一人で百歩進むより、みんなで一歩進む道
超高火力による一点突破。いわゆる、ゴリ押し。
ヴァールが放った奥義、ギルティチェイン・パニッシュメントがどのように消化液のバリアを攻略したかといえば、そういうことになってしまうだろう。
つまるところ、バリアもガードも何もかもぶち抜いてストレートに倒すという、非常にシンプルな手法こそが彼女自身の戦い方だった。
「《鎖法》は左右の腕で用途が異なる。広範囲に複数同時的に攻撃を行う右腕と、単体相手に大火力で殲滅する左腕とで、使用に適した状況が変わるのだ」
花の部分を完全に吹き飛ばされて、ベリアルダンデライオンは光の粒子となって消えていく。完全に決着がついたのだ。
スキルを解き、鎖が消えていく中でヴァールは俺たちに向けて説明していた。彼女が持つ《鎖法》の性質と、それを用いた戦法についてを。
「そして左右どちらかの鎖を使っている時、空いているほうを利用して瞬間的な強化を行うこともできる。これは本来の用途にはない、いわば隠された効果というやつだがな」
「今の技は、その効果で強化を?」
「ああ。右腕に宿る鎖のリソースを、左腕から射出していたギルティチェインに上乗せした。一瞬ではあるがおそらく、通常の10倍ほどは火力が出ていたはずだ」
「それでパニッシュメント、ですかー……」
リーベが呆れたような、感心したような声を出す。いや実際、俺も今のゴリ押し火力にはびっくりしている口だ。
消化液のドームは生半な威力では突破できなかった。それは間違いない……触れた瞬間鎖が崩れ去っていくような防御、貫くとかそれ以前の問題だ。
今回、相対したヴァールにとっては非常に相性の悪い敵だったし、本来であれば今いるメンツで言うと香苗さんか俺が相手するのが一番リスクがなかっただろう。
だが、それでも彼女は打ち勝った。瞬間火力10倍なんて、どこぞのポエミースキルを彷彿とさせるやけっぱち倍率で一息にバリアを突破、トドメへと至ったのだ。
《鎖法》の鎖がスキルによる、一種のエネルギー凝縮体であることを利用しての強化方法。みごとに成功させたのが素晴らしいし、そもそも考えついたこと自体がすさまじい。
俺は手放しで賞賛しつつも問いかけた。
「すごい技だしすごい発想だけど……隠された効果というあたり、スキルの説明とかにもなかったのか?」
「ああ。今の強化法は完全にワタシオリジナルだ。実際にできてしまえるあたり、想定されていなかったわけではないと思うが」
「……いやー、たぶん想定してなかったと思うぞ、そこまでは」
「何?」
軽く目を見開くヴァールに苦笑する。精霊知能から見ての神のような、全知全能に近しいのがワールドプロセッサなのだから、なんでも想定してそうってのはわかるけどね。
推測になるけど、あいつさえ考えてなかったはずだ、今の強化方法は。
「武器からしてスキルで調達するなんてのは、世界広しといえど《鎖法》だけだ。お前と、あとソフィアさんのためだけに拵えられたワールドプロセッサ謹製のスキル、それがさっきの鉄鎖なわけだな」
「あ、ああ。だから、仕様についてはあの方が誰より詳しいはず……」
「あいつの性格上、そういう抜け道的なのは用意しないよ。だから香苗さんの《光魔導》プリズムコール・ソーラーレイを見て、俺だって驚いたんだから」
「わ、私の?」
急に引き合いに出されて香苗さんが焦ったように自分を指差す。
そう、ワールドプロセッサのスキル製作における理念と例外は大体、香苗さんの《光魔導》が体現しているのだ。
本来戦闘用でしかないスキルを、室内照明なんて非戦闘にも使える用途にまで発展させたんだからね。この人も実は相当すごいことをしているんだよ。
「《光魔導》は《光魔法》に比べて明らかに戦闘限定に作られている。分野を狭めてリソースを、戦闘用に特化させたんだ。リーベなら知ってると思うけど、あいつはオペレータ用のスキルを作る際、基本的に用途はカッチリ枠組みを決めてるよな」
「あー……複数のスキルを組み合わせての想定外は認めても、単一のスキルによる抜け道的な利用はたしかに、認めたがってはいませんねー」
「それっていうのも、アドミニストレータに比べてスキルが弱い、けれど圧倒的に数が多いオペレータの多様性を確保したいからなんだよ。なんでもできちゃう一人だけだといずれ袋小路になるって、150年前に知ったからな」
どんなに強くとも、どんなにいろんなことをできたとしても、一人きりでは必ず限界が来る。
だからこそワールドプロセッサは、大ダンジョン時代の主役たるオペレータに、数を活かした多様性を期待した。一人一人は弱くとも、集まり力を束ねればアドミニストレータ以上のことだってしてしまえる。そんな方向に持って行きたかったんだ。
「で、そこを考えると……戦闘用のスキルで戦闘が関係ない技を開発した香苗さんも、鎖を形成するためのエネルギーを強化に回す運用をしたヴァールも、ワールドプロセッサの思惑を明確に上回ってると考えられるんだよ」
「要するにバグあるいは裏技を使ってお得なことをしているわけですからねー。いやほんと、すごいですよ二人とも!」
「そ、そうなのか」
「こ、光栄です……複雑な事情の上に、我々探査者はいるんですね」
ワールドプロセッサの思惑から、探査者の強みに至るまで語ってはきたが……結局何が言いたいかというとヴァールと香苗さんはすごい! ということになる。
褒め称えられて微妙な表情の二人だが、それでもどこか嬉しそうではあるのだった。
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