剣客アンジェの一騎討ち
「じゃあ、今度は私がソロでやってみるわね!」
サソリオオトカゲを倒したあと、俺たちはさらに先に進んでいくつかの部屋を通り過ぎた。
基本的にアンジェさんとランレイさんが交代で戦い、それぞれの実力を俺たちに示してくれている。そして今は下階に降りる穴がある部屋、モンスターを倒すのはアンジェさんの番というわけだった。
「敵は……あれね。プラチナムアーマーか」
「それなりに手強いモンスターですね。交戦経験は?」
「三度ほど。いずれにせよ両断したわ。四度目もそうなるでしょ」
下階への穴を護るように仁王立ちする、黄金に光る鎧。うっすら見えるその中身は、靄がかった暗闇で何も見えない。
プラチナムアーマー。F級モンスターであるウッドアーマーに端を発する、通称"アーマーシリーズ"の最上級種だ。級が上がるにつれてアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールデンときて、最終的にはA級であるプラチナムへと至るわけだな。
総じて剣による鋭い攻撃と見た目どおりの高い防御、そしてやたら素早く動くことから、いずれの級においても強敵扱いされる、ある意味人気のモンスターだ。
探査者を題材にした創作物においては大体、ライバルとか強敵とか擬人化とか、場合によっては主人公になったりするほどなので、そういう意味でも探査者にとっては手強い相手かもしれない。
「このくらいのが出てこないと、戦ってる感じも出てこないのよねー。そろそろギアを上げていこうかしら!」
そんな相手にも不敵に笑い、アンジェさんは抜刀した。脱力した自然体で立ち、プラチナムアーマーを見据える。
これまでの戦いで、ある程度だが彼女のスタイルは見えてきている。近距離はもちろん斬撃を飛ばすことによる中距離、遠距離攻撃も交えてのオールレンジ攻撃ができる、非常に器用な戦い方ができる万能型だな。
祖母であるマリーさんが、居合をメイン戦術にしている関係上、どうしても近距離専門になるしかないことを考えれば、距離を問わない万能性ではアンジェさんのほうが長じているだろう。
そんな彼女の初撃も大体、固定されている。勝ち筋みたいな技の流れがもう、決まっているんだろうな……瞬間的に、大きく身体が振れる!
「《剣術》、竜断刀・ベイオウーフ!!」
勢いよく振り下ろされる刀から、斬撃の衝撃波が飛び出て敵を襲う。アンジェさんの技の中でも特に、初撃に使用される傾向の多い技がこの、ベイオウーフだ。
漫画で見たことある! って感想を思わず抱くほど、見事なまでに飛ぶ斬撃。それがプラチナムアーマーへと向かうのだが、敵もさるもの。
「…………!」
無言のまま、スラリと腰から抜いた西洋剣を構え、防御の態勢を取る。避けるでも反撃するでもなく、耐えきらんとする構えだ。
そして斬撃と鎧とがぶつかりあった。轟音とともに揺らぐダンジョン内。A級探査者とA級モンスターの真っ向からのぶつかり合いともなると、ダンジョンそのものが震え、壊れ、傷つくことも頻繁なものになってくる。
土埃が舞う中、プラチナムアーマーの剣に大きな罅が入り。
──それでもやつは、耐えきっていた。
「ちいっ!」
大きく舌打ちして、アンジェさんが凶相を浮かべた。悔しげな殺意を露骨に出して、敵へと吼える。
「わかってたけどさあ! 耐えられるのは腹立つもんなのよね、毎度毎度ぉっ!!」
「…………ッ!!」
「《剣術》、竜断刀──シグルドォ!!」
神速、それこそ祖母マリアベール・フランソワをも彷彿させるスピードで一気に距離を詰め、次なる技を放つ。
竜断刀・シグルド。彼女の技の中でも特に威力の高い、A級モンスターをも一撃で仕留める大斬撃だ。しかも、それほどの威力の割に隙も少ないなかなかのインチキぶり。
アンジェさんの飛び抜けた才能とその上に積み重ねられた、努力の凄まじさを体現している質実剛健たる技だな。ていうか彼女、膂力も半端ないんだよね……レベルとかスキルとか以前に恵まれた体格と生来の素質と性格的な適性とがあまりにもマッチしている。
そこにたゆまぬ努力が加われば、これほどの強者になるのも頷ける話だ。S級にはまだ届かないだろうけど、いずれはこの人もそこに到達するんだろうな。
「プラチナなんてねぇっ! 大層だろうが、ぶっ壊しちまえばガラクタなのよっ! ポンコツ鎧が、膾にしてやるわぁっ!!」
「!」
殺戮の意志を漲らせた咆哮とともに、プラチナムアーマーを襲う竜断刀。とっさに敵は剣で受け止めたが、すでにボロボロの剣など豪剣の前には壁となりえない。
派手な音を立てて、剣ごと鎧を袈裟懸けに、アンジェさんの刀は斬りつけた。紙を引き裂くように、容易く切り崩される胴体。闇の瘴気に満ちた鎧の中身が、にわかに垣間見えて。
「────《剣術》。竜断刀・スサノオ」
そこをめがけて、さらなる技が追撃として放たれた。
竜断刀・スサノオ。目にも留まらない、あまりにも早すぎる斬撃を八度放つ、スピード重視の剣技だ。
どこかマリーさんの居合にも似た速度で刃が走り、プラチナムアーマーの破損した部分から中身の闇を刺し、斬り、消滅させていく。
ことここに至れば勝負あり、だ。目に見えて生気を失っていったプラチナムアーマーが、やがて光の粒子になって消えていく。
あとに残るアンジェさんが、刀を鞘に戻しつつ大きく息を吐いた。
「……ふーう。はい、終了ぅ。こいつで今の私にちょうどいい感じなのは、悔しがるべきかはたまた喜ぶべきなのか。微妙なところね」
そう言ってウインクしてお茶目な素振りのアンジェさん。
物騒ながらも可憐なその笑みが、この戦いの終焉を告げていた。
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