地元の有名ホテルは地元民こそ一番縁遠い
色々と話しながら歩いていると、あっという間にホテルが近くまで見えてくる。さすがにみんな探査者だけあってか歩くのが速い……想定していたより全然早い時間での到着だ。
かなりの高層ホテルだ。この辺一帯ではたぶん、一番背の高い建築物なんじゃないだろうか。ガラス張りの外観は夕焼けを浴びて真っ赤にきらめいている。
すぐ傍には湖があるから、湖面も沈む夕陽を反射してまるで燃えているみたいで味わい深い。
「いやー、入るの初めてだからワクワクしますよ、俺!」
「そうなの? 公平さん、このへんの人なのに」
「地元だからこそ、利用する機会がないのでしょう。ですよね、ミスター」
「そうなんですよねー。それにほら、ここ、お高いでしょう」
ちょっとウキウキ気分の俺。リンちゃんは首を傾げているけど、ベナウィさんの推理が実際、正しい。
ていうか俺に限らず、大概の地元民からしてみればこのホテル、実のところ縁遠かったりするんじゃないだろうか。普通に高級ホテルなので、近くを通りはするけど利用なんてのは中々してない印象がある。
それこそ、今回で言えばマリーさんとかソフィアさんみたいな、遠方から来たお偉いさんのための施設って印象が強い。何よりだけどやっぱり地元だとね、ホテルじゃなくて家があるからね。
「おお……これが中身か……! 10何年、外から見てた建物の中に今、俺がいる……!」
「山形様、大はしゃぎですね。ワールドプロセッサ様と同格の御方と思うと、うふふ。なんだか親しみやすく思いますわね」
さてエントランスに入ると、やはりこれまた豪華というかきらびやかというか。上品なクリーム色を基調とした広々した空間が、俺たちを迎え入れてくれる。
キョロキョロ見回す俺は地元民なのにおのぼりさん全開だ。ああ、ソフィアさんがクスクスと笑っている。しかたねーじゃん。こんな機会でもなきゃ、次にここを訪れるなんて下手したら一生ないかもなんだし。
と、望月さんが柔らかく微笑んで俺の手を握ってきた。柔らかく暖かい、小さい手。
「も、望月さん!?」
「公平様はこの近辺にお住まいですから、おそらくですけど、成人式にはこちらのホテルを利用することになりますよ。ちなみに私も今年の冬、ここで成人を迎えたんですよ。ふふ!」
「そ、そそ、そうなんですか……あの、手、なんで繋ぐんです……!?」
「お嫌でした? なんだか公平様が可愛すぎて、つい堪らなくて握ってしまったのですけど」
「う、嬉しいですけど……」
急に手を握られるとドキドキしちゃうでしょ! ていうか可愛いってのは、ちょっとこう、嬉しいながらも複雑というか、微妙な感じなんですけど。
しかし、成人式かあ。そういえば毎年、成人式の日にローカルニュースでここが映ってたなあと思い出す。なるほど、俺も20歳になったらここに来ることになるわけか。
そっか、あと5年かあ。5年……
「短いのか長いのか微妙だなあ……」
「公平さんの場合、肉体年齢は15歳でも魂的には500歳ですもんねー。人間の時間感覚は肉体に引っ張られるって聞きますし、そう短く感じはしないと思いますけどー」
「……リーベ? 来てたのか、もう」
15歳にとっての5年ととるか、500歳にとっての5年ととるかで若干悩んだ俺に、唐突に横合いから声がかけられた。リーベだ。
見れば父ちゃん母ちゃん、優子ちゃんもいる。揃って私服だ、家に戻って正装から着替え、一足先にホテルに着いていたらしい。
望月さんと仲睦まじく手を繋ぐ俺に、ニヤニヤしつつも家族が言ってきた。
「公平……モテモテだなあウフフ」
「お母さん嬉しいわあ。中学の頃にはろくな恋バナもなかったのにウフフ」
「あの兄ちゃんがこんなにモテるなんてね〜。ホント人生って不思議ねウフフ」
「ウフフ笑いやめてウフフ。ていうか優子、人生レベルの不思議扱いはひどいと思うよウフフ」
うわあ家族にこの手のからかわれ方する日が来るなんて、まるで思いもしなかったよウフフ。
とりあえず望月さんの手をやんわりと離す。ちょっと惜しかったけど、衆人環視の中でおてて繋いでってのは、相手が誰だろうとこっ恥ずかしい年頃なんですよ。
「それはともかく。リーベたちはいつ頃このホテルに? 来るの早すぎたって、ロビーで待つくらいしかなかったろ」
「つい先程ですねー。それまではお家でのんびり楽しくみんなでボードゲームして、遊んでましたー」
「え。なにそれ楽しそう」
「また今度、公平さんもやりましょうねー!」
なんか、俺がいない間に楽しいことしてたらしい。ていうかこいつ、めちゃくちゃ山形家に馴染んでるな……優子ちゃんよりは歳上っぽいから、さしづめ俺の妹で優子ちゃんの姉って感じのポジションかな?
あ、そうだ。こっちもこっちで、新しい家族を連れて帰ってきてるんだよ。俺はあの子の名前を呼んだ。
「俺たちもさ、結構楽しく過ごしてたよ。アイー、うちの家族だぜー」
「きゅーっ!」
「!? え、アイちゃん!?」
呼びかけに、さっきまでソフィアさんに抱きかかえられてウトウトしていたアイが、元気よく鳴き声をあげて羽をパタパタ動かして、文字通り飛んできた。
驚く山形家の面々。そしてはたと気付く俺。
そういえばこのホテル、ペットとか連れ込むのOKだったかな?
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