高嶺のお花畑
昼飯も食べ、ほどほどに休憩も取ったので今度こそ組合本部へ向かう俺とリーベ。待ち合わせは13時で今は12時半過ぎ、それなりにちょうどいい時間になりそうだ。
天気はちょっと雲が出てきたがまだまだ快晴、絶好の探査日和だ。まあ穴ぐらに潜るわけなので、地上が晴れだろうが雨だろうが、あんまり関係はないんだけどな。
「今日の探査って、マリーおばあちゃんのお孫さんと、リンちゃんのお姉さんがメインなんですかー?」
歩きつつ、リーベが聞いてくる。今回の探査は変則的というか、珍しいメンツでの探査になる。誰がメインになるかってのは、気になるところだろう。
予め考えていた予定を、俺は話した。
「ああ、その二人だな。祝勝会の時、俺はマリーさんからアンジェさんを、香苗さんはリンちゃんからランレイさんを頼まれててさ。揃って伸び悩んでるから、アドバイスしてほしいとかなんとか」
「そうなんですか? それで今回、コーチングに公平さんとミッチーが」
「そんな大層なこと、香苗さんはともかく俺が言えるわけないんだけどな」
話を聞くにすでにお二人とも、A級探査者として立派にご活躍されている。ランレイさんに至ってはつい先日、リンちゃんと一緒にみごとなモンスター討伐の勇姿を見せてくれたほどだ。
ぶっちゃけ、何をどうアドバイスしろというんだって感じではあるんだけど、まあ頼まれたからにはやるしかない。
そんなわけで香苗さんに音頭を取ってもらい、一応コーチング名目の探査が実現したのだ。
なんでかヴァールまで噛んできたのは意外だし不思議だが、まあリーベも含め、いろんな視点から何かを言えるのに越したことはない。
「というわけで参加する以上、お前もコーチだリーベ。自分より全然格上の先輩に対して偉そうに物を言う、心苦しさと気まずさと居たたまれなさをお前も味わうがいい」
「いやですよー! リーベはあくまでご一緒するだけ! そーいうのは頼まれてるご本人たちだけでやるべきじゃないですかー!」
「そうはいかない! 参加するなら参加するなりに何かは言ってもらうぞ!」
「いーやーでーすー!」
ワチャワチャ戯れつつ、どうにかこいつも巻き込もうとする俺と拒否するこいつと。騒ぎながらも、そろそろ本部が見えてきた。
中に入り、その足で談話室へ。時間も割合ピッタリだし、もういてもおかしくはないんだけど──いた。
香苗さん、アンジェさん、ランレイさん、ヴァールだ。席について談笑しながらも、コーヒーなんて飲んでらっしゃる。
「……美女の群れですねー」
「怖ぁ……行きづらぁ……」
揃いも揃ってとんでもない美女なもんだから、高嶺の花が花園と化している。よく見ると談話室はいつもより野郎が多い、なんなら鼻の下伸ばしてチラチラ4人を見ている人も多い!
こんな中、俺は行かねばならんのか? あるいはあの4人すら超える美少女のリーべを連れて、男一人で?
「…………帰っていいかな。具合悪くなってきた」
「称号効果で死ぬまで健康でしょう、公平さんはー? 怖がってないでほらほら、レッツ、花園ー!」
「あっちょ、押すのやめて勘弁して!?」
すっかり腰が引けて逃げようとした俺をすかさず、リーベが背後に回って前へと押しやってくる。ですよねー、逃げられませんよねー。
…………すっごい怖いが覚悟を決める。約束したんだ、やらなきゃなあ。彼女らのもとへ進む。
やはりというか、当然のように香苗さんが真っ先に気づき、立ち上がってきた。
「公平くんっ。お疲れさまです、お待ちしていました」
「お、お疲れさまです。皆さんお揃いで」
いつもの受け答えっちゃ受け答えなんだが、今回はそれに対して周囲の視線が刺すように向けられている。怖ぁ……
香苗さんに呼応して、ほか3人も次々俺を見る。フレンドリーに笑いかけてくるのはいいんだが、その度に視線が何か、よくないものを帯びてきている気がするなあ。
「来たわね。やっほ、公平。こないだぶり、今日はよろしくね」
「お疲れさまですアンジェさん。今日はよろしくおねがいします」
「アンジェさん、こんにちはー!」
「こんにちはリーベ。あんたも来たのね、よろしくー」
初対面の刺々しさはすっかり抜け落ち、打ち解けた様子のアンジェさん。
その出で立ちも特異で、ハイロングスカートに腰下まであるヒラヒラしたシャツ、羽織るコートにラビットハットまですべて真っ黒だ。ブーツまで漆黒なんだからこだわりを感じるね。
そして腰にはマリーさん譲りと噂の刀が一振り。ぶっちゃけ、長身なのも相まってめっちゃカッコいい。
「こ、ここここ、こんにちは……あ、あの、ここないだはどどどどうも」
「あっ……はい、こんにちは。あの、こないだはどうも」
「ぎこちない会話ねー。ランレイ、年上としてそこはもうちょいバシッ! とねえ」
「ひぃん!? ご、ごめんねえアンジェちゃん……」
対して相変わらず人付き合いの苦手らしいランレイさん、こちらはこないだ、プールで見た時同様のチャイナ服にズボン姿だ。
可哀想なくらい震えているのを、アンジェさんに見咎められてはさらに怯えている。
ただ、彼女相手にはいくぶん気安い感じなので、前からの知り合いなのかな? とは思う。
よかった、ランレイさんにもお友だちはいるんだ……
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