剣鬼と魔拳
怖いといえば、もう一人。
恐ろしいまでに大暴れする鬼神がこの場にはいた。アンジェさんが剣鬼とでもいうならば、こちらはまさしく魔拳といったところか。
「星ィィィ界ッ!! 斬! 刀! 脚ゥッ!! ────シャアアアアアアアアアッ!!」
「ぎぎゃ!?」
「ガガッ──」
「ぷぺらっ!?」
普段のキョドりは擬態だったのか? と言いたくなるほどに叫び、唸り、そしてその分だけ敵を豪脚にて斬り裂いていくのはそう、ランレイさん。
リンちゃん同様に星界拳を駆使しての戦いなのだが、何よりその豹変ぶりに俺は、すっかり面食らっていた。
「べ、別人だぁ……プールダンジョンの時からわかってたけど、改めて見ると人が変わってる……」
「な、なかなかに壮絶ですね。二重人格的ですらあります」
「うむ……ああしたタイプはワタシも初めてだな。戦闘になると人が変わるか」
香苗さんやヴァールも、いきなり雄叫びをあげて戦いを始めたランレイさんに目を丸くしている。ヴァールをして初めてのタイプと言わしめるのはなかなかにすごい。
と、リーベが振るわれる星界拳を見て呟いた。
「リンリンの星界拳とは、またちょっと違う動きしてますねー……なんていうか、足刀? 足の側面で、相手を斬るような蹴り方ですー」
「うん? ……そうだな、たしかに」
言われてランレイさんを見る。息もつかせぬ連続蹴りで、的確に骸骨やらゾンビやらの首に命中させているが、なるほどそのどれもが足刀──足の小指側の側面をヒットさせている。
しかもその威力がおかしい。もはや刀、刃物も同然といった感じで、蹴りは普通打撃だろうにまるで、鋭い刃で斬り刎ねたように次々、モンスターたちの首がすっ飛んでいく。
斬撃にも似た蹴り。こんな星界拳もあるのか。
リンちゃんの力強い打撃的な蹴りに比べても鋭い、殺傷力に秀でた技術。香苗さんがそう言えば、と語った。
「フェイリンさんからも聞いています。姉であるランレイさんの使う星界拳は自分のものとは違う、斬撃特化の星界拳一派だとか」
「斬撃特化……」
「徒手空拳で斬撃というのが腑に落ちませんでしたが、なるほどあれを見れば頷けますね。彼女の脚は、まさしく鋭い一太刀の刃です」
星界拳による、斬撃。足を刃と化すような、そんなことさえ可能なのか、シェン一族が積み上げてきたクンフーは。
ゴクリと唾を呑む。ランレイさんは力強く宙に舞い、また一体、敵の首を刎ね落としていた。
着地して豪然と、暑苦しいほどに猛々しく言い放つ。
「星界拳ッ天覇ァッ! シェン・ランレイィッ!! 覚悟せよモンスターッ! 我が豪脚、岩をも鉄をも金剛をも断ち切る脚ぞッ!!」
名乗りもやはり、初対面の時とは全然違う。星界拳士であることを、天覇であることを誇らしく叫ぶその姿は、リンちゃんの姿とダブって見える。
己の一族、己の拳法への信念が窺える、そんな叫びだった。
「やるわねシェン・ランレイ! 蹴りが斬撃だなんて、相変わらずあんたの拳法は狂ってて素敵だわ!」
「アンジェリーナ・フランソワ! あなたこそ、以前にも増して冴えわたる剣技、お見事ッ!!」
「なんか意気投合してる……相変わらずとか以前にも増してとか、やっぱり前から知り合いなんだろうな、あの二人」
「そういえばマリーおばあちゃんもリンリンのこと、やたら気に入ってましたよねー……フランソワの家系とシェン一族って、親和性でもあるんでしょうかねー」
波のような群れのモンスターを斬って蹴って断って千切って、あっという間にリッチエンペラーのみとなった室内。アンジェさんとランレイさんが二人、並び立って敵と向き合う。
互いに互いを認め、褒め合うその姿は大変素晴らしい光景だ。これで獰猛な笑みをもうちょっとだけたおやかにしてくれたら、なおのこと見目麗しい感じの一枚絵になるんだけどなあ。
「げぎゃぎゃがぐげぎがげごごごごごご!」
リッチエンペラーは追い詰められ、慌てふためいているようだった。さっきまでわんさかといた部下たちが、軒並み消滅していったのだ。モンスター心にも動揺は禁じえないのだろう。
そしてその隙を、逃す彼女たちではなかった。
「さぁてやりますか、ランレイ!」
「アンジェ、征くぞッ!!」
駆け出す二人。最初の一歩からすでにトップスピードの勢いで距離を詰めるアンジェさんとランレイさんは、一瞬でリッチエンペラーに襲いかかっていた。
振りかぶり振り下ろされる刀。
真っ直ぐに放たれ、蹴り穿つ脚。
二つの斬撃がクロスして、今、計り知れない破壊力を伴って敵を斬り飛ばす!
「《剣術》──竜断刀・カドモス!」
「星ィィィ界ッ! 四象ゥゥゥ拳ンンンッ!!」
「グギェアアアアアアアアアァッ!?」
短く鋭く叫ぶアンジェさんと、文字通り必殺技を力強く叫ぶランレイさんと、そしてリッチエンペラーの断末魔の叫びと。
三者三様の叫びが響き、やがて静寂を取り戻して。
「────ふう。ま、ウォーミングアップくらいにはなったかな?」
「天覇の豪脚、向かうところ敵なしッ! ──あわわわわお聞き苦しくお見苦しいものを失礼しましたあばばばばば」
戦闘を終え、平時の姿に戻ったアンジェさんとランレイさんの姿ばかりがそこに残っていた。
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