表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─  作者: てんたくろー
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

302/1857

未来への希望─ソフィア宣言─

「何人かの方はご承知のとおり、私たちは今般、大きな節目を迎えました。大ダンジョン時代に転機が訪れ、今後は様々な点で変化が見られていくことでしょう」

 

 会食前の演説。さすがにそういう機会が多かったのだろう、ソフィアさんの声は淀みなく響き、力強くも繊細に心へ染み渡ってくる。

 堂々たる立ち姿だ。WSO統括理事として永らく人の上に立ってきた彼女は、偉ぶることを厭うてもやはり、偉大な組織の長なのだと感じる。

 

「それはここにいるみなさまだけでなく、ここに至るまでのすべての生きる者たちの力によって成されたことなのだと、私は確信しています。誰一人として、いなくていい者などいなかった。すべてのものが繋がって、それぞれの為すべきことを為した果てに今、この時があるのです」

 

 噛み締めるように述べる彼女の、胸中は誰にも計り知れないだろう。150年もの間、あるいはソフィア・チェーホワこそが一番に苦労してきた者なのかもしれない。

 そんな彼女はけれど、すべての命を労った。この大ダンジョン時代を生きたすべてのものが、直接的でなくとも繋がり合って絡み合い、そしてこの時に辿り着いたのだと。

 そう、言ってくれた。

 

「喪ったものは数知れずとも、得たもの、護れたものもまた、数え切れないほどにあると信じます。であれば私たちは未来を、喪ったものたちに胸を張れるような明るいものへと、拓けていけるはずです──少なくとも、未来を私たちに託してくださった方はそう、信じています」

 

 俺へと目を向ける。それに伴って昼間、説明したことによって事情を知ることとなった人たちの視線もまた、集まる。

 いや、照れるぅ……ていうか、なんともヒロイックな表現をしてくれるよな、ソフィアさん。未来を託してくださった方ですってよ、俺ちゃん。

 

 強ち出鱈目な表現でもない、のかな? コマンドプロンプトの逆行計画は、言ってしまえばみんなのこれまでとこれからを取り上げる行為と言えるだろうし。

 それに否やを唱えて、このまま前に進むことを選んだ山形公平は、なるほどみんなに未来を託したと言えるのかもしれない。実際そこまで考えてたわけじゃなく、単に時代を未来に進ませたかっただけってのが実情だけどね。

 

「本日はその、託された未来に想いを馳せつつの会とさせていただきたく思います。事情を知る方も知らない方も区別なく、果てしない未来を信じて……光差す明日へ行けると願って、みなさま乾杯といたしましょう」

 

 このスピーチ自体、昼間の説明会を前提としているものなので当然、そこに参加していなかった人たちにとっては相当に意味不明なものだろう。

 アンジェさんとかハオランさんなんかは、見ていると半信半疑っぽく俺を見ているので、どうも事前に少しは説明を受けているっぽいけど。ベナウィさんの近くに座っている、おそらくご家族さんかな。みなさんはちんぷんかんぷんな様子で、とにかくお腹すいたーって感じでいる。早くいただきますしてあげたい。

 

 ソフィアさんの呼びかけに応じてみんな、飲み物の注がれたコップを手に持つ。大人の酒飲みは当然のようにビールで、そうでない大人やそもそも未成年な人たちはジュースかお茶での乾杯だ。俺? へへへ、コーラ。

 意外なのは隣の神谷さんがビールだったことかな。なんならソフィアさんの隣、サン・スーンさんはジュースなのでギャップがあって余計にそう思う。見かけで判断するのは良くないけどさ、逆の方が正直、しっくり来るよね。

 まあともあれ乾杯だ。ソフィアさんの一言を待つ──って、なんかこっち向いてる。なんぞ?

 

「乾杯の音頭は私ではなく、この会を催すに至った立役者、山形公平様に行っていただきたく思います。それではよろしくおねがいしますね」

「…………えええ!?」

 

 いきなりなんて真似するんだこの人! 何の前触れも打ち合わせもなく俺に丸投げしてきたぞ!?

 仰天して彼女を見ると、ニッコリ、いやニマニマって感じで俺に笑いかけている。あっ、これわざとだ。面白がってわざと丸投げしたんだ、お茶目かよ〜。

 

 周りを見る。何ていうかソフィアさんのスピーチがそこそこ焦れったい長さだったからか、もういいから飲ませてくれ食わせてくれってな視線が複数、刺さってくる。

 怖ぁ……針の筵じゃん。冷や汗をかきつつも俺は立ち上がって、こほんと咳払い。

 もうさっさと会を始めるべく、気持ち早口で言った。

 

「えー、どうも山形です。みなさんどうもお疲れさまでしたカンパーイ!」

『カンパーイッ!!』

 

 よし、勢いで乗り切った! 待ち侘びていたパーティー開始に、みんな沸き立ち乾杯と同時にコップに口を付ける。

 俺ももちろん飲むよ、そりゃ飲む。一気に汗かいたからね、コーラの炭酸と甘味が極悪なまでに喉に効く。かーっ、爽快!

 

『ん、ようやくご飯かい。しょうもない勝利宣言なんてどうでもいいからさっさと食べろよなあ。コーラ美味しいね』

 

 邪悪なる思念が脳内で嘯いた。さっきまでのソフィアさんの演説にご不満のようだが、コーラの味にご満悦な様子でもあるので、順調に餌付けされてる感あるな、こいつ。

ブックマーク登録と評価の方よろしくおねがいします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] なんか、邪悪なる思念がマジ可愛く感じる
[一言] コーラで懐柔されるとか安くなったなお前w そのうち酒を要求するように……。
[一言] 上座の真ん中に座らされた恨みを晴らすかのごとく、ソフィアさんからのキラーパス!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ