ヤマガタのパーフェクトたんさしゃ教室?
リンちゃんはじめ、星界拳士御一家のみなさんは俺たちとの話もそこそこに、ふと近くにソフィアさんを見つけたもんだからそちらの方へと向かっていった。
ああいや、正確にはヴァールだな。一族の悲願だった決戦スキル《アルファオメガ・アーマゲドン》を預かっていた上に、そもそも始祖シェン・カーンに星界拳を興させた張本人ゆえか。
礼なり挨拶なり、言いたいことは山とあるんだろう。
「探査者じゃない男の子の方はともかく、あのランレイってのも中々のもんだね。公平ちゃん的にはどう見る?」
「え、と? ……まあ、スキル構成にもよりますけど相当とは思いますよ?」
興味本位っぽいトーンで聞いてくるマリーさんに、俺も素直な印象だけで答える。長いこと探査者やってきたこの人だから、たとえ引退して隠居したって、後輩を見定めるのは一種の習慣になってるんだな、きっと。
スキルを持たない、つまりはオペレータでないがゆえ、ハオランさんの方は俺にもマリーさんにも判別のしようがない。だってレベルの概念もないわけで、基準が完全に星界拳の腕前一本。門外漢二人にはどうとも評価できない部分なのだから。
翻ってランレイさんの方がまだ、あれこれ見解を示す余地はあるくらいだ。俺は続けて言った。
「リンちゃんのスタンスを星界拳士のスタンダードとするなら、ランレイさんも《気配感知》しか持たない可能性はありますけど……そうでないならリンちゃんとは別の意味で大成できるかもです」
「ふむ? つまり星界拳オンリーじゃない、探査者であることを活かしたスタイルってことかえ」
「そうなりますね」
というか、二人をあえて区別するならそうする他ないんだよね。星界拳士の頂点がおそらくリンちゃんである以上、同じ方向性で行こうとするとランレイさんについて語ることがなくなるしなあ……
リンちゃんは星界拳の正統継承者としての誇りから、最低限のスキルしか持っていないし使用していない。完全に、スキルを持った星界拳士というスタンスで日夜、修練を積んでいるわけだが。
ランレイさんがもし、別な方面からのスタイル構築をされているのだとしたら、それはすなわち星界拳を修めた探査者というスタンスに他ならないだろう。
「星界拳に拘るわけでないなら、たとえば普段は中距離から遠距離の武器を使用して、星界拳は至近距離用に取っておくとか。あるいはサポート用スキルを揃えていて、半ば暗殺者のように忍び寄って必殺の蹴りを叩き込むとか」
「あー、そりゃ中々老獪な手口になりそうだね。スキル次第で他の探査者との連携も幅広くできそうだし。たとえば結界系のスキルなんて持ってたりしたら、一対多の状況でも内側に一体ずつ巻き込む形で展開すれば、ご自慢の星界拳が火を吹くだろうね」
「結界を隔てて、他のモンスターが入ってこれないようにするんですね。いや怖ぁ……」
防御用のはずの結界スキルを、簡易コロシアムみたいな隔離場に応用するって発想ヤバいな。もし俺がされたら背筋凍るわ、股間狙われ放題じゃん。
まあ、今俺たちが挙げたのはあくまで一例だし、実際のところランレイさんがどんなスタンスと思想を持って探査者として活動されているのかも分からないんだけどね。
「結構面白いですね。星界拳と組み合わせの良いスキルって何か、考えるの」
「なんなら本人交えて話してみなよ。なんとなくだがランレイ嬢ちゃん、ちょっと伸び悩んでそうな匂いしとるしね」
「…………慧眼さすがですね〜。リンちゃんから、そんな感じの話を俺も聞かされましたよ」
一目でランレイさんが、伸び悩んでいるのを見抜いたのかこの人。以前、ほぼノーヒントでアドミニストレータとしての俺の立場に気付いたところからも分かるけど、この人の眼力は相変わらずとんでもないなあ。
ランレイさんはなんでも今、実力的にA級中堅くらいなんだがそこで伸び悩み、解消のために会ったこともない香苗さんをライバル視しているとかって話だ。俺たちのさっきまでの話みたいなのが、もしかしたら停滞を打ち破るヒントにくらいはなるかもしれない。
「WSOのみなさま、大変長らくお待たせいたしました! お食事の御用意が整いましたので、これよりご案内いたします」
「おっと……頃合いですか」
色々楽しくなってきたところで、ホテルのスタッフさんが待機室にやってきてそう言った。宴会の準備が整ったみたいだし、祝勝会の始まりだな。
ていうかもう、祝勝会っていうか単なる会食感はあるけれど……大人の方々は酒が出ればなんでも良いんだろうし、とりあえずひたすら飲みまくれば良いんじゃないかな。
「ファファファ。じゃあ行こうかえ公平ちゃん。ランレイの嬢ちゃんについては、アンジェ同様に一緒に探査すれば良いんさね。なんかあの人らも、この夏はこの辺におるみたいだしね」
「えぇ……? 俺には荷が重いですよ。アンジェさん一人だって、なにか言える気もしてないのに」
とんでもない提案してくるなあ、この人。
俺の言葉に、やはり愉快そうな笑い声をあげてマリーさんは、俺の肩を叩くばかりだった。丸投げェ……
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