すごい(意味深)
ホテルのフロントマンの人に確認を取ったところ、結論から言うとペット駄目でした。いやまあ、実際アイはモンスターなので、単なるペット以上に問題あるからね。
他のお客さんもいらっしゃるし、そもそもいくらWSO絡みの宴会でもルール破りは良くない。というわけなので、アイは残念ながらお留守番となってしまった。
「ごめんなー……ギリギリまで一緒にいて、時間が来たら研究所に戻ってちょっとだけ、預かっといてもらうことになるや」
「きゅう」
「ごちそう、ちゃんと土産とかも持ち帰るしさ。本当、ごめんな」
「きゅーきゅっ、きゅー」
いくらかしょぼん、としつつも俺が謝ると、気にしないでーと前足で俺の頭を撫でてくるアイ。優しさの塊かよ〜。
お詫びとばかりに俺たちはホテルの外、近くにある湖岸沿いの広場にてアイを構い倒すことにした。ていうか、優子ちゃんはじめうちの家族がこの子を可愛がりまくっていた。
「かわいいー! うわ、うわわかわいい! 大好きアイちゃん、愛してる!」
「きゅっ、きゅきゅっきゅ、きゅー!」
「こないだ、公平が病院送りになった時以来だけど……うっとりするくらい可愛いわねえ」
「この子、飼うのに注意点とかあるか? 食えないものとか、住めない環境とか」
まさしく猫可愛がりな優子ちゃんに、アイも大喜びで応えている。母ちゃんもすっかり骨抜きの様子で、これなら家でも幸せにやっていけるなと、アイのこれからの生活を想う。
一方で現実的な面を聞いてきた父ちゃんに、俺は答えた。
「いや、特にないよ食えないものとか住めないとことか。人間の食えるものならなんでも食えるし、大概の環境でも住める。凶暴性っていうか、危害を加える要素はないけど身体自体はとにかく頑丈だよ」
「なんだそりゃ、ずいぶん都合いいな」
「都合が良いように再構成したからな」
呆れたように言う父ちゃんだが、まあそうなるようにしたのが俺だからな。そのへんはものすごくご都合的にしている。
そもそもがあの、山一つ分ってくらい大きかったドラゴンが元なのだ。その巨躯をリソースにして今のアイの形に凝縮したわけなので、見かけによらずとてつもなく頑丈だったりする。
大体のものはなんでも食べるし、毒とかも一切通じない。戦ったり、何かに危害を加えるような武器はこれといってないけど、マグマだろうが真空だろうが絶対零度だろうが、なんら関係なくどこでも暮らせる超防御力はあるのだ。
すべてはアイが、なんの気兼ねなく、生きたいように生きていけるように。たとえ悪意に晒されても、逃げ延びることができるように。
そう願った末のあの姿とスペックなのだと説明すると、父ちゃんはなんか、優しく俺の頭を撫でてくれた。
「……すごいぞ、公平」
「な、なんだよいきなり……」
「いや? アイちゃんを、そうまでして助けたかったお前の優しさを、親として誇りに思ってるだけだよ」
微笑む、その顔は心から俺を褒めてくれているのが分かるもので。無性に照れくさくて、でも嬉しくて俺は、頬が緩むのを必死に噛み殺す。
コマンドプロンプトったって、山形公平だしな……親に褒められたら、そりゃ、嬉しいもんなあ。
「限りない慈愛を以てドラゴンを救済したその御心と、御尊父様に褒められて照れつつも嬉しがる、年相応のあどけない表情……!」
「尊い……尊すぎます……!!」
「…………公平。お前、色んな意味ですごいな」
「すごいの意味合い変えるの止めてもらえる?」
狂信者は俺の何を見ても尊ぶのか? さしもの親父様もドン引き気味なのが逆にすごいよ。
湖のほとり、広場のベンチにてみんなで過ごす。パーティーの時間までもうあと一時間と少しってところか。
そろそろマリーさんたちも来るかなーって、そんなことを考えればジャストタイミング。この広場と道が続いている公園を歩いて、マリーさんとサン・スーンさん、神谷さんが歩いてきた。
スキルの《気配感知》かな? で俺たちを把握していたみたいで、特に驚きもなく合流する。
「ファファファ! どうも、昼ぶり。おやおや、チビスケも一緒かえ」
「ええ、そうなんですよ。ヴァールの鶴の一声で今日、引き取ることになりまして。とはいえホテルには連れていけないので、このあと少しだけ研究所の方に預かってもらいますけど」
「ヴァールがごめんなさいね……あの子、昔から深く考えずに決断するところがあるの」
「ああ……ありますねえ、たしかに」
ソフィアさんが申しわけなさげに謝りつつ、ヴァールの短所を挙げると意外というか、サン・スーンさんが反応した。苦笑いとともに、うんうんと何度も頷いたのだ。
見れば神谷さんも何やら察したように得心顔だし、マリーさんは面白がって笑うばかり。この人たちにこういう反応されるってかなり大概な気がするんだけど。ヴァールはさあ……
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