地下ダンジョン帝国
ランレイさんの覚醒も経て、ダンジョン探査はいよいよ大詰めを迎えての9階層。
このダンジョンは全部で10階構成らしいので、つまりあと1階下に降りれば最奥、ダンジョンコアにたどり着けることになる。
道中の敵はランレイさんが喜び勇んで仕留めていった。《闇魔導》による人型の威力は絶大で、要はランレイさんがもう一人いるのだ。攻撃にしろ防御にしろ、彼女が打てる手が倍になったと言えるのだし、そうなればできることの範囲も劇的に広がったのは当然のことだった。
「双魔ァァァッ! 太極ッ星界けぇぇぇんッ!!」
「ぐぎぇぇぇぇ!?」
一人と一体の蹴りが、モンスターの胸元へと叩き込まれる。鋼鉄さえも斬り裂くまさしく斬鉄の脚はそのまま敵を貫き、いともたやすく光の粒子へと変換させた。
デーモングレート……A級モンスターの中では下位の強さとされるが、群れを成すと対処するのに手を焼くという。今回は一匹だったので助かったが、場合によっては危なかったかもしれないな。
そんな化物を容易く仕留めた彼女を見つつ、俺は隣のリーベに話しかけた。
「すごいな、ランレイさん……水を得た魚のように活き活きとして」
「快進撃ですねー! リーベちゃんも見てて、気持ちいいですよー! ドゥクシドゥクシ! モンスターは死んだ! みたいなー!」
まるでカンフー映画さながらのキレのいい動きで──ランレイさんもそうだが《闇魔導》の人型もだ──敵を薙ぎ倒して進む様は、たしかに爽快感がある。
アチョーアチャーと怪鳥音ごっこをするリーベをよそに、今度は香苗さんが感心した様子で彼女を見ていた。
「あれほどの技、まさか即興で考えついたものとも思えません。おそらくは元々、二人で放つ合体技が星界拳にはあるのでしょうね」
「……そういえばこないだのプールダンジョンでも、リンちゃんとランレイさんで合体攻撃を仕掛けてましたね。なんかこう、二人がかりで踏みつけてました」
「あの手の技は二人の連携が取れてはじめて、その威力を何倍にも何十倍にも引き出せるものです。その点を言えば今のランレイさんは完璧でしょう……もう一人の自分と連携しているわけですからね」
解説に、俺は改めてランレイさんを見た。闇魔導の人型と二人で向き合い、互いに拱手をして会釈している。
たとえ自分自身のスキルで生み出した分身でも、ともに戦えばそれは敬すべき友ということだろうか。星界拳の礼儀作法というか、律儀さを感じ取れる所作だ。
アンジェさんとヴァールが彼女に近寄って、今の戦いの振り返りをはじめた。元より友だちのアンジェさんもそうだが、ヴァールがやけにイキイキとして、ランレイさんにあれこれ話しているのがちょっと面白いな。
「んー、いいわねランレイ! でもちょっと打点が、分身のほうとズレてたわよ。そのへんは調整できそう?」
「ん……うーん。練習しないと難しい、かも。技を出しながら《闇魔導》の動きに干渉するの、結構難しくて」
「だろうな。基本はほぼオートだろうが、細かいところに手を入れるとなると慣れが要るだろう。ふふふ、まだまだ修行だなランレイ」
「は、はい! 精進しまぁす!!」
ほとんど言ってることが師匠なヴァールに、これまた弟子っぽいノリで反応するランレイさん。アンジェさんがうんうんと嬉しそうに頷いているけど、どういう立場からの頷きなんだろうか、それは。
さておき、いよいよ最下層に至る階段が見えてきた。事前調査の資料から推測される部屋数の残りは3、うち一つはダンジョンコアのある最奥部であることから、あと2回モンスターを倒せば事実上、このダンジョンは踏破できたことになる。
時間は19時40分頃。これなら20時過ぎにはダンジョンから脱出できるな。
半日洞窟の中ってのは、案外精神的に負荷がかかるんだなあ。ここまで大規模なダンジョンが初めてなら、ここまで長時間の探査も初めてだからちょっぴり気疲れがある。
「これでもA級ダンジョンの中では小さいほうなんですね……」
「そうですね。慣れてきたらどうということはありませんが、最初はやはり疲れるものですからね。これが大規模なものになると、階層は50を超え、部屋数も数百を数えるものさえあります」
「そんなに!?」
怖ぁ……もう地下帝国じゃん。なんだよ地下50階て、神話なんかでよくある冥界とか黄泉の国とかそんなんじゃん。
いやまあ、実際のところダンジョン内部の座標はシステム内の専用領域にあるため、現実世界でないって意味ではオカルトチックなのは間違いないんだけどね。
「さすがにその規模にもなると探査も数日から一週間以上かけての長期間になってきます。記録では年単位、100人規模で探査を行ったとんでもない規模のA級ダンジョンもあったとか」
「えぇ……」
「一大事業ですねー……」
もうそこまでくると想像もできない。一体地下何階まであったのか、部屋もいくつあったのやら……
『あのさあ……そのへんの階数とか部屋数の上限値設定くらい、なんで最初にやっとかなかったんだよ君んとこのワールドプロセッサ。今はもう無理そうなのはこないだの話からなんとなく察せるけど、初期の時点でそうなることくらい想定しときなよ……』
心底から呆れた声音で、脳内からアルマが呟いてくる。
いや、まあ……そこはなんとも、コマンドプロンプトたる我が身からは言えない。
何か思惑があったんだとは思うけど、なあ。
このエピソードが終わるまであと10話くらいなのですが、そこまで一日3回投稿します
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