A.インターネットで見た
「神や悪魔といった概念存在は、言ってしまえば本来のシステム側、とでも言うべき立ち位置のモノたちなんですよ」
「と、仰りますと?」
適当なペースで食事をしながらも、俺は神谷さんに説明する。おそらくは彼女の属するダンジョン聖教とやらにもいるんだろう、崇め奉る対象たる神やら何やらまで含めての彼ら、概念存在についての話だ。
本来、この世界が辿るべきだった時間の流れにおいて。もっと言えばそれ以前、すなわち邪悪なる思念が襲来してくるまでの時代において、彼らこそがシステム側と言える立場だったのだ。
「この世界の生命体すべてから畏れ敬われる、という役割を持って生まれた超自然的存在……それが概念存在です。彼らもまたシステム側の、まあ言ってしまえばワールドプロセッサとコマンドプロンプトによって生み出されたモノたちなんですが、彼ら自身はシステムに直接関与しているわけでもありません」
「システム側に近しいけれど、あくまで被創造物という枠の中にいる、と」
「そうなります。まあ、そもそもここでいう創造者側に人格なんて発生する予定がなかったので、本来であれば彼らこそがシステム側だ、と言っても差し支えなかったんですけどね」
命が、その知性の程度によらずに自然と抱く、超越的な事象への怖れと崇敬。その事象そのものに命と知性とが備わった、まさしく神や悪魔としか言いようのない存在。概念存在。
ワールドプロセッサは世界を管理・維持するにあたり、そうした存在を用意した。もちろん理由はいくつかあって、生命体たちのことを考えたものから、システム側の都合を求めてのものまである。
「生命が存在する領域を管理・維持させるため。生命体たちの尊崇の念や感情を、エネルギーとして利用したかったため。そして何より、時代の流れとともに高度になっていくだろう知性に、世界の仕組みを誤認させるためという目的もあります」
「仕組みとは、あなた方システム側のことですね? どういうことです?」
「単純に、ワールドプロセッサやコマンドプロンプトの存在を不特定多数に知られたくなかったんですよ。ですから神とかそういうのを用意して、そいつらがあなた方の世界の創造者ですよってことにしたかったんです──下手な好奇心で我々の領域に入り込まれても、互いに損しかないですからね」
「!」
あなたのこの質問がそうでないことを祈りますよ。と、少しばかりの牽制も込めてコマンドプロンプトとして言ってみる。神谷さんの息が一瞬止まり、一筋の汗を流して俺を、慄く目で見るのが分かった。
すぐに笑みを浮かべて、おどける。努めて軽い口調で誤魔化すように、俺は彼女に言った。
「ま、今やご存知のとおりワールドプロセッサ以下、システム側はすべてが人格を持ち、ごく少数ですがこうして生命体の領域で活動までしています。そこまで厳格に対処する気ももう、ありませんけど……」
「分かっております。ここで聞いた神の正体、概念存在について。決して他言せぬこと、賜りました聖女の称号にかけて誓いましょう」
「助かります。さて、ご質問に関してはこんな感じの返答ですが……ご期待に添えましたかね」
「ええ、ありがとうございます」
俺の釘刺しは、普通に失礼な言動だったろうに。それでも丁寧に礼をしてくださる神谷さんに、この人なら変なことしないだろうと安心する。
いや、実際のところ現時点での文明では、システムに気付けても具体的にアプローチする方法なんて限られてるけどね。ある種の救済措置にいくつか、いわゆる正規ルートでワールドプロセッサに接触できる方法は最初から用意していたけど、そのほとんどは今や世界に現存してないし。
たとえ接触できたとして、今の人格を持ったワールドプロセッサはヤバそうなら即座に処理するだろうしね。
刺身を口にして、んーうまいっ! ジュースを飲んで喉を潤す。
ふう、と一息ついてから、俺は逆に質問してみた。
「なんでそんなことを? ご自身の信仰対象が存在するのか、知りたかったとかですか?」
「あ、いえ。実存しようがしまいが神は心におられるものと理解していますので、そこは別に。ですが……そうですね。山形さまには、折り入ってお耳に入れたい話があります」
信仰は己の中にあり、か。さすが聖女なる称号をお持ちだった方だ、揺るぎない精神力。
とはいえ、なにやら話があるみたいだ。なんじゃらほいと促すと、神谷さんは驚くべきことを口にした。
「お恥ずかしいことなのですが。私どもダンジョン聖教の一派が最近、暴走しているようでして」
「派閥争いとかってやつですか? 本当にあるんですね、そんなの」
「ドラマの中だけにしてほしいのですけど、ね……それでその子たち、なんでも神を降臨させようと画策しているようなのです。スキルをいくつも組み合わせて、計画しているとか」
「…………えぇ?」
なにそれ。神・降臨? ネットかな?
ていうか聞いたことないんですけど、複数のスキルを組み合わせて概念存在を降臨させようなんて話。え、できるのそんなこと?
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