同世代からは迷惑がられる目立ち方してるやつ
変なところで純真なヴァールはともかくとして、メンツも揃ったということで俺たちはいよいよ、ダンジョン探査に向けて動き出した。
今日行くつもりをしているという、ダンジョンは予め決めていたみたいだ。ヴァールと、ついでになぜかリーベが受付のお姉さんに、打ち合わせしていたかのように告げていた。
「パーティーメンバーが揃った。先刻目星をつけていた例のダンジョンへ向かいたい。可能か?」
「は、はいっ! いつでも手続きを完了できます、統括理事!」
「今は一人の探査者だ、統括理事はやめてもらえると助かるが……」
「す、すみません!!」
可哀想に受付の人、ヴァール相手に涙目じゃないか。そりゃそのとおりで、全探組の職員やってるのにいきなり、WSOの統括理事なんてのが普通の探査者みたいな面してやってくるんだものな。悪夢だよ普通に。
受付の後方では他のスタッフのみなさんが固唾を呑んで見守っている始末だ。なんならこっち側でも、周囲にいる探査者の少なくない数も緊張している。
「怯えさせてどーするんですか、ヴァール」
「そ、そんなつもりは……」
リーベのツッコミに焦るヴァール。素で困惑してるな、あれは。
怖がられてんなあ……と、WSO統括理事の威光ともいうべき圧の強さを目の当たりにしていると、背後から声が掛けられた。
「山形? それに……香苗さん!」
「…………関口?」
俺、はついでだな。香苗さんに向けた声のほうが明らかに勢いのあるその声の主は、我らがクラスメイトのイケメン探査者関口くんだ。
「ぴぃっ!? だ、だだだだ誰ぇっ!?」
「あ、俺の知り合いで先輩探査者の関口くんですよ。同じ高校の同じクラスだったりするんです」
「へぇ~。変な縁なのね」
「そ、そうなんだ……」
急に話しかけられたことでまたしてもビビるランレイさんを宥めつつ説明する。目を丸くするアンジェさんの後ろにやはり引っ付いて、それでもどうにか落ち着いてもらえてよかった。
というか関口くんも昼からダンジョン探査なのかな。頑張ってるみたいだなあ。パーティーメンバーだろうか3人、探査者を引き連れている。揃いも揃って美少女だ。
「……モテモテだねえ、関口くん」
「人のこと言えた立場か、お前が」
イケメン様はさすが違いますねえ〜と思わず言ってしまったのだが、みごとにカウンターを放たれてしまって逆にこっちがぐうの音も出ない。
もちろん実際は違うのだが、傍から見たら俺のほうがよっぽどだ。香苗さん筆頭に周囲の人たちも心なしか、あなたが言うの? って感じの目をしていらっしゃるし。
普段にないメンツで行動しているためか、ぜんぜん自覚できてなかったな……と反省しつつ、誤魔化し笑いを浮かべつつ彼に言う。
「い、いやあ。俺はわけあってのものだし、荷物持ちみたいなもんだよ。ええと……そっちは探査帰り?」
「まあな。新米の子たちの面倒を見てたんだよ。一月前にデビューした、お前にとっては初めての後輩じゃないか?」
「え。俺の、後輩?」
予想外の言葉に面食らう。俺の後にデビューした、探査者?
まだ3ヶ月そこそこくらいしか経ってないのに、もうそんなのできちゃったのか? 意外だ。
香苗さんもほう、と興味深げに言う。
「立て続けにデビューですか、珍しいですね……公平くん世代の前となるとたしか、10ヶ月近くは間があったと思いますが」
「ええ、そうなんですよ香苗さん。こんなことは珍しいって、本部長も言ってました」
ううむ……広瀬さんが言うってことは、本当に珍しいケースなんだろうな。
通常、どこのどなたにどのタイミングでスキルが付与されるのかは完全にランダムだ。アドミニストレータ相手じゃあるまいし、一々ワールドプロセッサが手渡しするわけにもいかないし。
そのため、それ専用の自動生成プログラムを担当する精霊知能によって制御の上、日々能力者を生み出しているわけだな。
今回の場合、いわゆる乱数の偏りが発生した形になるのか。よりによって俺の直後ってのがなんとも怪しいが、意図的に発生させる意味もないしな。
まず偶然と見ていいだろう。関口くんは続けて、俺たちに説明していく。
「今回はやたらスパンが短い上に、直前の世代に悪目立ちしてるやつが一人、いますからね。真似して危ないことをしでかさないよう先輩による指導を増やして、ゆっくり堅実に育ってもらおうって方針なんですよ。それで──」
「ちょっ、ちょちょちょ待って。誰? 悪目立ち誰? 誰なの怖ぁ!?」
「鏡見てこい、そこに映ってるやつだよ。それでですね、指導係に俺も駆り出されちゃったんですよ。いやー、できる探査者ってのも辛いもんなんですね、香苗さん!」
悪目立ちなどと言われてしまった。つらい。
たしかに、《風さえ吹かない荒野を行くよ》の時点で悪目立ちの極地なんだけども。だからってそんな、俺の存在が新人さんの教育に悪いみたいに言わなくていいじゃん。
よくよく見ると後輩の女の子たちも、あぁこの人が……みたいな感じで遠巻きに見てくるし。つらい。
「そうですかそれはよかったですね。そんなことより公平くん、あなたは特別な方ですから! 悪目立ちなどととんでもない、当たるべきスポットライトが当たっただけに過ぎないのですよ!!」
関口くんを素っ気なく切って捨て、過剰なトーンで俺を励ましてくる香苗さんはそれはそれで怖い。
ああ、周囲の人たちがまーた始まったよ、的な感じで解散していく!
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