炎天下の打ち合わせ
母ちゃんの怒りが怖いので、俺はもちろんのこと、リーベも用事で朝っぱらから出かけることにしたらしい。
具体的には宥さんがダンジョン探査に赴くらしく、そこにリーベと香苗さんが同行するのだ。C級なりたての宥さんに、S級相当の実力を持つA級トップランカー香苗さんと、システム側の精霊知能としてスキルにもある程度詳しいリーベがアドバイザーとして付く形になるな。
「本当は公平様にもご指導いただきたかったのですが、先約があるのでしたら仕方ありませんもの。残念ですがまたの機会に、お願いいたします」
「俺も残念ですよ。でもまあ、リーベがいるなら俺に言えることってあんまり、ないですからね」
探査者のスキルを見て、ああだこうだ言うのは楽しい。昨日マリーさんと話してて思ったことなので宥さんについても、みんなであれこれ話したかったんだけど……さすがに今日はね。
それにリーベもいるし。ことスキルに関しての知識に関して、彼女のみならず精霊知能はコマンドプロンプトやワールドプロセッサにも負けないくらいのものがある。知識共有のおかげで、均一してほぼすべてのスキルに関して網羅しているわけだ。
ちなみにリーベやヴァールのような、受肉した精霊知能はその時点で集合知の共有機能を失っている。専用の肉体を得たことで一個の生命体として独立した扱いを受けるのだ。
それゆえリーベやヴァールが受肉後に得たものは、リーベやヴァールだけのものだ。他の精霊知能には共有されない、彼女たちだけの財産ということだな。
朝ごはん食べたり、テレビ見て話したり、雑談に興じたりしていると早8時過ぎだ。そろそろ家を出たほうが無難だな。俺は自室に戻り、用意を整えた。
えーと、タオルにバスタオルに、海パンと帽子。あと財布とスマホはもちろん、何かあった時用に絆創膏とガーゼと消毒液、と。
大体まとめて、プール用のナップザックに突っ込む。まあこんなもんかな? 肩から提げて、準備完了!
「よし、じゃあ行くかな」
「あ、途中まで一緒に行きませんか、公平くん」
と、玄関まで来た俺を香苗さんが待っていた。宥さんにリーベも一緒だ。みんなパジャマでなく私服に戻っている。
明け方、風呂場の乾燥機能が使われてたので、香苗さんと宥さんの服は洗濯後に風呂場で乾かされたんだろうな。ちなみにリーベは別な服に着替えている。真っ白なワンピースに麦わら帽子と、清楚なご令嬢って感じなんだがこいつの中身を知ってると、虫かごと虫取り網が似合いそうに思えてくるな。
「良いですよ。みなさんは組合本部ですよね、だったら駅前までは一緒ですね」
特に断る理由もないので提案を受ける。とりあえず父ちゃんが起きたらこの家は鬼の支配する家と化すので、何でも良いから早く外出したいってのが本音だ。
じゃあいってきま~すと言うと、ぶっきらぼうな声でいってらと返ってくる。こりゃ駄目だ、久しぶりにマジギレしてらっしゃる。思えば昨日、サン・スーンさんに無茶な絡み方してた時点でピキッてたもんな。怖ぁ……
そそくさと家を出る。入道雲の広がる青空、今日もいい天気だ。
気温は本日37℃。もう夏真っ盛りってな感じで、よくまあこんな炎天下を出歩くもんだよと、俺だってそうなのに考えたりする。
歩き出す。8時過ぎともなれば社会は概ね動き出し、色んな人が道を行き交ういつもの風景が見えていた。道すがらに色々と、四人で話す。
「マリーさんにアンジェさんとランレイさんと探査してくれって言われてるんですけど、どうしたもんですかね……連絡先も知りませんし」
「ああ、そのことでしたら私にも話が来ています。マリーさんが日程調整するそうですので、そのうち公平くんにも連絡は来ると思いますよ」
「あ、そうなんですか……うーん。本気だなあ、マリーさん」
昨日、知り合ったマリーさんのお孫さんのアンジェさんと、リンちゃんのお姉さんのランレイさん。双方探査者としてはA級と相当な実力者なんだが、なんでも壁に打ち当たって行き詰まっているとか。
それを見抜いた我らが元S級探査者マリーさんから、一緒にダンジョンに行ってなんかアドバイスしてくれと言われてるんだけど……正直、気乗りはしてないんだよね。
「俺に何が言えるのやら……スキルについてはワールドプロセッサやリーベ並に詳しいとは思いますけど、探査者の実力ってそれだけじゃないですからね。そもそも自分より低い級の新人が言うことを、果たして真に受けてもらえるかどうか」
「級は低くとも、実力で言えばS級探査者すら歯牙にもかけないほどじゃありませんか。力を見せれば彼女らも馬鹿ではないはず、立ちどころに居住まいを正すことになるでしょう」
香苗さんが言うと、宥さんも頷いて同意を示す。
うーむ。そりゃ、探査者ってわりと実力主義なところはあるけれど。変に力を見せ付けるってのは、角が立つし何より嫌味だし、なあ。俺がやられて嫌かもしれないことを、他の誰かにしようとは思えないかな。
「コマンドプロンプトとしての知見を披露するだけでも、結構オペレータには有用だと思いますよー? いざとなったらちょちょいとスキルを改竄してインチキスキルをプレゼントでもすれば、もうイチコロですよイチコロ!」
「するわけないだろ、そんなこと!」
リーベの提案なんて論外だ、もので人を釣ろうとするんじゃない!
スキル改竄なんて、それこそうかつにやったらワールドプロセッサにしこたま怒られるやつだこれ!
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