朋あり遠方より来る、また楽しからずや
プールも堪能したので、梨沙さんの同級生さんたちと一緒に俺たちはプール施設を出た。時間的には割と昼なので、近くのショッピングモールにあるフードコートでご飯にしようということになったのだ。
道中、同級生さんたちにあれやこれやと聞かれる俺。
「あ、今年の春からなんだ。探査者やってるのって」
「い、いやあそうなんですよ。ちょうど中学の卒業式の夜に、風呂入ってたらあなたはスキルを獲得しましたーって。ビックリして溺れかけたなあ、あの時は」
「やっぱ声するんだ! え、すげえ!」
女の子、馬場さんと男の子、比良くんに挟まれて話す。なんでもこの二人、探査者界隈に興味があるらしい。スキルは持たないので、あくまで知識とか特定の探査者を推すとかの方向みたいだが。
特に比良くんのほうはアンジェリーナさん推しという、なんとも奇遇な話だ。
ちょうど昨日会ったよとか、この辺にしばらくいるよとかはさすがに話すわけにはいかないが、祖母のマリアベールさんとはちょくちょくやり取りしてるよ的な話をすると、比良くんはびっくりして俺を見ていた。
「マリアベールさんって山形くん、どこで知り合ったんだよ! S級探査者でもトップ層じゃん!」
「あー、5月頃に探査者のイベントで。それ以来、ありがたい話で縁を繋いでもらえまして」
「すげえ、マジすげえな! 山形くん神じゃんスッゲ! っていうかなんで敬語なんだよ水臭えジャーン!?」
「ひぇっ!?」
興奮したように肩を組んでくる、あまりに距離の詰め方がナチュラル陽の者な比良くんに悲鳴が喉から出てしまった。怖ぁ……
比良くん、いい人みたいなんだけど怖い。髪染めてるし、体格いいし。剃り込み入れてるし。外見で判断しちゃいけないんだけど、次の瞬間おらっ! 跳ねてみろっ!! とか言われそうで目眩がする。
一方で俺のすぐ後ろ、ちょうど三歩くらい後方の位置をキープして歩く梨沙さんに、もう一人の男子、沼津くんが話しかけていた。
「梨沙ちー、あいつとどんな関係なんだよー」
「公平くん? 助けてもらった恩人で、友だち。それと……今みたいに、一緒にいたい人、かな」
「…………それって探査者だからだよな。ぶっちゃけ、それ以外んところは割と普通じゃん」
お? おおお?
沼津くん、ちょっとかつての関口くんっぽいぞ。具体的には香苗さんが絡んでる時の関口くん。俺の名前を逐一間違えていた頃の関口くんだ。
見た目、金髪でアクセサリーも付けている分、爽やかよりはチャラさのほうが強いけど。どうも言動が関口くんめいている。
まあ、久々にあった知り合いのギャルが、とっぽい山形に引っ付いてたらそうもなる……のか? よくわからんけど、探査者だからだろってのは割とそれはそうってなる。
梨沙さんとの繋がりの起点ってスタンピード、つまりは探査者由来のところが大きいからなあ。それ以前からカラオケ行ったりはしてたけど、もし俺が普通の学生だったら今ほど、距離が近い感じにはならないだろう。
なんせたぶん、俺が腰引けるし。相手ギャルだし。パンピー山形は骨の髄までビビリマンなのだ。春先までの自分のことなのでそのへんはよくわかっている。
だが、梨沙さんは沼津くんに対してバッサリと言い返した。
「なわけないじゃん。探査者じゃなくても、私は公平くんとこんな感じになるって思う」
「っ……マジかよ~? なんで?」
「公平くんはね。探査者だとか関係なしに、人を思いやって、誰かのために泣けて、自分のことなんて後にしちゃう人なの。探査者だからそんな人になったんじゃなくて、そんな人だから探査者になったの」
彼女のべた褒め。山形が先か探査者が先か。そこについての思うところが、語られていく。
まあ、探査者になるのに人格的な素養とか関係はないし、俺が探査者、っていうかアドミニストレータになったのはある種必然ではあるんだけれども。
それでも探査者でない、俺個人をそう言ってもらえるのはすごく、ありがたいなと思う。同時に、そんなふうにこの子は思ってくれているのかって驚きもあるけど。
「わかる? 探査者だからなんてしょーもない話じゃなくて、公平くんが公平くんだからなの。優しすぎるくらい優しい人だから、素敵な人だから今、こうして一緒なの。オーケー?」
「…………そっかあ。山形くん、いい人なんだなあ」
「えっ? あ、ありがとうございます……」
「同い年でなんで敬語!? ハハッオモロじゃん」
梨沙さんの言葉に何かを納得したように、諦めたように朗らかな声をあげる沼津くん。一応名前を呼ばれたので振り向いて軽く会釈すると、なんかオモロされた。怖ぁ……
というか梨沙さんがやたら優しい笑顔で俺を見ている。母性とか慈愛って感じで、どうも同級生とは思えない包容力を感じる笑みだ。
応じて曖昧な笑みでいると、なんだか仕方ない人を見る目で嬉しそうに笑われてしまった。なに? なんなのぉ?
「沼っちざんね~ん! ま、あんたじゃ高嶺ってことね」
「うっせーわ柴木! てめえチンチクリン、おちょくんな!」
沼津くんに面白がるように、もう一人柴木さんって女子が纏わりついた。どこか嬉しそうな笑顔だ。沼津くんもいつものことなのか、慣れた様子で、でも楽しそうにあしらっている。
それを見て、梨沙さんや松田くん、遠野さんも笑っている。ああ、これが中学時代の彼女たちだったんだなって今、腑に落ちる俺だった。
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