救世主神話学会はいつでも君たちを待っているぞ!
話もそこそこに辿り着きましたWSOの研究所。近未来的な、丸みを帯びた形の施設の前には、広々した自然公園が広がっている。
施設はともかく自然公園の方は一般開放されていて、今も結構な人で賑わっている。いい天気だし、このへんは風も吹いていて涼しいものな。夏真っ盛りの中、ピクニックするのも悪くない。
とはいえ今日は施設に用がある。さすがに許可なき者は立入禁止なこの研究所だが、なんと俺ちゃん、入場許可証なんてもっているのだ。
なんでかと言ったらそれはもちろん、アイの一件だね。
マリーさんの口添えもあり、あのミニチュアドラゴンの保護者というか飼い主というかは俺ってことになっている。WSOはあくまで一時預かりというか、安全な生き物なのかどうかをたしかめる目的で確保しているだけなのだ。
それゆえ、保護者としての面会権が俺にはあり、そこから転じて入場許可証をもらう流れになったわけだ。
「あの時はビックリしましたね。極東で34年ぶりにドラゴンキラーを成し遂げたと聞き、マリーちゃんに電話したら開口一番、山形公平なる御仁にWSO関連施設の入場許可証を手配してくれと頼まれまして」
「てことは、ソフィアさんが実際に手配してくださったんですね。ありがとうございます」
「ふふ、いえいえ。マリーちゃんたら、これまでで一番興奮した様子で、あなたの自慢話ばかりしてましたもの。面白かったですし、むしろこちらこそ感謝していますわ」
「そ、そうなんですね」
まさかの裏話。マリーさん、俺についてなんの話してたんだろう? 自慢話っていうからには、そう悪い内容じゃないと信じたいけど。
しかし、WSO統括理事が直々に手配したんだな。どうりで当初、許可証をもらった際に職員の方がやけに緊張していたわけだ。特別理事と統括理事の肝煎りってことだもんな。
こう考えると俺、地味にすごい人脈持ってるわ。
────うん?
「あれ、え?」
「どうしましたか、ミスター公平」
「あ、いえ。なんか今、ステータスが更新されたみたいです。称号だな、変わったの」
「えっ……噂の、日常生活でコロコロ変わるという!?」
「システムさんですね! 今度はどのような称号を!?」
「いや噂ってなんです!?」
たしかにコロコロ変わるけれども、噂になるほどじゃなくないですかね望月さん!?
と、いうツッコミはさておき。俺のステータスに今、ワールドプロセッサが干渉してきたのを感知した。今回は称号だな。というか今後、あいつが直々に俺にスキルを与えてくることはあるんだろうか?
研究所の入り口、すぐ手前。入場して、落ち着いてからステータスを確認しても良い気がしたんだが、香苗さんや望月さんはじめ、一同が今見ろすぐ見ろほら見るぞと期待と興味の眼差しで見てくる。
リンちゃんやベナウィさんまで面白がってるんだから、こうなると見ない選択肢はないよなあ。とりあえず、ステータスを見てみよう。
名前 山形公平 レベル622
称号 光風、大地に吹きて花は今、咲き誇る
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
名称 よみがえる風と大地の上で
名称 目に見えずとも、たしかにそこにあるもの
称号 光風、大地に吹きて花は今、咲き誇る
解説 広がりゆく名とありかた。あなたという存在を、人間の世が放っておくことはない
効果 なし
《称号『光風、大地に吹きて花は今、咲き誇る』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……あなたの行いが今、巡り巡ってあなたを世界に知らしめようとしています。どうか、正しいと思う道を進んでください。世界は必ず、そんなあなたに応えます》
『ねえ。なんでこの世界のワールドプロセッサはこんな、何を言うにしても一々冗長というか情緒的というか、ポエミーなんだい?』
知らないよ。俺が聞きたいくらいだ。邪悪なる思念の純粋そのものな疑問に、こちらも純粋な困惑で以て返す。
この称号も結局のところ、ワールドプロセッサの私信でしかないものなんだけど……称号にしろスキルにしろ、どうにもケレン味のある表現というか、迂遠なのよな一々。
たぶん趣味なんだろなあと思いつつ、俺はみんなに口頭で名称と解説、効果はないこととワールドプロセッサからの一言について説明した。
反応は様々。当たり前だが人それぞれ、受け止め方が違っていた。
「ん……分かんない。光風、花?」
「毎回このような、詩的な表現なのですかミスター?」
「え、ええまあ。なんかすみません」
困惑というか、意味不明なものとして首を傾げるリンちゃんと、何これ? って感じがひしひし伝わってくるベナウィさん。
うわぁ、言われてるのはあくまでワールドプロセッサなのに、どうしたことか俺までこっ恥ずかしい! 一応俺とあいつは対になる存在だからか、変に同族意識があるみたいだ、俺の中で。
「ああ、らしい言い回しですね。私の持っていたアドミニストレータ用スキルも、大体こんな感じの名称と解説でした。懐かしいですね〜」
「そうなんですか! 仲間ですね!」
「? ええ、お仲間ですね」
なんてことだ、俺と同じポエミー被害者がいた!
アドミニストレータとしての俺の先輩、ソフィアさんが何やら懐かしそうに親しみある様子なのが、俺にとってはたまらなく嬉しい。一人じゃなかったんだ、このトンチキなポエミースキルとポエミー称号は!
……まあ、とはいえ今の彼女はアドミニストレータじゃないから、やっぱり現存するポエミーステータスは俺だけみたいだが。
「光風……かつての称号《心いたわり寄り添う光風》や、スキル《救いを求める魂よ、光とともに風は来た》から推察するに、これは救世主山形公平様のことを指しているのは明白!」
「とすれば問題は花が何を指すか、ですね。またしても、考察しがいのある称号です!」
「学会にまたしても議論の風が吹き荒れますね……!」
「考察!? 学会!?」
なにそれ、何を考察するんだ!? 学会ってなに!?
俺の預かり知らないところでなにか、得体の知らない団体が蠢いている気がする。どうなってんだこの世の中、怖ぁ……
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