運動音痴な私、サポーターとしての評価が高すぎてイケメンから逃れられない件について!
さて、アイに会いにいこうとなれば動きはスムーズだ。組合本部を出て俺、香苗さん、望月さん、ソフィアさん、リンちゃん、ベナウィさんの6人は歩き出した。
照りつける日差し。入道雲が蒼天に広がる風景を遠くにしての、なんとものんびりした行進。それでも30分とかからない道中を、俺たちはダラダラ喋りながら進んでいた。
ふと、先ほどの会話の中で気になったところを言ってみる。
「そう言えば望月さん、昇級されたんですね。おめでとうございます」
「あ……はい、ありがとうございます! そうなんですよ、アイちゃんの一件と、その後の探査でレベルも上がったことで美晴ちゃんともども、1ランク昇級しました!」
嬉しそうに笑う望月さん。そうか、逢坂さんもか。たしかにドラゴンの一件ではこのお二人、ある意味一番肝心な部分を賄ってくれたものな。当然の報酬だ。
たしか以前は望月さんがD級、逢坂さんがE級だったし、それぞれC級、D級になったわけか。望月さんはともかく逢坂さん、探査者歴一年で随分な出世したな。エリート扱いされてもおかしくないよ、このスピード。
「美晴ちゃん、内勤志望なんですけどね……あの騒ぎからサポーターとしての腕前が見込まれて、同ランク帯の探査者たちから引っ張りだこなんです」
「そりゃすごい。たしかに、サポートスキル目白押しのとんでもないスキル構成でしたからね」
逢坂美晴。彼女はまさしくサポーターの中のサポーターとでも言うべき、極端極まりないスキル構成をしている。たしか7つか8つもスキルを持っていて、そのすべてが支援系だったはずだ。
対ドラゴン戦においても、敵に気付かれることなく肉薄できたのは彼女の功績であるところが大きい。
そしてサポート特化過ぎて戦闘や防御面ではまったく無防備な点を、補う絶対防御スキル《防御結界》を持つ望月さん。
火力が決定的に不足しているというのを除けば、大変噛み合っているコンビネーションだと言えよう。評価されて当然だとすら言えた。
内勤志望ゆえ、そう遠からず現場からは遠ざかるだろうけど、それまではいろんな探査者から助っ人を頼まれるんだろうなあ。
「美晴ちゃん自身は、割と困ってるみたいなんです」
「そうなんですか?」
「はい、あの子、運動音痴ですから……10メートル歩くだけで両足を挫くレベルの子が、探査者パーティーになんて助っ人しようにも絶対に足を引っ張るって、嘆いていました」
「あ、あぁ〜……」
なるほど。そりゃあ、困るに決まってる。
以前にも何度か聞いてたけど、逢坂さん、探査者としては致命的に運動が苦手なんだ。それこそダンジョン内を歩くことすら覚束ない可能性があるほどに、身体を動かすという行為に適正がないらしい。
だから本人としても内勤志望、つまりはダンジョン探査から離れ、全探組の事務方勤めを志望していたわけだけど。
先に述べたようにサポーターとしての才能が群を抜いている彼女はえらく注目されてしまい、あちこちからお呼びがかかっているという状況なのだった。
「なんと言いますか、大変ですねえ」
「なるべくフォローは入れていますけど、本人としてはやっぱり、結構荷が重く感じてるみたいです」
憂い気な顔の望月さん。やはり弟子と言える逢坂さんが、本人の望みとは裏腹の方向で求められているというのは、心配になるものなのだろう。
というか、運動音痴なのにも関わらず声をかけていくんだな、他の探査者たちも。そこまで致命的なものではないと見積もっているのか、あるいはそれを加味してなお、仲間に加える価値のある探査者だと評価しているのか。
多分どちらもだな。
「本人が嫌がっている以上、向こうも無理強いはできないでしょう。まあ、内勤に移ればじきに落ち着きますよ」
「……公平様って、パーティーを組むとかは考えていらっしゃらないのですか?」
「え、俺? パーティー?」
唐突な質問。俺がパーティー?
ふむ、と考える。以前、何度か考えた話ではあるんだよな、パーティー構想。ソロ戦闘オンリーな《風さえ吹かない荒野を行くよ》の影響で、結局一人でやるしかないかあ、とその時は結論付けたわけだが。
コマンドプロンプトとして覚醒した今の俺だと、状況が変わってるんだよなあ。
「そうですね。そろそろなんかこう、考えてみても良いのかな、とは思いますね」
「! そうなのですか、公平くん!」
「ええ。ソロ専用スキルの問題も、コマンドプロンプトとしての権能で無視できますし」
若干食い気味で割り込んでくる香苗さんにも答える。
ぶっちゃけ、今の俺なら発動条件とか完全に無視できるんだよね。ソロだろうが負けてはならない戦いだろうがなんだろうが、全部すっ飛ばして発動できる。因果改変って便利ね。
だから以前のように、力をフルに使うためには一人ぼっちが必須、という哀しみはもう背負っていないのだ。
とはいえ、そもそも力を発動した時点で他の味方をすべて置き去りにしてしまうというのはある。
もう全部あいつ一人で良いんじゃないかな、的な白々しいモノを見る目を向けられたら、下手すると仕方ないから一人でやってた時より孤独感が増すかもしれない。怖ぁ……
「ま、まあそんなわけですから。その気になれば全然、組めるんですよパーティー」
「そうなんですか! うふふ、それは良い報せです! 美晴ちゃんにも教えちゃいますね!」
「なんで?」
「うふふ!」
「わ、私と! ぜひ私と組みましょうパーティー! いざ、いざ!!」
いや、うふふじゃなくて。
意味深に笑う望月さんと、めっちゃ興奮して組むのを提案してくる香苗さん。
なんとな~くだけど、変な成り行きになりそうな気がする俺でした。
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