真?アドミニストレータ
巨大な妖花に雨のごとく、ヴァールの攻撃が降り注ぐ。
無数の鉄鎖はその一本一本が致命的な威力を持っていて、それがまとめて爆撃してくるのだから、たとえA級モンスターといえどひとたまりもないのは間違いない。
金属が擦れる音を響かせながらも、ベリアルダンデライオンを的確に穿ち貫いていく鎖。特定有害モンスターとかいう、危険極まりない存在を相手にしてもなお圧倒的な勢いで攻めたてるヴァールの姿に、リーベは思わず唸っていた。
「あれが、先代精霊知能……ソフィアまでのアドミニストレータに寄り添い、ともに戦ってきた彼女のやりかたですかー」
「当時はそもそも受肉してなかったから、《鎖法》以前の話だったけどな。ただ、歴代の戦い方は踏襲しているようには見えるよ」
「どういうことですか、公平くん?」
冷徹なまでに攻撃を仕掛ける姿に、歴代のアドミニストレータ……すなわち俺の先輩たちの面影を見た。コマンドプロンプトであった頃の私が、身を潜めながらも見ていた彼ら彼女らの姿に、今のヴァールはどこか似ている。
香苗さんが首を傾げて聞いてくる。アンジェさんもランレイさんも同様で、いきなりなんなのって顔ながらも耳を澄ましてきた。
かつてを振り返りつつも、彼女らに俺は答えた。
「俺以前、すなわちソフィアさんまでのアドミニストレータは役割が完全に固定されていました。最終決戦の地ともなった、はじまりのダンジョン……一本道のあの場所を通って攻め入ってくるモンスターたちを、ひたすら殺し尽くすことだけが課されていたんです」
「以前に、リーベちゃんの説明でも聞きましたね……モンスターがこの世界に現出するのを阻止する、そのためだけに生きて死んだ人たちこそがアドミニストレータだ、と」
「お婆ちゃんの説明でもそのへんはよくわかんなかったけど……ソフィアさん、そんな戦いだけの日々を過ごしてたんだ」
「そ、そしてヴァールさんが、その相棒……?」
アドミニストレータについては以前にももう、リーベが語ったとおりで、なんならマリーさんやリンちゃん経由でアンジェさんとランレイさんもある程度は知っているみたいだな。
永遠に襲い来るモンスターの群れを、瀬戸際で阻止する役割こそがかつてのアドミニストレータの使命だった。それゆえ、その戦い方は自然と、ある方向へと特化していったのだ。
「大規模に、広範囲に隙の少ない攻撃を。狭い一本道でも無数に押し寄せるモンスターを食い止めるため、彼らは代を重ねるごとにそうした戦法を次々、編み出していきました。当然、そこにヴァールも一枚噛んでいます」
「つまり、ヴァールさんの《鎖法》、鎖を使った戦いも?」
「本来であれば複数体のモンスターを想定している動きです。あれこそは見事に、本来のアドミニストレータが目指していたスタイルなんですよ」
より迅速に、より大量に、より効率よく。永遠の闘争という地獄に、生きながら叩き込まれてしまった歴代アドミニストレータたちは、だからこそその戦いぶりを洗練させていった。
結局、それもソフィア・チェーホワの代で途切れてしまったわけだけど……ともに歩み続けたヴァールが、彼らの創り上げたものを今、引き継いでいるんだな。
「本来の意味で言えば俺よりよっぽど、アドミニストレータらしいですよ。今のあいつは」
「? 公平もその、アドミニストレータってやつなんでしょ? 同じようなスタイルじゃないの」
「さ、さっきも一撃で、サソリオオトカゲを二匹、同時に倒してたけど」
「あれは、どちらかといえば別口の能力ですから。アドミニストレータとは関係ないんですよねー」
アンジェさんたちの疑問も頷けるんだけど、残念ながら俺は歴代の戦法を踏襲してはいない。
同じアドミニストレータでも俺は、完全に邪悪なる思念ことアルマを殺し切るためだけに創られた存在だからな。スキルもソロ戦闘前提の構築だし、それゆえ戦闘法もタイマン特化だし。どうあがいても歴代と同じ動きはできなかっただろう。
なんならワールドプロセッサも、基本的には俺に余計なスキルを付けたくなかったはずだ。
本来なら俺のスキルって、《風さえ吹かない荒野を行くよ》《救いを求める魂よ、光とともに風は来た》《誰もが安らげる世界のために》の三つで完成しちゃってるからね。
俺個人の願いに応じて《風浄祓魔/邪業断滅》が付与されたくらいで、あとのスキルに至ってはワールドプロセッサがほとんど絡んでいない。
アドミニストレータ計画遂行においては称号効果ですらおまけで、本命は初称号獲得ボーナスを馬鹿みたいに付与することだったんだろう。
そのへん、あいつらしいというか。ことが終われば用済みってする気だったんじゃないかって疑惑も若干沸き起こるけど……コマンドプロンプトからしても本来なら、山形公平は最後には負けて死ぬのが織り込み済みだったから、そこはとやかく言える立場じゃないわな。
「ともかく。ヴァールこそが歴代アドミニストレータを受け継いだ、真のアドミニストレータと言えるのかもしれませんね」
言いながらもヴァールを見る。鎖の流星雨を降らせた彼女は、それでも少しの隙も油断もなく、ベリアルダンデライオンを見据えていた。
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