コネを使っての新規探査者登録…山形じゃなきゃ見逃しちゃうね
5/5 13:52 後半部分を修正しました
当初はリーベが新規探査者教育を全部スキップするといった内容でした。
こちらはリーベの勘違いで実際には受けなければならない、というのを後々のエピソードで回収しようと思っていたのですが、普通にリーベとヴァールの印象が悪いな、と読み直して思ったための修正になります。
お手数おかけして申しわけありません。よろしくおねがいします。
夏休みが始まって数日が経った。今日も朝から、俺はのんびりと自室でスマホをポチポチしている。
キンキンに冷房を効かせた部屋で、音楽を聞きながらお菓子とジュースを食べてソシャゲをダラダラやるサイコーな生活だ。たまんないな〜! これこれ、夏休みったらこうでなくっちゃ!
「公平さん、今日は一日のんびりモードですかー?」
「きゅっきゅ。きゅーきゅー」
アイを抱きしめ、俺のベッドに横たわってウトウトしているリーベがそんなことを聞いてきた。こいつのくつろぎっぷりもなかなかに大概だ。っていうか自分の部屋があるだろうに、なんで俺の部屋のベッドで寝転がるかね。
なけなしの石でガチャ10連──よっしゃお目当てゲット──しつつも、俺は彼女に答えた。
「いや? 昼前には家出て、外で飯食ってダンジョン探査するつもり」
「ミッチーとですかー?」
「ああ、それとアンジェさんとランレイさんとヴァールな」
「へえー、珍しいメンツですね……えっ、ヴァール!?」
「きゅ!?」
驚きの声。唐突なリアクションのリーベに、同じくウトウトしていたアイもビックリしている。
香苗さんはいつものこととして、アンジェさんとランレイさん、果てはヴァールまで一緒にダンジョン探査というのは予想していなかったんだろう。
そう、今日は珍しいメンツでのダンジョン探査だ。数日前に祝勝会で知り合った二人、マリーさんの孫のアンジェさんとリンちゃんの姉のランレイさんに加え、リーベと同じ精霊知能であるヴァールを迎えてのパーティ構成。
香苗さんとヴァールはともかく、アンジェさんとランレイさんは俺にとっても未知の方々だ。探査スタイル以前に人となりがよくわかっていない。
愕然としたリーベが、半身を起こして俺に問いかけてきた。
「な、な、な、なんでヴァール!? 嘘でしょ公平さん、リーベを捨てて他の女をパートナーに!?」
「怖ぁ……なにその人聞きの悪さ。アンジェさんとランレイさんのお目付け役らしいぞ」
「はあ、お目付け」
「なんか、特殊な事情があるみたい。俺もよく知らんけど」
祝勝会の折、アンジェさんやランレイさんの二人と、どこかのタイミングで探査するようにマリーさんから頼まれていたわけなんだけど。
香苗さんの取次もあり、じゃあこの日に一緒にやりましょうか、と話がまとまった段になって突然、ヴァールからも連絡が来たのだ。
『アンジェリーナ・フランソワおよびシェン・ランレイ両名との探査にワタシも立ち会いたい。ぜひ同行させてくれ』
……とのことだ。なんで? って思ったんだが、まあそれは現地で本人に聞けばいいかなって思う。別に来る者拒まずだし。
「なんならお前も来てくれよ。《医療光粉》、貴重なヒーラーとしてどんな局面でも役に立つしな」
「む……そうですねー。相棒の座を奪われるわけにはいきませんからねー! ヴァールはソフィアのパートナーであって、公平さんのパートナーはこの! かわいいかわいいリーベちゃんだけ! なんですよー!!」
「お、おう」
「きゅ、きゅう」
高らかに自分を叫ぶリーベにタジタジ。アイも引き気味にして俺の机に飛んできている。
ソフィアさんまでの歴代アドミニストレータのパートナーを務めていたヴァールゆえに、リーベとしてもライバル心があるんだろうか? 変な心配しなくともヴァールにはソフィアさんだけで、俺にはお前だけなんだけどな。
迂闊に声に出すとリーベに死ぬほどうざ絡みされそうなことを考えつつ、アイの背中を撫で擦る。気持ちよさそうに鳴き声をあげるこの子の愛らしさに心を和ませつつも、俺は言った。
「じゃあ決まりだ、リーベも参加な……そういえばお前、探査者登録しないの?」
「え……あ、あー。実はこないだ、ミッチーとモッチーとダンジョン探査に行った時に済ませてるんですよー」
「そうなん? まあ、そりゃそうだわな」
スキルを持っていてダンジョンに潜れるんなら、探査者として新規登録をするのは義務だ。そしてその上で、新規探査者教育を受けてからダンジョンに潜るのが普通の探査者デビューの流れである。
明確にシステム側の存在であった頃ならいざしらず、受肉して人間社会の中で生きていくこれからはそういう、規則に則った動きもしていかなければならない。そう思って言ってみたんだけどさすがはリーベ、そのへんは抜かりなく段取りをしているみたいだ。
「新規探査者教育についても、ヴァールが広瀬本部長さんに計らってくれてー、いくつかの工程はスキップさせてもらえましたー」
「はあ!? え、どのくらいスキップ!?」
「えーと、ダンジョンに関する知識教育ですねー。実際、探査者になる前の時点でダンジョン探査経験がある人は、認可の上で免除してもらえる制度があるみたいですよー」
いや、いやいや。なんてこったこいつ、半分近くの工程をスルーしやがった!
ダンジョン探査経験者ならそのへんは免除って、聞いたことあるけどもさあ……そういうのはたしか、元々から探査者登録せずにダンジョン探査をしていた、いわゆるアウトロー向けの救済措置だったはずだ。
それをリーベに当て嵌めて適用したのか。ヴァールめ、さすが立場柄か規則には詳しいやつだな。
しかし……となるとこいつ、ほとんどの教育をスルーするってのか。なんか腹立ってきたぞ。
俺はあんなに苦労したのに。春休みまるごと新規教育に費やしてしまった俺と比べて、なんだこいつの楽チンぶりは!
「ズルいぞお前っ!?」
「何がですー!?」
「あんなに大変だったのに! 俺の春休みが全部潰れたのに!」
「え、えええ!?」
「きゅ、きゅう!?」
突如興奮し始めた俺に、今度はリーベがタジタジだ。
いやでもマジでズルいぞこいつ! ヴァールもヴァールだ、何考えてんだあいつ!!
「俺の春休みを返せーっ!!」
「いま夏ですよー!?」
「きゅ、きゅきゅきゅー!」
ヴァールに対しても含めて怒った俺は、しばらくリーベとアイに宥めすかされたのだった。
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