アイは置いてきた、ハッキリ言ってペットはホテルに持ち込めない……
その後、いよいよ時間も差し迫ってきたので、俺は一旦アイを連れて研究所に転移した。神魔終焉結界を発動しての空間転移──事情を知らないマリーさんたちは目を丸くしていたけれど、香苗さんが説明しといてくれるそうなので任せておく。
どうせ果てしなく話を盛ってるんだろうなあ、とか思いつつ研究所の方に会いに行き、事情を説明する。
最初はえ? なんですぐ戻ってきたの? 的な視線で見られて心苦しかったが、ヴァールの行き当たりばったりの結果と言えば苦笑いしつつも快く、アイを数時間ほど預かってくれた。
感謝とともに、謝罪する。
「すみません、こんな時間に……もう仕事終わりでしょう」
「ああ、いえ。私たちは昼勤組でして」
「え。三勤制のお仕事なんですか?」
「イメージと合わないでしょうが、実はそうなんですよ」
意外や意外な話、WSO研究所のお仕事って、実はシフト勤務制らしいのだ。今まで気にしたことがなかったし、そもそもこんな時間にここを訪ねたこともなかったので知らなかった。
所員の方が説明してくる。
「この研究所では主に、モンスターの生態について調べているのは、アイちゃんのことからもご存知かと思います」
「ええ、まあ。マリーさんからもそう聞いてますし」
「でしょう。で、そういう生態の研究となるとですね、もう24時間体制で観察するのが基本になってくるわけなんですね」
「なるほど……」
この研究所には、探査者が持ち帰ったダンジョンがいくつも専用部屋に仕込まれていて、中のモンスターを調査することで日夜、研究しているという。
それゆえシフト制で代わる代わる、24時間欠かさずの観察を行っているらしかった。
なんていうか……すごい話だ。システム側からすればモンスターって結局、異世界の魂が受肉した姿って認識でしかない。それを具に観察し、その生態を解き明かそうというのは、正直考えつかなかった発想だ。
感心していると、邪悪なる思念も何やら反応していた。
『侵略の尖兵、駒に過ぎなかったのによくやるよ……いや、しかしこういう勤勉さは僕の好むところではあるな』
こいつはこいつなりに、研究所の面々の好奇心と探究心に感銘を受けているみたいだ。まあ、全知全能をも含めた完全を追い求めたモノからすれば、似通うと思うんだろうな。
ともあれ、アイはひとまずお任せだ。どこか残念がる様子のミニチュアドラゴンの頭を撫で、俺は微笑む。
「じゃあ、ちょっとの間だけな。美味しいものたくさん持って迎えに行くから楽しみに待っててくれよ」
「きゅうー!」
「それじゃあ、アイのことお願いします」
「ええ、お任せください」
所員の方に改めてお願いしてから、俺は研究所を出てまた、転移した。
元いた湖岸沿いの広場。もうだいぶ薄暗くなってきたそこにはもう人通りはほとんどない。みんな、会場に行ったか。俺も行くかな。
ホテルのロビーにまで戻ると、そこには香苗さんがいて、俺を見るなり笑いかけてきてくれた。待っててくれたみたいだ、ありがたい話ね。
「香苗さん、ただいま」
「お帰りなさい、公平くん。今、食事の準備をしてもらっている最中でみんな、待機室に集合してますよ。私たちも行きましょうか」
「ええ、行きましょう」
迎えてくれた彼女と並び、歩く。話を聞くと会場は一階のロビーを抜けたところにあって、和室の宴会場らしい。
関係者のご家族さんとか、併せて全員で30名数名だそうなんだけど、ちょうどぴったり収まるくらいの収容人数の部屋だとか。広すぎても狭すぎても良くないから、適正な大きさの部屋みたいで良かった。
で、その部屋を今、スタッフの人たちが準備しているため、少し離れた待機室でみんな待っているわけだね。
というわけでその待機室に向かう。
「いわゆる、懐石料理が振る舞われるとのことです。ソフィア統括理事やマリーさんたち、国外から来られた方を意識してのオーダーらしいので、食べ盛りな公平くんには多少、物足りないかもしれませんが……」
「いえいえ。わざわざ遠いところからお越しいただいたんですし、せっかくなら日本の料理を楽しんでほしいですよ、俺も」
端正な顔を憂いげにして、香苗さんは呟いた。懐石料理……食ったことないけど、量を問うよりは質にて答える性質の料理じゃなかったかな。テレビとかでたまに見て、その度に俺には足りないなぁとか思ってる気がする。
なるほどたしかに、俺とかリンちゃん、優子ちゃんには足りないかもしれない。ていうか俺より何よりリンちゃんだよな。めちゃくちゃ腹を空かせて期待してたし、元より量を好む子だからなぁ。
ちょっと気になるし、一応聞いておこうか。
「リンちゃん、納得しますかね……ものすごい食べるでしょ、彼女」
「一応説明はしました。肩透かしを食った感じはありましたが、どのみち二次会も、この近辺の居酒屋なりで行われるでしょう。その時に目いっぱい食べられると聞くと機嫌を直していましたよ」
「そ、そうですか。それはその、何よりです」
全然考えてなかったけど、そりゃやるよね、二次会。
いや、酒飲みの父ちゃんとベナウィさんの存在を考えると、大人組は下手しなくても三次会四次会くらいまで行くだろうな。もしかしたら徹夜で酒盛りするのかもしれない。
…………まあ、俺はアイのことがあるからね。二次会には参加せず、家で過ごすことにしよう。酒飲みに絡まれるのやだし!
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