魔境たるS級探査者
結論から言えば、駅前のパン屋さんは大当たりでした。
スパゲッティに惣菜パン、デザートにスイーツパン、そしてアイスコーヒーをミルク多めにしていただいたのだが、まあ俺とリーベの今のテンションというか、「こういう感じでご飯食べたいなー」という雰囲気にマッチしたのだ。
「優雅なランチタイム。ん~、ステキ!」
「店内で食べるの初めてだけど、シックで落ち着いてていいなあ。スパゲッティも、うん。ペペロンチーノ最高」
「ミートソースもいいですよー。パンも美味しいし、ふふふー、しあわせ~」
すっかりご満悦で笑みを浮かべるリーベに、気に入ってもらえてよかったと安堵しつつも俺も笑う。
なんていうか、たまにはいいよなこういうお店。梨沙さんとか松田くんたちクラスメイトのみんなとワイワイ騒ぐには適さないけど、誰かと二人きりで静かに過ごすには、こういうところがちょうどいい。
さしものリーベも大人しいしな。借りてきた猫みたいだ、ウケる。
「なんか失礼なこと考えてません?」
「なんで見抜いてくるの怖ぁ……」
「本当に考えていたんですかー!? もうっ、どうせ公平さんのことですから、デリカシーのないトーヘンボクな思考してるんだろうなーって思ってたら案の定ですよー」
「つらい。ごめん」
実際にそのとおりだったので、さすがに反論しづらいので素直に謝る。つらい。
もちろんリーベも本気では怒っていないし、お互い顔を見合わせてクスクス笑う。あー、なんか、気のおけない感じだなあ。知り合って3ヶ月とは思えないほどしっくりくる。
穏やかな空気にほっこりしていると、リーベがそう言えば、と呟いた。
「これはまだ、世に出てない話なんですがー……ミッチー、ついに昇級するそうですよ」
「へえ、そう…………って、え?」
「A級トップランカー御堂香苗、この度めでたくS級探査者の仲間入りだそうですー。マリーおばあちゃんやベナウィさんのような怪物がウヨウヨする、人外魔境に足を踏み入れたんですねー」
唐突ながら、ビックリしつつもどこか腑に落ちる話だ。そっか、香苗さん、ついにS級になるのか。
思えば、なってないのがおかしな実力ではあったんだよ、元々。レベルもスキルも経験値の高さもあり、周囲からは事実上のS級扱いされていたしな、度々。
それでも長らくA級にいたのは、やはり実績が今少し足りなかったということなのだろうが……それも解消されたんだろう。ドラゴン騒ぎが決定打ってところかな?
「国内11人目のS級探査者ということで、かなりの騒ぎになるでしょうねー。史上最年少ではないものの、それでも相当の若さでの認定ですしー」
「あ、もっと若くでなった人いるんだなS級……天才を超える天才だな、その人」
「たしか、その人も日本人ですよ? ええと……」
言いながらスマホで検索するリーベ。もうご飯も食べ終えて今はコーヒータイムだ、のんびり待とう。
しかしそうか、S級かー。思えば日本のS級探査者さんには会ったこと、ないんだよね。マリーさんやベナウィさんを見るに、間違いなく相当個性的というか、色んな意味ですごい人たちなんだろうけど。
香苗さんを通じて今後、会うこともあるかもなー。
と、考えているとリーベがあったあったと言い出した。
「愛知、九葉……九つの葉でここのはですね。1年前、弱冠16歳でS級入りしてますよー。都市一つを壊滅させかけたS級モンスターを、類稀な《召喚》スキルで打倒した天才だそうですー」
「いや若すぎるだろ! 俺と一歳違いでかよ、マジのチートじゃん!」
冗談めかして言ってたのに、本当の本気で天才を超える天才だった。16歳ってなんだよ、化物かよ。
しかも《召喚》スキルとはまた、今の俺には若干タイムリーだな。ダンジョン聖教の過激派がそのへんの、神やら悪魔やらを呼び出すスキルを悪用しようとしているって話を、先々代聖女の神谷さんから聞かされたのは記憶に新しい。
あるいはその愛知って人も、聖教をめぐるゴタゴタに巻き込まれるかもしれない。S級にまで昇り詰めるほどの《召喚》なんて、連中にとっちゃ絶好の獲物だろうしな。
にわかに嫌な予感がしてくる。ちょうど今日、ヴァールとも会うし話を聞いてみてもいいかな。
「それにしても、国内11人目のS級探査者か……香苗さん、まじで雲の上だなあ」
「何言ってるんですか理の外の人がー。ミッチーやS級探査者はそりゃすごいですけど、探せば見つかるチートキャラって感じでしかないですしー」
「……ああ、なぜか在野をうろついてるタイプのチートな。あるある」
内政とか戦略系のシミュレーションゲームでよくあるやつきたな……あれ一種の救済措置なのかな? その割には敵陣に拾われたりすることがあった気もするけど。
と、昔にやったパソコンゲームの記憶からそんなことを言えば、リーベはええ、と頷いて続けた。
「対して公平さんはバグキャラ、もしくは製作者がデバッグ用に用意した無敵キャラみたいなもんじゃないですかー。実プレイにおいて使用されることが、そもそも想定されてない無敵キャラのほうが、インチキぶりも何もかも上ですよー?」
「…………」
案外的確な表現で反論できない。プログラムそのものがユニットになってるような存在が、こいつチートじゃんずっる! なんて言えるわけないよね。
頭をかいて、俺は誤魔化すようにコーヒーを啜った。
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