荒々しきかな、竜断つ刃
香苗さんにロックオンされて涙目なランレイさんはさておくにして、いよいよダンジョン探査開始だ。
と言っても今回は俺メインじゃない。アンジェさんとランレイさんの二人が主にアタッカーとして攻略をするのだ。そのため、ペース配分もお二人に任せてある。
だからだろうか? 一言で言うと、いきなりすごいものを見せられた。
「あっはっはっはっはっは!! いいわよあんたら、もっと来なさい!!」
「ぎょげぇぇぇぇぇ!?」
最初の部屋、広々としたその室内に入ってすぐ、大量のモンスターが出迎えてくれた。
アンデッド系の最上級種、あのリッチのさらに上を行く骸骨王、リッチエンペラーが、大量のスケルトンやグール、ゾンビ、ワイトなどを召集して襲いかかってきたのだ。
いきなりこれは多勢に無勢、さすがに加勢しないといかんかと、俺と香苗さんとで広範囲攻撃スキルを展開しかけたわけなんだけども。
なんとアンジェさんとランレイさんたち自身がそれを拒否。まさしく破竹の勢いで、軍団を殲滅し始めたのだ。
「《剣術》! 竜断刀・ベイオウーフ!!」
「んごぇぇぇぇぇぇぇ!?」
竜断刀──察するにマリーさんの大断刀を意識してのネーミングだろう、アンジェさんの剣技が唸る。振るうたび刀から衝撃波が放たれて、巨大な斬撃として敵を大きく削り取っていた。
雑な大技の印象を受けるが、やっていることは極めて高度だ。そもそも、いくらレベルが高くともいくらスキルがあろうとも普通、人間は衝撃波なんてなかなか出せない。漫画じゃないんだから。
それをここまで容易く、技として普段使いできるほどにまで仕上げてきたのは驚きの一言だ。さっきの香苗さんと言い、探査者の人間離れが加速しているなあ。いや、俺の言えたことじゃないけど。
「モンスターども! お前らの敵はここだ、このアンジェリーナ・フランソワだ!! 来い──来い、来い、来い、来い!! 来るたび唸る私の刃、突破できたらこの命くれてやるわぁっ!!」
「ンギィァァアァァ!?」
「怖ぁ……」
高らかに謳い、高らかに嗤うアンジェさん。その姿とその刀の前に砕かれひれ伏し消滅していくモンスターたちの姿は、いっそ哀れなまでに弱々しいものに映る。
いや、ていうか怖すぎん? つまるところ、自分の攻撃に絶対の自信を持っているがゆえ、煽りがてらそんなことを言うんだろうけどさ。この命くれてやるなんておっかなすぎるだろ、世紀末かよ。
「アンジェリーナ……血は争えんと言うのか? 若かりし頃のマリアベールに似てきたな」
「マリーおばあちゃんあんなのだったんですかー!?」
目を細めて懐かしげに、しみじみ呟くヴァール。マリーさん昔、あんな感じだったのかよ!
堪らずリーベが問いかけるとうむ、頷き。ヴァールは、重々しくかつてを振り返っていった。
「なんならもっと酷かった時期もある。ちょうど、今のアンジェリーナほどの年の頃か。そこからしばらくは、目に映るものすべてに斬りかかりかねない狂気すら纏っていたよ」
「辻斬りかな? いやなんだそれ、何があったんだマリーさんに……」
「詳しくはワタシとて知らん。だが、当時の探査者はそういう殺気立った者もちらほらいて、決してマリアベールだけではなかったのはたしかだ。さすがに探査者同士で殺し合いなどはしなかったがな。今に比べてあまりに大らかで、あまりに自由な時代だったよ」
懐かしむような、忌むような。懐古に浸りつつも決していい顔をしてないヴァールの姿が、なんというか未成熟だった頃の大ダンジョン時代社会を匂わせる。
粗暴で自由で、今よりいろいろ不足していたけれど、今より何かはあった時代。当時を、いや当時のみならず在りし日の一部始終をずっと見てきた彼女ゆえの、貴重な話だな、これは。
身内にその時代を生きた曽祖父を持つ、香苗さんが興味深げに耳を傾けていた。
「荒々しい話ですね……曽祖父もそんなふうだったのでしょうか。私が知る頃にはもう。誰より温和で優しく、誰とでも仲良くなれる好々爺でしたが」
「御堂将太は比較的、昔からそんな感じだったぞ、御堂香苗。実力はたしかだったが、いまいち地味で押しが足りなかった。だがその穏和さゆえに、彼を知る者たちからは疲れた時の、宿り木のように慕われていたと思う」
「そう、ですか。ひいおじいちゃんらしいですね」
若き日のひいおじいさんの肖像の一端に触れ、やさしく彼女は微笑んだ。
巡り巡れば俺にとっても大恩ある人だ、将太さんは。そんな人が、昔から人徳あるお人だったというのはなんだか、嬉しいもんだな。
ヴァールが、アンジェさんを見る。
「今となってはああした咆哮は異端、決して主流ではないが……懐かしい気風だ。あれは伸びるぞ。あの時代、ああした者で大成しなかった者などいなかった」
「──ベイオウーフ!! そらそら、どうしたの!? こんなんじゃ準備運動にもなりゃしないっ! 身体を温めるくらいさせろ、モンスターどもっ!! ははっ、ははははっ! はははははははははっ!!」
「そ、そう……」
荒くれた時代の血潮を受け継ぐ、といえば格好はつくけれど。つまりはおっかない戦闘狂なアンジェさんを、どうやらヴァールは気に入ったみたいだった。
いやでも、やっぱ怖ぁ……
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