半殺し許可証
仲睦まじい様子の二人を見て、ヴァールが言った。
「信頼関係も強いか。そしてこの実力ならば、なるほど。問題なく依頼も遂行できそうだな」
「依頼?」
「ああ。いい機会だ、山形公平。あなたにもぜひ聞いておいてほしい話がある」
急になんか言い出したなと、彼女を見る。依頼とは一体なんのことだろう。もしかしてそのために今回、俺たちについてきたのか?
思えば、アンジェさんとランレイさんの実力を見たくて同行ってのもどこか不自然な理由ではあったよな、元々。なんでWSOの統括理事がわざわざ出向いてまで、二人の資質を見極める必要があったのか。
縁故ゆえのものだったとしても、大分違和感がある話だ。同じく思ったのか、アンジェさんがきょとんと聞き返した。
「あれ? もしかしてそのためについてきたんですか?」
「一応統括理事として、確認程度にはな。プレッシャーをかけるつもりはないが心してもらいたい。今回お前たちにしている依頼はワタシ単体からのものではなく、WSO理事会の総意によるものだ」
「り、り、りりり理事会の総意!?」
「おいおい……」
何やら話が膨らみ始めた。ヴァールめ、最初からこの話に持っていくための同行だったか……依頼とやらをこなせるだけの実力が二人にあるか、見極めるための。
しかも理事会の総意とか言ってるあたり、マリーさんも噛んでるなこれ。あの人、特別理事だしな。反面、シェン一族のランレイさんに目をつけた理由はいまいちわからないけど、まあ何かしらの算段があってのものなのだろう。
話の流れに注意して耳を傾ける。明るく照らされたダンジョンの部屋の中、WSO統括理事はそして、話し始めた。
「山形公平への説明がてら、お前たち二人にも今一度確認しておく。依頼内容はこの国の首都圏で今、発生しているダンジョンコアの密売についての捜査。および密売組織の潰滅と逮捕だ」
「ダンジョンコアの密売……たしか先日、香苗さん言ってましたねそんなこと」
「ええ、タイムリーですね。しかし、なぜ?」
本来全探組なりWSOなりに渡っていなければならないダンジョンコアが、どうしたことか一般に出回り始めている。いわゆる裏社会において、密売が盛んに行われているのだというのは、こないだも香苗さんや宥さん、リーベと雑談がてら話していたことだ。
なんでそんなことを? としか考えてなかったんだが、そんな話をわざわざ出すということはWSOでもかなり問題視されてるってことだろうか。見れば、ヴァールの顔も心持ち険しい。
彼女の説明が、室内に響いた。
「ここ一年ほど、密売絡みについては調査を続けていたのだがな。最近になり、組織が活動を盛んにしていると現地の調査員から報告があった」
「と、言いますと?」
「いわゆる反社会的組織とのコアのやり取りの、月あたりの回数が跳ね上がっているらしい。それに伴いやり取りされるコアの数も増加の一途を辿っており、ことここに至ればもはや、WSOとしても無視できない規模になりつつあると認めざるを得ないのだ」
「なんとまあ……」
そんな活発にコアを売り買いしてるのかよ、社会の裏側では。呆れとか怒りとかよりもまず、ひたすら疑問が浮かぶ。
ダンジョンコアなんて、一般に出回ってなんの使い出がある? 探査者が私的利用するのが精々でしかないそれを、一体なんのために欲しがっているんだ。そして何を目的に、そんなものをばら撒いているんだ。
コマンドプロンプトとしての知見を以てしてもいまいちわからないが、どのみちろくなことに使われないのは間違いない。
ヴァールはじめWSOの面々もそんな予感を覚えたから、こうして腕の立つ二人に依頼したってところだろう。
「その組織、名を"サークル"というそうだが。案の定というべきか、探査者登録を行っていない非合法の能力者によって構成されている秘密結社という報告があがっている」
「つまりはスキル持ちによる犯罪……能力者犯罪というわけですね」
「左様。それゆえ今回、アンジェリーナとランレイに依頼を持ちかけたのだ。二人は能力者犯罪捜査官のライセンスを持っているからな」
「捜査官? ライセンスって、なんですかそれ?」
首を傾げてリーベが問うた。能力者犯罪捜査官、聞いたことあるな。
たしかWSOによる国際的なエージェントで、探査者でないオペレータ、つまり能力者とだけ呼ばれる者たちによる犯罪を捜査、逮捕する役目を持つ者たちだったはずだ。
まあそれ以上は知らないんだけど。香苗さんに聞くと、彼女は一つ頷いて答えてくれた。
「能力者犯罪捜査官は、本来禁止されている人間に対しての攻撃が認められている、数少ない探査者関連業務の一つです。犯罪に及んだ能力者による抵抗も想定されているため、例外的に許可されているのです」
「……すごい危険ですね、いろいろ」
聞いてるだけでも相当、怖い話だ。探査者は人間に向けての攻撃が禁止されているわけだが、それっていうのもつまるところは簡単に、人を殺せてしまうからだ。
それに対して能力者犯罪捜査官は、その縛りを解禁されていることになる。つまり間違って人を殺してしまう可能性が、他の探査者に比べてぐんと高まる立場なわけか。
「ええ。一歩間違えなくとも殺人許可証に近い性質のある立ち位置であるゆえに、能力者犯罪捜査官にはそれにふさわしい者にしかライセンスが与えられません」
「つまり! 私とランレイは、犯罪能力者をボコボコにするにふさわしい人格があるってことなのよねー!」
「こ、こ、ここ殺さないようには気をつけてますもちろんはい! いっても7割殺しまでですはいいいい!!」
たとえ犯罪能力者相手でも、適切な加減を心得られる者にのみ与えられるというライセンス。それを得ていることに自慢げなアンジェさんだが、ランレイさん……
7割殺して。半殺しよりひどいじゃないですか怖ぁ……
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