豹変!シェン・ランレイ!!
天高く、一直線に打ち上がる星界拳。鮫モンスターの腹部をぶち抜く勢いでリンちゃんとランレイさんの右脚が突き刺さっている。
同時にプールの底、ダンジョンが消えた。察するにコアを取ってから出口際、隠れるなりスルーするなりしていたモンスターと出くわしたから、勢いのままに蹴りつけてダイナミック脱出と決め込んだって感じかな?
「っ姉ちゃん!!」
「リン!!」
眩しい日光が照りつけて、姉妹を照らす。美しい星界拳士二人は、互いに互いを呼びあった。
瞬間、モンスターと体勢が入れ替わる。シェン姉妹が上、モンスターが下の構図だな。そしてモンスターが踏み抜くように蹴り飛ばされ、プールサイドの床に叩き付けられる。
そこにめがけて────
急降下するシェン・フェイリンとシェン・ランレイの、一糸乱れずのコンビネーション技が放たれた!
「星界拳、双竜技!!」
「星ィィィ界ッ! 双天ッ! 覇震脚ゥゥゥッ!! っどぉっりゃああああああああっ!!」
超高度からのまったく同じタイミングでのスタンピング。星界双天覇震脚とはまた、見るからに合体技って感じだ。
ていうかランレイさん、かなり叫ぶんだな。ハオランさん共々、控えめな声ってイメージがあるから意外だ。あれかな、ハンドル握ると豹変する人みたいに、戦いになると叫んだりするタイプの人なのかな。怖ぁ……
「んぎょえっ────!?」
叫ぶことすらできなかったようなうめき声。鮫人間とでも言うようなモンスターは、明らかなオーバーキルで無事、光の粒となって消えていく。
若干安らかな感じというか、妙に嬉しそうな顔をしているのは、魂が浄化され、輪廻に乗るからなのだろうが……正直、踏まれて嬉しそうにしているとも見えてしまう。いやいや、まさかね?
完全に消え去ったモンスター。のち、わずかな静寂。
事態が解決した、そんな余韻をかき消すように。バッチリポーズをキメるシェン姉妹の声が高らか、真夏の湖岸沿いに響き渡った。
「天覇! シェン・フェイリン!!」
「天覇ぁっ!! シェン・ランレェェイぃっ!!」
それは自身の力と存在を、世界に示すかのような叫び。
星界拳士たる彼女らが、その名を知らしめんとするような名乗りだ。
絶世の美少女とも言える二人がやるもんだから、一気に周囲のテンションも最高潮。成り行きを見ていた人たちから、それはもう盛大な歓声があがった。
「うおおおおおおっ! すげええええええ!」
「なにあれ、なにあれ! 超かっこよかった!!」
「シェン? シェン! シェェェェェェン!!」
わーわーと人々の声。ダンジョンを踏破した探査者へ、見事な技を披露してくれた拳法家姉妹へ、惜しみない拍手とともに賛辞が送られている。
もちろん俺も拍手だ。素晴らしい速度でダンジョンを踏破したA級探査者二人に、惜しむべき賛辞などありはしない。
「謝謝! どうも! どーもどーも!! 星界拳をよろしく! 星界拳正統継承者シェン・フェイリンをよろしく! えへへへっ!!」
リンちゃんは当然のようにそうした拍手やら喝采を浴び、心地好さそうにドヤ顔で反応している。堂々たる態度、まさに星界拳正統継承者たる姿勢だろう。
一方でもう一人の立役者。リンちゃんに負けず劣らずの技の冴えを見せつけてくれた、姉のランレイさんはというと──
「ひいいいいいいっ!? ごごごめんなさいごめんなさいイキっちゃってごめんなさいいいいいい」
「えぇ……?」
なんかめちゃくちゃなことになっていた。さっきまでの勇壮なる姿はどこへやら、すっかり縮こまっていて、リンちゃんの背後に隠れている。
どうもこれは本気で、戦う時だけ人格が切り替わるタイプみたいだな。平時は今みたいな感じで、戦闘時にはさっきみたいになるのか。
リンちゃんが頭を抑えて空を見ている。あちゃー、って感じの仕草だ。そうしてから俺の方を向いて、背中に隠れる姉ごとやって来た。
「公平さん、ありがとう! おかげでものすごく探査、スムーズだった!」
「あわわわありがとうございますぅうううう〜」
「いやいや、お見事でした二人とも。星界拳の合体技、すごいもんだね」
心から労う。先程の星界拳のコンビネーション技は本当にすごかった。
シンクロナイズドスイミングを彷彿とさせる動きの一致ぶりは、単なる足し算でなく相乗的に破壊力を加速させていたように思う。
あれほどの動きと連携は、一朝一夕では到底なし得ない。
「ん。久しぶりに組んだけど息ピッタシだった! さすが姉ちゃん!」
「え、えへへへ……私も、星界拳士と組んだの久々だったから……しっくり来たなぁって、へへへへ……」
顔を見合わせて笑い合う姉妹、なんとも仲の良い光景だ。
周囲の人々の暖かい拍手に囲まれての、こうしてプールダンジョンは踏破されたわけだな。
ランレイさんがコアを取り出した。あとは組合本部に戻って、受付でこれを引き渡したら二人の探査業も一段落か。
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