シャイな兄貴とシャイな姉貴とシャイ(ニング)な山形
ハオランさんとランレイさんまでは予想していたっていうか事前に聞いてたけど、まさか長老さんまでリンちゃんのご家族さんとは思いもしていなかった。
てことは、リンちゃんってシェン一族が長老の娘ってことになるのか。その上で星界拳の正統継承者とはまた、盛りに盛ってる感じがすごいわ、色々。
「もー、兄ちゃんはともかく姉ちゃん! せっかく里を出といてまだ、そんななの!?」
「そ、そんなってひどい……わ、私だって頑張ってるし……」
「俺はともかくってなんだ……」
「ハオラン、お前はもう諦められとるんじゃよ」
「…………」
ひどい。お兄さん塩の柱になりかけてるじゃん。優子ちゃんという妹を持つ身として、ハオランさんのショックは決して他人事ではない。
しかしそうか……ハオランさんもランレイさんも、ちょっとその、人付き合いが苦手なタイプの人たちなんだな。背の高い美男美女という組み合わせでそれというのは、ギャップもあってかかなり親近感と好感度が上がるわ。
向こうも向こうでチラチラ俺のことを見てきている。おそらく路地裏の雑草みたいな俺と、波長の合うものを感じてくれているのかもしれないぞ。
俺もなんとなし、チラチラと見てみる。あっ、ハオランさんと目が合った。
「どうも」
「は、はい……あの。いつも妹、お世話に……」
「あ、いえ。こちらこそ……日本語お上手ですね」
「あ、ありがとうございます……日本、興味ありましたので」
「おっかなびっくりなやり取りだねえ」
マリーさんが呆れて俺たちの交流を見ているが、会話の立ち上がりとしてはまずまず好調だと思うんですけど、そこんとこどうなんでしょう?
そしてランレイさんもそんな俺たちに触発されたか、覚悟を決めた表情で近付いてくる。俺、ハオランさん、ランレイさんの三つ巴の距離で立つ形だ。
いや待って、せめてあんたら兄妹は並んどこうよ。なんでお二人の間すら微妙にぎこちないんだよ。
「お、お噂はかねがね! あの、我が、私の好敵手が絶賛のめり込み中の救世主だとかなんとか!」
「好敵手……香苗さんのことですね。フェイリンさんからお聞きしていましたけど、本当にライバル視されてらっしゃるんですね、ランレイさん」
「は、はい!? かっ、かなっ、名前でっ!?」
がーん! とショックを受けた風なランレイさん。たぶんだけど俺が御堂さんでなく香苗さんと呼んだことに、自称ライバルとして思うところがあるんだろう。
目をぐるぐる回しながら、真っ赤な顔で彼女は捲し立てた。
「は、はわわはわ……や、やっぱりデキてたんだ……! 急に年下の男の子を執拗に配信し始めて、やたら熱心に語るなんてアヤシイって思ってたら……! こ、この人たちデキてるんだっ!!」
「何が!?」
「姉ちゃん、落ち着く!」
「はうっ! す、すみません!!」
あんまり見かねたのか、リンちゃんがランレイさんを止めた……脚で。
めちゃくちゃゆっくりだから手加減は明らかにしてるんだけど、それでもズドン! って感じの重い蹴りがお姉さんの脇腹に刺さる。
さすがに探査者、それもA級探査者ゆえかそこまで堪えた様子もないが、我に返ったみたいでランレイさんは、あたふたと俺に謝ってくる。
うーむ、残念感漂うお姉さんだ、なんとも。改めて見るとすごい美人なんだけどな、ランレイさん。
染めているのか緑髪で、黒縁の眼鏡なんて掛けてるのが一歩間違えると野暮ったい印象になるはずなのに、顔立ちがあまりに良すぎて却ってチャーミングさを増している。
服装も、ダメージジーンズに白地にカラフルなデザインのプリントがされたシャツ、涼し気な青色のパーカーなんか羽織った都会風のファッションで、モデルさんって言われても通じるレベルだ。
どことなくリンちゃんのファッションセンスと似通うところがあるのは、やはり姉妹ということだろう。
そんなランレイさんなのに、言動が伴うとこうまでこう、残念な感じになるのはある種の神秘ですらあるなあ。
「山形さん、ごめん……ランレイ、妹、馬鹿」
「い、いえいえそんなことは。は、ははは」
「はは、ははは……」
気まずげに笑うハオランさんも、これまた相当な男前だ。
線が細いイケメンさんで、細くて長い髪型や気怠げな眼差し、それに雰囲気もあってどこか儚い感じにも映る。長身な分、ヒョロっとすら見えるかもしれないくらいだ。
もちろん彼もシェン一族、身体は鍛え上げられているに違いないのだが、それも今はダボダボのラッパーっぽい服に包まれ分かりづらい。
関口くんが陽のイケメンとすれば、こちらは陰のイケメンって感じだ。どちらにせよイケメンじゃない俺からすれば目が潰れかねないので、ほどほどのイケメンでお願いしたいところだ。
「フェイリン嬢ちゃんはまあ大した腕前さね。ありゃあ間違いなくS級の器だよ。あの歳で見事なもんだ」
「おお、あなたほどの探査者からそのように言っていただけるとは光栄ですのう。末娘ゆえ、甘やかしてばかりでしたが……立派に一族の悲願と使命を果たしたと聞いとりますよ」
「そこはこのマリアベール・フランソワが保証するよ。嬢ちゃんはたしかに世界を救う戦いに、大きく貢献した。あの子がおらなんだらきっと今、私らはこんな風にはできとらんさね、ファファファ!」
そして長老のフェイオウさんとマリーさんがなんか、若人のアレコレからは離れたところで穏やかにお話されている。
リンちゃん、当たり前だけどすごい高評価だね。たしかに俺の目から見ても、彼女の力量は現時点でもS級に引けを取らないものに思える。
紛れもなく天才だ。一族96年の集大成と呼ぶに相応しい、才覚と努力の結晶こそが、シェン・フェイリンなんだろうな。
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