命を刈り取る称号をしてるだろ?
ダンジョンを潜る直前だが、少しだけ時間をもらって俺はアンジェさんとランレイさんのステータスを確認させてもらうことにした。
今回の探査の目的にも関わってくるため、香苗さんやリーベにヴァールも快く承知してくれて、なんなら興味津々だ。ステータスと実際の戦いぶりから、アドバイスできることがあるならするつもりなんだろう。
一旦近くのベンチにみんなで集まってから、俺はスキルを発動させた。
「じゃ、始めます……《よみがえる風と大地の上で》」
「……えっ。なんて?」
「よみ、え、風と大地? な、なんで?」
「ウッ……き、気にしないで僕のスキルの名前です、ハイ」
アンジェさんとランレイさんの、耳を疑ってるかのような反応が心にグッサリぶっ刺さる。間違いなくお二人の反応は普通のもので、鑑定するって言っていきなりポエムし始めたらそうなるに決まっているのだ。
改めて、俺だけスキルがやたらポエミーなんですけどと叫びたくなる。顔が熱い!
──《よみがえる風と大地の上で》。これは、すべてが終わったあと、ワールドプロセッサからご褒美的にもらった鑑定スキルだ。
他人のステータスは立派な個人情報、滅多なことでは見るつもりもなかった俺ちゃんだけど、今回ばかりは使わせてもらうことにする。何を言うにしても探査者のこと、どんなスキルを持っているのか確認しないことには始まらないしね。
というわけでまずはアンジェさんからだ。
発動したスキルで以て、彼女のステータスが俺の眼前に表示された。
名前 アンジェリーナ・フランソワ レベル586
称号 死神
スキル
名称 剣術
名称 気配感知
名称 気配遮断
名称 隠密行動
「アンジェさん、かなりストレートに剣士ですね。《気配遮断》に《隠密行動》もあるってことは、若干奇襲寄りですか?」
「ん、そーね。普通に真正面から斬りかかるのがメインだけど、奇襲からのヒットアンドアウェイも得意よ。得物が私の背丈に比べて短めだからね、そういうのが合うのよ」
「マリアベールのかつての愛刀か。彼女は居合専門ゆえ、たしかに至近距離からの一刀両断が得意だったが、ふむ」
奇襲もできる剣士スタイルらしいアンジェさん。ストレートな戦い方もできる上、暗がりとか障害物、遮蔽物が多い場所だとトリッキーな立ち回りもできるってのは、なかなかに芸達者だな。
そしてマリーさんから譲り受けた刀についても、付き合いの長いヴァールならではのコメントが飛ぶ。たしかにその刀はマリーさんが引退まで使用していた仕込み杖と同じ長さで、長身なアンジェさんからすればすこし短い感じも受ける。
「最終決戦の時、背筋を伸ばしたマリーさんを見ましたけど……アンジェさんはそれより背丈、ありますね」
「へへん、いいでしょ? 185cmだからさ、モデルみたいってよく言われるのよね〜」
自慢気にするアンジェさんに正直、羨みが沸き起こる。
俺、同年代の平均と比べてちょっと、背が低めなのが悩みなんだよ……これから成長期だからぐんぐん伸びると信じたい。せめてあと10cmほど!
と、いう個人的な願望はともかくとして。スキル構成はそこそこに、俺は気になる称号欄を見てみる。
称号
名称 死神
効果 モンスターへの攻撃に一定確率で即死付与
これはまた、強力極まりない性能の効果だな。
モンスター相手に一定確率で即死攻撃とは、格上相手でも常にワンチャンあるってことじゃないか。
「称号は《死神》、効果はモンスターへの攻撃に一定確率での即死付与……めちゃくちゃ強力ですけどこれ、どのくらいの確率でしょうね」
「さあ? 検証なんてしたことないけど、発動したらわかるわよ。あからさまにホラーなエフェクトがつくし」
「え、エフェクトですか……」
『君んとこのワールドプロセッサ、馬鹿じゃないの? そこまで演出に凝るかい、普通?』
脳内のアルマに反論ができない。いよいよワールドプロセッサが、半分趣味で称号と効果を創っている疑惑が俺の中でも固まりつつある。
いや、おそらく称号周りの作成補助を担当している精霊知能もいるだろうし、そいつの趣味って可能性もあるのか? いずれにせよ遊んでる感はあるな……
「モンスターへの即死がそれなりの頻度で発動しているなら、ダンジョン探査においてはほとんど最強と言っても過言ではありませんね……アンジェリーナ、体感的に言ってどのくらいですか」
「えーと? ……んー、1%くらいかも? 100回も斬り付ければ発動するわよ、その頃には大体先に倒せてるけど」
「一撃ごとに発動判定される仕様とはまた、無茶苦茶ですねー。100回攻撃を当てればどんな格上でも倒せる可能性があるわけでしょうしー」
呆れた様子でリーベが言うが、まったくそのとおりだ。たとえS級モンスターが相手でも、一回攻撃を当てるごとに1%の確率で即死させられるってことなんだ、ヤバくない要素がない。
とはいえA級探査者であるアンジェさん的には、そんな称号効果に頼らずとも自力で大概の敵は倒せるんだろうけども。肩をすくめて、彼女は皮肉げに笑った。
「実際、新米の頃は頼りっぱなしだったわね。A級になったあたりから、逆に鬱陶しく思えてきたけど」
「鬱陶しく?」
「だってさ、戦いにそんなランダム要素入れたくないじゃん。運頼りだと実力も鈍るし、変な思い上がりだってしかねないし。何より、称号にトドメを取られた感じがして悔しいし」
「えぇ……?」
運任せが嫌とか、実力が上がらないとかはわかるけど、称号にトドメを奪われるようで嫌とは……
なんというか、結構こだわり派なんだな、アンジェさんは。
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