やめて!私のステータス上で争わないで!!
リンちゃんとランレイさんが組合本部へ向かうため、この場から立ち去っていく。プールのほうはさっそく、スタッフの人たちが総出で点検等の復旧作業に取り掛かっている。
プールに再度、水を張るにも時間がかかる。施設そのものの安全確認もあるから、やっぱり今日のところは完全に営業停止となってしまうみたいだった。残念。
「代わりに近場のプールに案内してもらえるそうだし、ギリギリセーフって感じよねー」
「同感。バスまで用意してくれるんなら文句ねーわ俺。さすがにここから歩くのもしんどかったし」
遠野さんと片岡くんがそんなやり取りをしながら、施設入口の日陰にて休んでいる。
俺や梨沙さん、松田くんに木下さんもそうだし、なんなら他の、同じくここのプールを利用しようとしていた人たちだってそうだ。手配してもらったバスがもうじき来るらしいのを、暑さに耐えつつ待っていた。
スタッフさんが、せっかく来てもらったのだからと言うことで、近くのプール施設に連絡して送迎バスを寄越してもらい、今日はそちらを利用できるように話をつけてくれたのだ。
なんでもそっちの施設でも過去、似たようなパターンでダンジョン発生があり営業停止の憂き目に遭った経験があるとか。それをきっかけに周辺の、似たような施設間でのサポート体制を整えていたみたいだな。
なんという素晴らしい取り組みだと感動を禁じ得ない。
「突発的なダンジョン発生にも、手を取り合って対処する……探査者でなくとも民間レベルで、ダンジョンに対して協力してるんだなあ」
『僕が言うことじゃないんだろうけどさ。もうちょっと場所とかタイミングの節度を守ってダンジョンを発生させられたりしないのかい? 君んとこのワールドプロセッサ、それくらいならできるんじゃないの?』
しみじみ呟く俺に内心にて、アルマの言葉が響く。
ダンジョン発生の条件や頻度、範囲などをシステム側で制御できないのか……なるほど。オメーが言うな感はうっすらあるけど、その指摘自体はあって当然のものだ。
たしかにこの世界におけるダンジョン周りのシステムは、ワールドプロセッサが制御と管理を行っている。
ならば臨機応変に発生条件等を弄れるんじゃないのか? という問いもあろうものだが。結論から言うならそれに関しては、今ではもう不可能に近いと答えるしかないだろう。
これは、ダンジョンだけというならまだしもモンスター関係、つまり異世界の魂まで紐づけしているため、そのへんの因果関係が大変複雑かつ煩雑なことになったのが原因だ。
ぶっちゃけもう、ワールドプロセッサ当人ですら迂闊に手出しできなくなっちゃってるんだよね。そのくらい、天文学的な量の因果が絡まっている。
『えぇ……? そんな素人じゃあるまいし』
アマでもプロでも、本来ならあるはずのない異世界関係の因果まで本来あった因果に組み込もうってなったらこうなると思う。ていうか元凶はお前だろ、なに呆れた声あげてんだ!
────と、称号が変わったのを感知する。
これまたタイムリーだな。おそらくアルマとのやり取りを聞いていて、それを受けてのまたしてもお気持ち表明なんだろうけど……怒りの気配を感じるので確認したくないなあ。
とはいえ仕方ない、自分のステータスなんていつかは見なくちゃいかんもんだし。小声で呟き、俺はステータスを表示した。
名前 山形公平 レベル645
称号 邪念妄執、愚心礼賛
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
名称 よみがえる風と大地の上で
名称 目に見えずとも、たしかにそこにあるもの
称号 邪念妄執、愚心礼賛
解説 愚かなる心、邪念にまみれ妄執を礼賛す
効果 なし
《称号『邪念妄執、愚心礼賛』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……下らない妄想ゆえにすべてを投げ出した愚かなる邪悪、魂の名を冠することすら本来であれば不遜の極み。コマンドプロンプト、更生不能と判断したならばいつでも私にソレをお任せください》
「怖ぁ……」
『ふん、図星を突かれて人様の称号欄で誹謗中傷とはね。これが君の片割れ、この世界のワールドプロセッサの本性かい』
称号から解説からコメントまで辛辣極まる、うちんとこのワールドプロセッサ。殺意と憎悪を隠すことないその文言にも怖すぎて震えるが、一切動じたりビビったりせず、なんならさらなる減らず口をたたくアルマのほうも怖すぎて震える。
いやまあ、俺のステータス上で悪口書くなってのはまったくもって同意なんだが。それにしたってちょっとは悪びれろよお前も。
あまりにあんまりすぎる。なんだこいつら、逆に気が合うんじゃないのか?
『冗談。公平がいなければ普通にこの世界まで喰らい尽くせていた以上、僕のほうがはるか格上だ。誰にとっても想定外な存在である君に、たまたま助けられただけの小物と一緒にしてもらっちゃ困るね』
その想定外な存在と同格なんですよ、お前の言う小物ちゃん。
ていうかこれ以上挑発しないでもう、黙っといてくれ。面倒くさいわお前ら!
「バス来たよ、公平くん。大丈夫? ボーッとして」
「ん……あ、ああ大丈夫ありがとう。ちょっと考えごとをね、はは」
梨沙さんの言葉に現実に意識を浮上させる。たしかに送迎バスが来ている。
やれやれ、ただの質問にずいぶん疲れさせられるなあ。俺はとりあえず梨沙さんと並び、車内に乗り込んだ。
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