精霊知能系アイドル、リーベちゃん
しばらくして、風呂が沸いたとの報せを受けたわけだけど、どうしたことか俺が一番風呂ってことになった。
疲れてる優子ちゃんのが先じゃない? って聞いてみたんだけど、我が愛しの妹ちゃんは優しくも言ってくれたのだ。
「私は今日、その場にいるだけだったし。兄ちゃんのが疲れてるじゃん? 先に入りなよ……お疲れ様、色々」
なんとまあ優しい子だよ、兄冥利に尽きるったらないねこれは。
母ちゃんもリーベも、香苗さんも宥さんも同じように言ってくれたのでありがたく、俺は沸かしたてのお風呂に入らせてもらうことにした。
当然アイも一緒だ。桶に湯を張ってミニチュア・ドラゴン用のミニチュア・バスを作ってあげよう。研究施設でもお風呂は入っていたとの話なので、お湯が怖くて暴れたりはしないと思う。
「ふいー、いい湯だなあ〜」
「きゅいー、きゅうきゅきゅきゅう〜」
頭と身体をしっかり洗って清めてから、熱々の湯船に肩まで浸かる。疲れが溶け出すとはこのことか、全身の力が抜けて思わず、気の抜けた声が出る。
バスタブを半分閉じるように敷いている蓋の上、置かれた風呂桶の湯船に浸かるアイも似たような声を上げた。俺を真似したな? かわいい。
言うまでもなくこの子の身体も洗っている。やはり風呂慣れしているみたいで、むしろ綺麗好きなのか気持ちよさそうにしていた。
あ、そうだ思い出した。アイに話しかける。
「アイ用にご飯の余りをもらってるんだよ。風呂上がりにでも食べるか?」
「きゅ?」
「ホテルのご飯だから、すごく美味かったよ。今日食べなくても明日、朝に温めて食べればいいし。どちらにせよ、アイのご飯だ」
ペット……ペット? まあペットか。なアイをホテルには入れられないとのことだったので、祝勝会の間、WSOの施設にいてもらっていたわけだが。
そんなアイのため、しっかりと会で出てきたご飯の余りをもらってきていた俺です。余りというには、ステーキが結構多めで割と豪華だけどね。
「きゅー……きゅう。きゅーきゅ、きゅー」
俺の言葉に、アイは湯船に仰向けになって浸かりながらも考え込んだ様子だった。だがすぐに、ちょっと空を飛んでジェスチャーで俺に意志を伝えてくる。
うん、お皿? 盛り付け、ああ、ご飯? 食べた? ……あ、研究施設でご飯頂いてるのね。で、お腹膨れた? 満足? 寝て、起きて、食べる……今日のところは寝て、明日の朝に食べる?
「……ってこと?」
「きゅう!」
言語は違えどうまいことやり取りはできたらしい。満足気に頷いてまた、アイは桶の湯船に浸かって楽しそうに鳴いた。
話は分かった、なら明日の朝にご馳走だな。手を伸ばし、アイの頭を優しく撫でる。気持ちよさそうに目を閉じるアイも、もうそろそろお眠なのかちょっとトロンとしだしている。
身体も温まったし、そろそろ風呂から上がろうかな。俺はアイを抱いて風呂から出た。
俺とアイの水気をタオルで拭いて、ドライヤーで髪を乾かして。パジャマに着替えて、寝る準備万端って感じ。
リビングに向かう。ソファに座る母ちゃんと優子ちゃんは、テレビのバラエティ番組を見ていて、テーブルに着いている香苗さんに宥さん、リーベはすでに何かしらの話を始めている。なんかメモ帳を広げてなにやらメモっているなあ。
とりあえず俺は声をかけた。
「お先でーす」
「きゅー」
「あ、お疲れ様です公平さん。アイもすっかり綺麗サッパリですねー」
「優子、次はあんたが入ってもう寝なさいよ?」
「はーい」
リーベが応え、母ちゃんが優子ちゃんを促し、そして優子ちゃんが立ち上がる。結構眠たげだ、もう22時前だしそりゃね。
妹ちゃんの代わりにソファに座る。胸元に抱くアイも眠たげにしてるので、すぐ2階に上がると思うけどちょっと休憩。
と、テーブルの3人の声が聞こえてきた。
「それではリーベちゃんのデビューは今月末、救世の会チャンネルにてライブ配信で行うという形でよろしいですね?」
「異議ありません。そこを皮切りに、リーベさんには歌って踊れて宗教活動もできるストリーマーとして組織のPRを行っていただきましょう。ゲーム実況なども良いかもしれませんね」
「がんばりますよー! そして、くふふ! かわいいかわいいリーベちゃんはあっという間に大人気になっちゃってー、ネットのみならずリアルでもアイドル活動とかしちゃったりなんかしてー、ぬふふー!」
まさしく夢想して、リーベがうへうへ言ってるけど……歌って踊れるのはともかく宗教活動できちゃうのはまちがいなく足枷だと俺は思う。リアルでアイドル活動? 間違いなく香苗さんや宥さん込みで布教活動がセットになるんだろうなあ。
とはいえ人気はたぶん、出るんじゃないかなとは思うけど。香苗さんも宥さんもとてつもない美女だけど、リーベはそれすら超えてまさしく、一線を画するレベルの美しさを備える少女だ。そんな子がネットで配信者なんて、話題にならないはずもない。
「リーベはがんばりますよ公平さん! 見ていてくださいねー!」
「ま、まあほどほどにな。ほんと、ほどほどに……」
燃え上がる勢いのリーベにやんわり答える。初対面からずっと言い続けてきているので本当に憧れなんだろうから応援したいけど、例の組織が絡んでいる以上、素直に応援したくない。
複雑な心境である。
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