モンスター食の専門家、シェン・ランレイ!
いくつかの部屋を抜け、出てきたモンスターたちも問題なくアンジェさんとランレイさんが倒し、俺たちは2階層目に降りた。
またしても最初の部屋はアンデッド軍団の楽屋裏みたいな光景かな? と思っていたのだがそんなことはなく、普通にモンスターが数体、うろついているだけだ。
「サソリオオトカゲが二匹。至って普通のA級モンスターですね」
「サソリオオトカゲ。聞いたことありますね」
蠍の鋭い尻尾を持った、大きなトカゲ。安直だが極めてわかりやすいネーミングのモンスター、サソリオオトカゲだ。全長3mはある巨体でしかし、俊敏に動き回っている。
A級モンスターの中でも有名なこのモンスターは、蠍の針からは極めて毒性の高い物質を放つ。
そうでなくともその巨体で敵を押し潰し、果ては人間くらいの大きさのものならなんでも一息に呑み込んでしまう口の大きさが特長の、トカゲというかほぼワニみたいなモンスターだった。
ちなみにB級以下までのダンジョンにはこいつの下級種とも言える、サソリトカゲがいたりする。
おそらく発見されたのはこちらのほうが先で、あとから見つかったほうには雑然と"オオ"だけつけてネーミングしたのだろう。特に命名にこだわりのない人が第一発見者の場合、よくある話らしかった。
「お、トカゲ。斬りやすくてちょうどいいのよねー」
「そ、素材、落とさないかな……」
「素材、ですか?」
そんな話はともかくと、巨体の割に俊敏に部屋をうろつくトカゲを見てアンジェさんはにわかに刀を触り、ランレイさんは呟いていた。
A級モンスターの中でも割とメジャーどころではあるから、こいつらの相手と言っても特に気負うところはないんだな。頼もしいお姿だ。
にしても、素材ね。ランレイさんの呟きを拾う。
モンスターを倒すごと、極稀にそいつらが落としていくアイテム、通称素材。持ち帰れば人間社会に大きな恩恵をもたらすゆえに高値でやり取りされるそれは、ダンジョンコアと並んで探査者の収入源だ。
本当に、滅多なことではドロップしないんだが、その分一個でも手に入ったらそのあとしばらくは遊んで暮らせる。それほど極端な値打ちがつくものばかりなのだ。
ランレイさんはサソリオオトカゲの素材に惹かれるものがあるようだ。なんだっけ、何をドロップするんだ? あのトカゲ。
首を傾げる俺に、香苗さんが答えてくれた。
「サソリオオトカゲのドロップ素材はニ種類あります。蠍部分の針か、トカゲ部分の皮か。一般市場においてより価値があるのは、針の方ですね」
「へえ……確率で二分するんですね」
「複数の動物の要素を持つ、いわゆるキメラ系モンスターは大体が確率分岐ですよ。有名どころで言えばそうですね、コウモリウサギでしょうか」
E級でよく見かける、愛らしい見かけのモンスターを引き合いに出される。俺も幾度となく遭遇したことがあり、その名に違わぬ蝙蝠の羽が生えた白い兎だ。
あれもそうだな。たしか、高確率で羽を落とすが、極稀に耳を落とすのだ。羽は漢方の方で値打ちがあり、耳は開運アイテムとしてオカルト方面に人気がある。
なるほどなあ。俺の場合は称号効果でどちらも確定ドロップだから、あんまり気にしてこなかったが。キメラ系は元になった動物由来の素材のどちらかを確率でってのは、納得の行く話だ。
つまりは目の前の、こちらを気にもせずうろつくサソリオオトカゲもその類で、針か皮かを落とすと。そしてランレイさんは、そのどちらかを欲しがっているということか。
「で、ランレイさんはどちらを目当てに?」
「も、もちろん皮、です……あの皮、焼いて食べると美味しいんです」
「へー、そうなんですか。鮭みたいですね…………って、え?」
「え?」
「ぴぇっ!?」
一瞬流しかけたんだが、ぎりぎり聴き逃がせずに俺と香苗さんは聞き返した。途端に小鳥が囀るように悲鳴をあげるランレイさん。いや、ちょっとまって。
食うの? 焼いて? トカゲのってかモンスターの、皮を?
いわゆるモンスター食に該当する行為なんだけど、こうも面と向かって『食べまァす!』などと言われたのは初めてなもんで、ちょっとどころか結構ビックリしている。
モンスターの素材を食すってのは前例自体はある。ダンジョン内で事情がありやむなくってのがほとんどだし、香苗さんもたしか以前、スライムの素材に調味料をかけて食べたことがあるとか言っていたはすだ。
美食家の人が珍味を求めてモンスター食にたどり着いた、なんて話も聞かないではないけれど……え。まさかランレイさんもそういう、たどり着いちゃった方なの?
困惑する俺たちに苦笑いして、隣のアンジェさんが言った。
「あー、面食らうわよね。ランレイはさ、モンスター食に一家言あるらしいのよ。そっち界隈だとかなり有名だとか」
「どっち界隈!?」
「あ、あ、あ、あの! も、モンスター食専門探査者でこ、こ、コミュニティがありましてぇっ!! そ、そ、そこの界隈だと思われますごめんなさいいい!!」
「そ、そんなコミュニティがあるのか……」
ヴァールも初聞きらしく、目を白黒させて驚いている。隣ではリーベも同様だ。
ていうかモンスター食専門探査者なんているんだな……
ブックマーク登録と評価の方よろしくおねがいします
本作「攻略! 大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」の書籍1巻が、7/1(金)に主婦と生活社様はPASH!ブックスより発売されます。
各書店様で予約受付が始まっております。よろしくおねがいします。
より詳細な情報、続報、その他もろもろに関しましてはTwitterのほうでも記載していきます。(@tentacle_clow)
よろしくおねがいします。




