進撃のプリクラ
ランチも終えて俺たちは、午後をショッピングモール内のゲームセンターで過ごしていた。プールで涼を得たとはいえ外は灼熱、屋外をうろつく気にもならない。
屋内でみんなで楽しく過ごそうということで、ちょうどいいのがゲームセンターだったわけだね。それぞれみんな分かれて、思い思いのゲームをしている。
ホッケーゲーム。松田くん、馬場さんのペアと比良くん、木下さんのペアで競いあっている。さすが中学からの付き合いか、松田くんと馬場さんのペアが優勢みたいだ。木下さんもよく打ち解けて比良くんとも仲良くしている。
シューティングゲームは片岡くんと遠野さん。さきほどのランチの時に、遠野さんの想いみたいなものを薄っすら感じ取った俺から見ても、彼をゲームに誘った彼女は勇気を振り絞っていたと思う。
クレーンゲームは沼津くんに柴木さんの独壇場だ。人気アニメのぬいぐるみやらフィギュアやらを目当てに、さっきからすごい勢いでお金を投入している。
というか沼津くんがひたすらクレーンに興じており、それを柴木さんが腹を抱えて笑って見ているな……なんだろう。柴木さん、割と沼津くんをからかうのが好きなんだろうか? なんとなくそんな気がする。あっ、景品取れてる。おめでとう。
「ぬいぐるみかあ」
「柴ちゃんにプレゼント……あっ、した。やるじゃん沼っち」
かくいう俺はというと、梨沙さんと休憩所のベンチで並んで座って雑談話だ。遠巻きから人のゲームを見て、思いついた他愛無いことをお互いに話し合ったりしている。
縁側のおじいちゃんおばあちゃんかよ、と思わなくもないし実際、沼津くんにはさっき怪訝な顔をされた。俺も梨沙さんもこういうとこに来たらそれなりに遊ぶほうなんだけど、今日のテンションはどちらかと言えば、こうしてのんびりベンチでおしゃべりって感じだった。
「なんか、平和って感じだね〜」
「そうだね〜」
ペットボトルのお茶を二人、飲む。ほっこりって感じで座る俺たちを、他のお客さんたちや店員さんたちも時折見てくる。
夏休みの午後なので当然というべきか、人気は多い。このショッピングモール、映画館もあればフードコートもあるからね。近場の青少年が暑さ凌ぎに遊びに来るにはもってこいの場所ってわけだ。
なんなら見たことのあるような、ないような顔もちらほら見る。同じ中学だったか、下手すると別のクラスの同級生かもしれない。梨沙さんのほうはバッチリ知り合いみたいで、手を振って挨拶することが時折あった。
マジでこの子、顔広いよなあ。リア充の中でもさらに格上の、本物のトップカーストギャルだわ。そんな子がなんの因果で俺の隣で一緒に茶を啜っているのか、世の中は不思議だ。
「公平くんはさ、夏休みも結構、ダンジョン探査するの?」
「ああ、まあね。いろいろと面倒ごとは一段落したけど、だからこそ日常的な探査は続けていきたいから」
梨沙さんの質問に答える。面倒ごと、要するにアルマ絡みのあれやこれやはバッチリ決着をつけたわけだが、それはそれとして俺の探査者人生はもちろん続いていく。
探査者として、アドミニストレータとして、コマンドプロンプトとしての次の仕事はモンスターの浄化。彼らを倒し、魂を解放して輪廻の輪に組み込んでいくのだ。
恐ろしく地道で、世界中の探査者が総出でかかっても何百年かかるんだかわからない作業だけれど。こればかりは地道にコツコツ、積み重ねていくしかない。
当事者として俺も、少しでも協力しなくちゃならないと思うのだ。それゆえ今後も継続して、ダンジョン探査は行っていく心積もりでいる。
「探査者だからね。ダンジョンは潰すし、モンスターは倒す。そうやっていくことが人様の役に立つんなら、それもいいもんだなって思うから」
「そっか……偉いね、公平くんは」
「やりたいことをやってるだけだよ」
正確にはやりたいこととやらなければならないことが一致している、だろうか。500年の後始末は、俺にとって義務であり欲求だからね。
とはいえのんびりとやっていくさ。滅亡が迫っているわけでなし、俺一人、この世代一代で成し遂げられるものでなし。いずれは後進なんかも育てつつ、次の時代にゆっくり進めていったらいいと思う。
『呑気だねえ。ま、気長に頑張りたまえよ』
脳内のアルマ。まったくこいつめ、元は何もかもお前の妄執が原因だろうに。
そうそう、こいつにあれこれ教え、考え直す機会を与えるのも目的なんだ。ここのところに関しては、山形公平が死んだあとでもひたすら時間をかけてやっていこう。
「……よし。俺たちもなにかしようか? 梨沙さん」
「そうだねー。じゃあさ、プリクラとか!」
「えっ」
気分転換になんかやろうか、と提案したところすごいことを言われてしまった。プリクラ。
男一人とか男同士では入れない、女子だけの聖域に俺がお呼ばれしたのか? え、怖ぁ……痴漢扱いとかされないよね?
「大丈夫なの? 梨沙さんと一緒とはいえ、男が行っても」
「ふふ、へーきへーき! ほら、こうして」
女の園に入り込もうという恐ろしさに震える俺ちゃんに、梨沙さんはクスリと笑い、そして。
おもむろに俺と手を繋いだ。ただの手繋ぎじゃない、指と指とを絡める、こここ恋人つつつなぎだだだだ!?
「んおお!?」
「お、驚きすぎ……こ、これなら大丈夫、離れないし、その、二人でしょ?」
そう言ってはにかむ梨沙さんは非常に魅力的で。
なんなら、繋いだ手の温もりは夏の暑さに負けないくらい、暖かくて。
俺は何も言えないまま、手を引かれてプリクラコーナーまで進撃したのだった。
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