ポエミーに交わればポエミーになる
さて、と俺は一歩踏み出た。サソリオオトカゲがこちらを向き、にわかに敵意を帯びる。
急遽な形ではあるが今回の戦闘は俺が請け負う。そう、ドロップ素材の皮を目当にしてのものだね。
見ると敵の皮膚はなめらか、かつ脂が乗ってるのか、光を受けて虹色にきらめいているけど結構固そうだ。
これ焼いて食うの? マジで? 疑問と不安は尽きないが、珍味愛好家にはたまらないんだろうな。
「公平、大丈夫なの? たしかC級よね?」
「A級相手なんて……あ、危なくなったらすぐ、行かないと」
俺のこれまでを直接は知らないアンジェさんとランレイさんが、しきりに心配してくれている。なんなら臨戦態勢だ。
もしもの時、すぐさま助けに入れるように構えていてくれているんだな。頼もしく、ありがたい人たちだと嬉しくなる。
ただまあ、香苗さんやリーベ、ヴァールからしてみれば無用の心配もいいところだろう。理解を示しつつも──というか示しすぎだよ、何カメラ構えて俺を撮ってるんだ香苗さん──やんわりと言っていた。
「うむ。万一に備える姿勢、さすがはA級探査者だな。とはいえ今回ばかりは心配いらん、信じて見ているがいい」
「知らなければ間違いなく、私も同じことをしていましたね。立派な心構えです、二人とも」
「え…………え? ていうかなんで撮影?」
「そ、それって? まさかあのチャンネルに配信する動画!?」
「公平さんはお二人の予想を遥かに超えて、強いってことですよー」
3人の無償の信頼というか、信用が重くも心強い。これはしっかり応えないとな、俺としても気合が漲る。
ポカン、と目を丸くするアンジェさんとランレイさん。多分に、香苗さんの奇行への驚きが含まれていそうな目線を尻目に俺は、いよいよサソリオオトカゲの縄張りへと足を踏み入れた。
「きゅるるるるるるるるるるるる」
「きゅるる、きゅる、きゅるる」
甲高い、巻き舌のような鳴き声。侵入者が一気に距離を詰めてきたことに、モンスターたちはあからさまに警戒を強めている。
ここでふと、考える。倒すのはもちろん倒すのだが、さてどう倒そうか。肉弾戦か、遠距離から衝撃波か。はたまた、スキル《目に見えずとも、たしかにそこにあるもの》による広範囲浄化と言う手もある。
結構なんでもありだからな、今の俺。やりようはいくらでもあるが、しかし──
「力試しというのなら、俺も一つ、試してみようか」
「公平くん……?」
「コマンドプロンプト、起動」
前々から構想だけはしていたスキルを今、せっかくだし試してみよう。そう思い、俺は私に接続した。
──起動。呼び出し。新規作成。入力。承認。実行。
今回はまったく新しいスキルの製作になる。よって検索やら編集やらでなく、新規作成から手入力での作業だ。
ぶっちゃけアドリブなんだが、さっきも言ったとおり構想自体は前から考えていた。俺の弱点の一つ、徒手空拳による戦闘ゆえに、どうしても決め手らしい決め手に欠ける点を克服する、そんなスキルだ。
「よし、こんなものかな」
「ヴァール、今の……」
「ああ。創り上げたな、スキルを」
時間にして1秒かそこらか? コマンドプロンプトとしての権能を使う時って意識のみ、私が本来いた場所つまりは本体に戻るから、時間や空間の概念からは一時的に解放されるんだよね。
普通の人間にはまったく感知できないだろうそれを、察してきたリーベとヴァールはさすが精霊知能といったところか。とはいえ受肉してシステムから隔離しているため、感覚的なものでしかないようだが。
まあ、それはいいとして。
俺は新たに創り上げたスキルを、目の前の二匹、サソリオオトカゲに向けて放った。
「《清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師》」
手を翳し、その名を告げると目の前の空間が揺らいだ。
空間転移にも似た、けれど決定的に違う歪み。俺の上半身くらいの大きさの穴が空中に発生しているが、その向こう側には何も見えない。ひたすらに無限の闇が広がる。
これでいい。俺はその穴に向け、腕を振るうようにして衝撃波を放った。
「むぅんっ!!」
「────きゅけっ!?」
瞬間、二匹いるサソリオオトカゲのうち、一匹が爆ぜた。足元から放たれた衝撃波、そう、今俺が放ったものが打ち上がり、やつを仕留めたのだ。
それもただの衝撃波ではない、通常よりも遥かに強力な威力と規模だ。敵を仕留め、硬い胴体をもぶちぬいてなお勢いを一切緩めぬまま──そのまま部屋の天井にまで到達し。
そこにあった、さらなる歪みに飲み込まれ。
「きゅくるぁっ!?」
今度は残るもう一匹のサソリオオトカゲの、横合いにいきなり現れた歪みから側面を殴りつけるように飛び出し。
容易くその身体を撃ち抜いて、一匹目同様に爆散させていた。
「────え?」
「は、え?」
困惑の声。アンジェさんとランレイさんだ、今しがた起きた怪奇現象に思わずといった様子でリアクションしているな。
スキル発動から、いやもっと言うと俺がコマンドプロンプトとしての権能を使いだしてからここに至るまで、ものの10秒かその程度しか経っていない。あまりに早すぎる成りゆきと決着に、理解が追いついていないのだと思う。
そんな彼女らの様子にそこはかとない達成感を覚えつつ、俺は新スキルの手応えを大いに実感していた。
「よし、いい具合だな……俺流の、結界スキルは」
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