創り上げたスキルだ。
それらはすべて、アドミニストレータたる俺のサポートに特化するように構築されている。つまりは想定されていた役割が、最初から最後までひたすら支援オンリーなんだよね。
「邪悪なる思念と戦うにあたって、スキルをフルパワーで発動すると俺の身体が崩壊していくからさ。それを無理矢理にでも阻止するための《医療光粉》ってわけだ」
「《破砕光粉》のほうは……あくまで自衛程度か。敵を足止めして、その場から立ち去るために留めた威力のようだが」
「加えて三界機構戦において、決戦スキル保持者をサポートするための意味合いもある。実際、彼らの自己再生を阻害する役割をいくらか担い、果たしてくれたしな」
アドミニストレータ計画遂行において、最も邪魔だったのは言うまでもないが天地開闢結界と三界機構だ。
それぞれ天地開闢結界は香苗さん、三界機構は対応した三人──マリーさん、リンちゃん、ベナウィさん──の決戦スキル保持者で対応したわけだが……リーベのスキルはそんな彼らを支援するのにも使われた。
特に断獄戦においては《破砕光紛》が、彼の持っていた超再生能力をいい感じに阻害してくれていたのを俺は見た。その甲斐もあり、リンちゃんは断獄に決戦スキルをヒットさせるに至ったわけだね。
そのへんの説明に、ヴァールはなるほどと納得がいった様子で頷いた。
「どこまでも、アドミニストレータ計画遂行のための支援役というわけか……後釜の、任務達成への執念には驚かされる」
「見かけも中身も基本、ゆるキャラではあるんだけどな。それでもあいつはやっぱり、ワールドプロセッサとともに大ダンジョン時代を打破しようとした、責任者なんだよ」
「いぇーい! いぇい、いぇいいぇーい! かわいいかわいいリーベちゃんの素敵な鱗粉、とくと味わってくださいー! ピース、ピース!」
空中ではしゃぎまくってるアホの子リーベちゃん。
けれど、その双肩にはかつて、重すぎるほどに重い使命がのしかかっていたのだ。
そのことをヴァールと二人で感じ入り、俺たちは静かに彼女を見ていた。
ブックマーク登録と評価の方よろしくおねがいします
各書店様で書籍1巻の予約受付が始まっております。よろしくおねがいします。




