伝道師とアイドルの最強タッグ
さていよいよ10階層目、最深部に到達だ。残すところの部屋もわずかに3つ、モンスターのいる部屋は2つばかり。
やはり最後まで土塊の道と部屋の繰り返す、A級探査者界隈で言うところのスタンダード構造らしく、延々続く道を歩いていけば、やがて部屋にたどり着いた。
当然そこにいるモンスター、なのだが。
「あちゃーっ! ここに来てまーたリッチエンペラーかあ!」
アンジェさんがぺしりと自分の頭を叩き、嘆く。コミカルな動作だが眼の前の光景は割合、シリアスだ。
このダンジョンに潜って最初に出くわしたモンスター、リッチエンペラーが再度のご登場ときた。当然のごとくヤツの周囲にはスケルトンやらゾンビやらが、これまたとんでもない数犇めいている。
もうちょっといたら部屋に入るどころか、道にまで溢れてきそうなくらいだ。満員電車かな?
「まいったわね……私ももうちょっとでなんか掴めそうなんだけど、さすがにここで変に長引かせるのもね」
「もう少しでダンジョンコアだ、少しくらいなら構わないとは思うが」
「元々20時目処でゴールって予定ですから。ご厚意はありがたいですけど、なるべく予定に沿わせるのもプロの仕事ですしね」
肩をすくめてヴァールにそう返すアンジェさん。軽くながらも決めていた予定時刻になるべく間に合わせようとしている姿が、なんというかプロフェッショナルの流儀を感じさせる。
ダンジョン探査は別にタイムアタックではないのだが、目標と定めたならばそれに向けて最善を尽くす、ということなんだろう。
明るくて優しいんだけど、こういうところの姿勢はA級探査者としての矜持を窺わせる。軽いノリだけど仕事はしっかりプロってのは、カッコいいよなあ。
そんな彼女の言葉に、香苗さんが微笑んで頷いた。
「そうですね。上位探査者だからこそ、我々は常に目標達成に向けての努力を惜しまず継続していくべきなのです。アンジェリーナ・フランソワ、立派な姿勢ですよ」
「S級探査者様に言われるとむず痒いわねー。ま、とにかくこいつらは頼むわよ香苗。あんたならこいつらなんてお茶の子さいさいってやつでしょ」
「どこで覚えたんですか? そんな言葉……」
首を傾げつつも香苗さんは部屋へと足を踏み入れた。瞬間、リッチエンペラーとその軍勢が一斉にこちらを向く。ホラーな光景だよな、割と。
──と、もう一人室内に駆け込んだ。香苗さんの横に立ち、何やらドヤ顔で腕組みしている。
いつの間にやら光の翼を顕現させて、地面から数cmほど離れて宙に浮いているのは、俺の相棒。
「リーベ? 何してんの」
「ふっふっふー! ミッチーのサポートですよー!」
精霊知能リーベ。久々の戦闘モードで戦線に躍り出たうちのゆるキャラ兼自称アイドルマスコットが、なんのつもりか不敵な笑みとともにモンスターの群れと相対していた。
俺だけでなく一同、びっくりして問いかける。
「えっちょっ!? 何やってんのリーベ、浮いてる!? ていうか戻んなさいよ危ないわよ!?」
「あわわわわ!? り、リーベちゃん危ない!」
「後釜……?」
驚愕と、困惑と、不安と。唐突なことにアンジェさんもランレイさんも慌てているし、ヴァールは目を丸くしているし。
香苗さんですらえ? って顔で見ているのを、リーベはふんすと鼻息も荒く答えを返す。
「かわいいかわいいリーベちゃんもー、ここまで来たら一回くらいはいいところお見せしたいですからー! ミッチーのサポートとして、バッチリ! 頑張っちゃおうと思いましてー!」
「サポートと言われましても……回復する必要性は今のところ、感じませんよ?」
「《医療光粉》と《空間転移》だけがリーベちゃんの持ち味じゃありませんからね!? ね、公平さん!」
そう言って俺に同意を求めてくるリーベ。
まあたしかに、リーベの役割は他にもあるっちゃあるんだけど、それでもあくまでメインは回復スキルと転移スキルによるサポートだろうに。
他のみんながなんだかんだと活躍してるのに、ずっと解説と戦闘終了後の回復役に徹している状況に飽きたんだな……と、じっとりした目を向けるとど下手くそな口笛を吹いてそっぽ向いちゃったよ。まったく。
ため息がてら、おもむろに言う。
「《破砕光粉》か。さっきのベリアルダンデライオンよろしく、触れたものを腐食させて崩壊させる鱗粉を放つスキル。たしかに攻撃的ではあるけど……短期的に見れば結局、敵の防御力を下げる補助用だろうに」
「だからですよー! リーベちゃんがこいつらの防御力を下げて、そこをミッチーの虹色総天然色ビームで一網打尽! ね、いい考えでしょ?」
「戦術としては、理解できるか……」
案外理に適った作戦なんだが、そもそも香苗さんならそんなデバフ、あってもなくても問題なくこんな軍勢蹴散らせてしまえるのがね。
広範囲大火力遠距離射程が売りの《光魔導》ゆえに、大雑把ではあるけれど多勢相手には滅法、強いのだ。まして使用者がS級探査者にもなろうっていう天才ならばなおのことね。
リーベもそれはわかっているようで、困ったようにこちらを見ている。
まあ……俺としては邪魔にならなければいいかなとは思うけど。このへんはもう、当の香苗さん本人に判断してもらうか。
「ええと、香苗さん。こう言ってますが、どうですかね」
「他ならぬ公平くんがそう仰るのでしたら、私としては問題ありませんよ。せっかくのこうした機会ですから、伝道師とアイドルのタッグで一緒に戦いましょうか、リーベちゃん。攻撃の射線に入らなければ、好きに動いていただいてなんの問題もありません」
「よっしゃー! リーベちゃん頑張りますよー!!」
お。香苗さんの快諾。まあこの人もプロ中のプロだし、少しでも戦闘に有利になると判断すれば積極的に受け入れるか。
許可が降りたことに、リーベが思わずガッツポーズを決めた。うん、マジで頑張ってくれよ。
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