閃光のパリピー
いや、同じ中学だった三人が、その友だちさんたちと行くんだよな。必然的に俺と木下さんと片岡くんは浮くので、まあ一旦ここで解散して、あとはそれぞれ分かれて遊ぶなりなんなりする、んだよね?
そう思ってることを述べると、梨沙さんは得心した様子で、けれどどこか俯きがちに言う。
「たしかに……公平くんには肩身狭いよね……」
「まあ、初対面だろうし……」
「……でも……公平くんに、いてほしいな。私」
「梨沙さん……」
珍しい気がする、梨沙さんの直球のお願いごと。俺は意外に思いながらも、即座に決心した。
思えばこの子、俺に関してはいつだって俺を立てて、俺を優先してくれている気がする。
探査者として働く俺を慮ってくれる、聡明で優しい健気な子だ……そんな子がこうまで言うなら、応えてあげるべきなんだろう。
笑顔で頷く。
「わかった。たぶん、そんなにうまく喋れないと思うし、置物同然だと思うけど……梨沙さんのそばにいるよ」
「公平くん……ありがとう。ごめんね、こんなワガママ」
「気にしないでよ。いつも世話になってる、せめてものお礼だ」
罪悪感を滲ませる梨沙さんの肩を叩く。素肌に触れるのって、たとえ肩でも勇気いるわ。心臓バックバク。
ともかくそんなわけで、俺は梨沙さんたちの中学の同級生と会う運びになったのである。
正直、緊張する。初めての人と会うのは怖い。なんなら友だちの友だちってんだからなおのこと、今朝方リーベに話したみたいな接待モードで接されたりしたら、もう気まずいこと仕方ない。
そうなればいよいよ、どこかキリのいいところで帰ろうかな〜。帰ってクーラーの効いた自室で、アイと戯れたりリーベと遊んだりしながらダラダラ過ごすのだ。
最高じゃ〜ん。
「私と2年の時に同じクラスだった子たちでさ! ちょっとノリは軽いけど楽しいやつらだし、きっと公平くんも仲良くしやすいと思うよ!」
「そうなんだ……」
…………楽しそうな梨沙さんの笑顔を無碍にするわけにはいかない。これ途中離脱も無理そうなやつじゃ〜ん!
昔の友だちに今の友だちを引き合わせることにウキウキしだす感覚が、ちょっと俺にはよくわからないけど。ここまで楽しそうに笑う彼女を曇らせてはいけないと、なんだか妙な使命感が沸き起こってくる。
「……これは、絶対に負けてはならない戦いである。なんてか」
「公平くん?」
「あ、いやいやへへへ。なんでもないなんでもない」
気合づけで呟いたのを拾われかけてドキッとする。いかんいかん、中二なんてレベルじゃなかったぞ、今のアドミニストレータごっこ。
それ以前に、ただ友だちの友だちに会うだけでそこまで気合を入れなきゃならんのだろうか、という話である。いくらなんでも陰の者すぎる。自分で自分に戦慄したわ。
プールからあがり、梨沙さんに連れられてパラソルとかビーチチェアのあるエリアに。なんでもみんな、そこに集合しているらしい。
ああマジで緊張してきた。どうしよう、何こいつ? みたいな目で見られたら。あるんだよそういうの、身内の輪の中に入ろうとして逆に浮くやつー!
怖ぁ、ほんと怖ぁ……あくまで内心で怯える俺。
だが梨沙さんはそんな俺を持ち前の人を見る目でバッチリ見抜いてしまったらしい。俺の手を柔らかく握り、静かに笑ってくれる。
「大丈夫……ほんと、いい奴らだし。それにもし公平くんに嫌な思いさせたなら、誰より先に私が怒る」
「えぇ……?」
「マジで、公平くんより先にキレるからね。だから安心して、なんて言えないけど……何があっても味方だからね」
断言してくれるのはありがたいんだけど、俺より先にキレだすのはそれはそれで怖い。まあ、梨沙さんがここまで言うからには、本気で俺の味方でいてくれるんだろう。
しかしこう言われると、嫌な思いするわけにもいかなくなった感もあるよね……まあ、もういいや当たって砕けろだ。これ以上ウジウジしてても仕方ないし、いっちょやってみますか!
「おーっ? きたきた、梨沙ちー遅えよ〜!」
「えっ、何そっちの男の子、もしかして彼氏ぃ!? うそ、あの梨沙に!?」
「きゃーっマジ!? 鉄壁佐山に春到来!?」
「今は夏だっつーの! ハハハハ!!」
怖ぁ……当たるまでもなく砕けちゃった、俺のハートぉ……
一目見た瞬間、パリピの閃光が俺を貫き消し飛ばしていくほどの衝撃。紛うことなきクラス内でもトップカーストだろうなコイツラ!! って感じの陽キャ集団、少年少女がざっと四人もそこにはいた。
松田くんや遠野さんとは親しげに話しているが、そのぶん片岡くんや木下さんが肩身狭そうな空気を出している。なんてこった。
「! 山形!」
「山形くーん!!」
「や、やあ」
来た! 救世主来た! みたいな顔でこっち見るのをやめてくれ、俺だって哀れな子羊でしかないよこんなの。
白目を剥いていないのが我ながら不思議なくらいだ。気が遠くなる思いで、それでも俺は梨沙さんや松田くん、遠野さんの中学の同級生さんたちに歩み寄っていった。
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