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攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─  作者: てんたくろー
番外編

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カッコよくサインを書ける人って天才だと思う

 さて宴もたけなわ、そろそろ祝勝会も締めを迎えることとなった。

 とはいえほとんどの人にとってはホテルでの会食は一次会に過ぎず、ここから本格的に酒だの大量の料理だのが出てくる、いわゆる居酒屋になだれ込んでの二次会三次会が行われるみたいだ。

 もっとも、俺は一足先に帰るつもりしているわけだけども。

 

「アイを迎えに行きたいですからね。あの子を連れて料理店は、さすがに無理ですし」

「ああ……たしかにそうですね」

 

 並んで立つ香苗さんに、俺はそんな意向を話した。

 会場っていうかホテルを後にして、そこそこ火照った身体を涼めに今、みんなして湖岸前の広場でダラダラしている。時刻も20時過ぎと子どもにはそろそろ暗く、ベナウィさん御一家もベナウィさんを残してみんな、帰るみたいだ。

 

「救世主ー!」

「きゅーせーしゅー!」

「あ、あの……サインください!」

「えぇ……ま、まあはい」

 

 ベナウィさんの子どもさんたちが、やたらと引っ付いて俺を救世主と呼ぶ。次女ちゃんと三女ちゃんは言葉の響きを面白がっているだけの節があるから、まだ可愛げはあるものの。

 長女ちゃんは俺と、香苗さんの分のサイン色紙なんて持ってきているのでガチ勢だこれ。怖ぁ……

 

 生まれてこの方サインなんて書いたことないからよく分からん。あの、芸能人さんとかが書くミミズのカーニバルみたいなのはどうやったら書けるんだろう?

 と思っていたら香苗さんはさらさら〜とあやとり世界選手権優勝みたいなサインを当たり前のように書いていた。えっ。

 

「か、香苗さん、サインとかそんな風なの書けるんですか?」

「遺憾ながら。A級探査者でも上位陣は、講演会やセミナー、あるいはテレビ番組とか書籍出版などの機会がありますからね。それらに際してサインの練習も必要になってくるんですよ」

「あ、あ〜……」

 

 聞いてみたら雲の上っていうか、別世界の話をされてしまった。たしかに探査者の人で、そういうメディア活動をしている人もいるってのは聞いたことあるけど、香苗さんもそのうちの一人とは思ってはいなかった。

 ……まあ、俺のアンテナが低いだけなのは認めるしかないんだけども。そりゃそうだよA級トップランカーだもの。日本国内だけでも、S級認定されてる10人を除けば頂点に君臨する人だもの。そりゃ、そういう活躍だってするよなあ。

 

「もっとも最近はなぜか、あまりテレビなどにはお呼ばれしなくなったのですが。絶好の伝道チャンスというのに、残念です……はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 サインを手渡す香苗さん。長女さんも、嬉しそうに顔を赤らめている。

 テレビにお呼ばれしなくなった理由? 伝道師だからじゃないかな……口にすると角が立ちそうなので俺は思うだけに留め、不格好ながらもサイン色紙にペンを走らせた。

 ええと、普通に山形公平って書くか。踊るようにサラサラ~と書けたらカッコいいんだけど、やり方分かんないし仕方ない。香苗さんに比べるとあからさまにサインでなく署名なんだが、まあこんなもんだろ。

 

「……はい。ゴメンね、あんまりサインっぽくなくて」

「いえ! 嬉しいです、大切にします!」

 

 俺のサインになんの価値がどれだけあるのか、いまいち深く考えたくないところではあるが。

 長女ちゃんが嬉しそうにしてるんなら、これも良いかなって思う。なんならちょっと、サインの練習でもしてみようかなって思っちゃうほどだ。自意識過剰? 自覚はあります。

 嬉しがる長女ちゃんを後ろから柔らかく抱きしめて、ベナウィさんの奥様が俺に笑いかけてくれた。

 

「ふふ、ありがとうございます。主人の言っていたとおりの、素敵な男の子ね、山形くん」

「いえいえ、そんなそんな」

「どうかこれからも主人と親しくしてあげてくださいね。あの人、あなたのことをすごく気に入ってるわ」

「ええ、もちろん。俺にとってもベナウィさんは、友人であり戦友であり、また偉大な先輩でもある大切な探査者仲間です」

 

 知り合ったのは一月か一月半かそこらだけど、俺とベナウィさんはすっかり気心知れた、歳の離れた友人になれたと思う。いくつかの戦いをともにくぐり抜け、いくつかの場面でプライベートを一緒に過ごした。

 俺は彼を尊敬しているし、彼も俺を見込んでくれている。互いに信頼し合える関係ならば、それはきっと友と呼んでもいいだろう。

 そんな俺に奥様の隣、他ならぬベナウィさんが微笑み、頷いてくれる。

 

「ミスター・公平。歳も立場も色々な意味でかけ離れている私とあなたですが、培った友情と信頼はそうした垣根も乗り越えるものと信じています。マイ・フレンド。私も、あなたを尊敬していますよ」

「ありがとうございます、ベナウィさん。あなたと友人であること、俺は心から誇りに思います」

 

 自然と、俺とベナウィさんは握手を交わしていた。交わした友誼の堅固さを示すかのように、お互いにガッチリと握り合う。

 ベナウィ・コーデリア。偉大なS級探査者であり素晴らしい人格者でもある彼は、優しくも力強く微笑んでくれていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前話で気になって読み返してたんですが、山形くんまだD級なんですね 同じD級の関口くんはすげえサイン書きそうだけど
[一言] サインね……もしかして狂信者二人も持っていなかったのでは?
[一言] ベストフレンドとは… 大雑把(スキルの倍率もしくは探索時の性格)なことかー、よく似ているのね
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