ラブコメの波動を放てッ
ショッピングモールのフードコート、たどり着いた俺たちは二席に分かれてランチだ。ラーメン屋とかカレー屋とか、珍しいところでは東南アジア系の料理店なんかある。どれ食うか迷うなあ。
『せっかくだし普段食べられなさそうなもの頼みなよ。人生何ごとも挑戦らしいよ、公平』
脳内に響く声。お前はとりあえず珍しいもの食いたいだけだろ、アルマ。
とはいえたしかに、エスニックな感じの料理って普段、食卓にはあまり出てこないしな。まさか邪悪なる思念に人生はチャレンジだ! などと説かれる日が来るとは思ってもいなかったが、一理あるのはたしかだ。
みんなそれぞれ、食べたい料理を注文しにあちこちの店に散らばっている。エスニック系は敬遠しがちなのか、誰も行ってないみたいだな。
よし、ここは俺がチャレンジしてみるか。店に行き、店員さんにあれこれ頼む。メニューを見るとさすが、馴染みのない料理名がちらほら。
ほう、グリーンカレー。何度か食ったことあって美味しかったけど、これってエスニック料理だったんだな。ほほう、ロコモコ丼? ハワイじゃなかったっけ。まあいいや美味しそう。
「えーっとガパオライスに、コーラお願いします」
中でもとりわけ、いまいち内容が想像できなかった料理を頼んでみる。ガパオってなんだろ、どこの料理かな。楽しみ。
会計を済ませて、呼び出しボタンを受け取って席に戻る。俺のいる席は4人座れて、他に梨沙さん、片岡くん、遠野さんが座っている。
「おかえり、公平くん」
「うん、ただいま」
梨沙さんに迎えられつつ、席に座る。すぐ近くの席には残りの6人、松田くん、木下さん、比良くん、沼津くん、馬場さん、柴木さんが座っていて、向こうのほうがやはり陽キャ空間なのか盛り上がっている様子だ。
アウェイ感あるだろうなって思って心配していた木下さんも、なんか普通に打ち解けている。コミュ力つよつよだあ……
「あー……ちょっと落ち着くー」
「わかる〜」
片岡くんが脱力した様子で呟くのに、俺はすかさず乗っかった。実のところいつものこのグループにおいて、真に俺と同類なのは片岡くんだ。
松田くんも遠野さんも木下さんも、日常生活においては他のグループと遊んでたりするし、梨沙さんに至っては男女も学年も問わず友人が多いコミュ力チートだ。交友関係の広さで言えば関口くんすら超えてるんじゃないだろうか。
そんな中、俺と片岡くんだけは学校においてこのグループの他に仲良しさんがいない。孤立してるわけじゃ決してないんだが、自分で言うのもなんだけど割合、内向的な性質なためなかなか他のコミュニティにに踏み出していけないのだ。
俺の場合は学外で探査者としてのあれこれがあるけれど、片岡くんはどうなんだろうな? とまあ、とにかく俺と彼はそういった意味で、唯一無二の共通性を持つ二人なのだった。
「こう、なんだろうな……いい人たちだからこそ疲れるよな、山形」
「それね。ボロ出さないようにってなるよね。初対面だと特に」
「ああ、わかるわかる。嫌われたくないよなあ」
それゆえだろうか、まあ彼とは話の合うこと。趣味もゲームとかネットとインドア派でネタとかもよく知ってるから、そういう意味でも他人を相手にしている気がしない。
向こうもシンパシーを感じてくれているようで、結果的にお互い、クラスどころか学校内では一番仲のいい人、みたいになっている。
俺的には梨沙さんとどっこい同率一位、ってほどの仲良しなんだが、梨沙さんは顔が広い分、俺より仲のいい人は絶対いるだろうしな。いやまあ、さすがに異性間の距離では俺が一番近い気はしてるけども。
とにかくそのくらい馬の合う陰の仲間。それが片岡くんだった。
「ごめんね二人とも、無理させちゃって」
「いやー久しぶりだから、なんか身内ではしゃいじゃった。ゴメン!」
梨沙さんと遠野さんが、気まずそうに謝ってくる。
いや、別に謝ることじゃないっていうか、勝手に気を遣ってボロを出さないように、嫌われないようにって気疲れしたのは俺と片岡くんだし。
「いや、気にせず気にせず」
「俺らも楽しかったよ。ありがとうな佐山、遠野」
「片岡……」
男二人で取りなせば、梨沙さんも遠野さんもホッとした心地になってくれた。ていうか遠野さん、妙に嬉しそうに片岡くんを見ている。おやおや? 頬なんか染めちゃっている。おやおやおや〜?
えっ、えっ。嘘、嘘ぉ。マジでぇ?
「梨沙さん、あの」
「……公平くん、たぶん当たり。ここは見守ろ、ね?」
「アッハイ!」
咄嗟に梨沙さんに確認しようとしたところ、そっと微笑まれて人差し指を唇に当てられてしまった。予感大当たりですか!!
間違いない、遠野さんは片岡くんのことを…………!
思わぬ事実にニヤけるのを噛み殺す。ラブコメや。ラブコメがワイの目の前で展開されとる。
思わず関西弁丸出しになってしまうほどの衝撃的ニヤニヤ。
夏休みサイコーですね! と、自分のことでもないのにウキウキしちゃう俺ちゃんは、間違いなくあの母ちゃんとあの妹ちゃんと血が繋がっているのでした。
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