アイに会いに行こう
マリーさん、サン・スーンさん、神谷さんの三人は、結局、俺の提案したとおりに寺まで観光しに行った。付き添いで広瀬さんもついていったんだが、大変なVIP相手なわけなので、見るからに緊張していたのが気の毒だ。
いくら本部長っても、一国の県レベルの人と世界規模の人たちだもんなあ……お疲れさまです、本当に。
「まあ、数時間程度なので本部長の胃が壊れることはないでしょう。それより私たちはどうしましょうか、公平くん」
「あ、一緒に行動するんですね俺たち」
「伝道師・御堂ともども、どこまでも付いていきますよ、公平様」
香苗さんと望月さんがぴったり俺の両隣に付き添ってくる。それこそ世界レベルって感じの美女二人に、こうされるのは正直めっちゃ嬉しいけど、さすがにどこまでも付いてくるのは勘弁していただきたいもんだ。言葉の綾だろうけどさ。
「あらあら、本当に仲がよろしいですわね、山形様も御堂様も、望月様も」
「ソフィアさん。それにリンちゃん、ベナウィさんも」
「お寿司、美味しかった! ごちそうさまでした!」
「いやあ、お昼でこれとは。祝勝会本番が楽しみですね、ふふふ」
言いながらやってくるのはソフィアさんにリンちゃん、ベナウィさん。特上寿司をたらふく食べたのか、満腹げに笑っている。
特にリンちゃん、めちゃんこ食べてたもんな。寿司桶三つ分くらい、一人で食べてたと思う。
いやその量、晩ごはん食べられなくね? と普通なら心配するところだが、この子は星界拳士、色々規格外だ。
星界拳の技を二つ三つ、型でも披露すればそれだけでまた、お腹減ったと言い出すだろう。冷静に考えてどうなってるんだと思わなくもないが、これがシェン一族なんだね。
そんな彼女は、次いではしゃいだ声音で言い出した。
「ドラゴン、ドラゴン! 竜、見に行きたい!」
「ドラゴン? え、なにそれ」
「え? 公平さん、知ってるんじゃ?」
いきなりファンタジーなこと言い出すリンちゃんに、キョトン。すると向こうもキョトンとしだした。えっ、なに?
……って、あー。もしかしなくてもあれか。アイか。俺が知ってるドラゴンなんてそのくらいしか思い付かない。
「アイのこと、かな? 今、WSOの研究施設で預かってもらってる」
「それ! たぶんそれ、それ!」
「フェイリンさん、すっかり件のドラゴンを一目見たいようで。ミニチュアの愛らしい竜なんて、女の子なら誰でもみたいですものね。うふふ」
「そう言うソフィアさんも、ワクワクしてた!」
「それはそうですよ。私も女の子ですもの。うふふ!」
やはりアイのことみたいだ。二人で顔を合わせて、ね! ねーっ! みたいに笑い合うソフィアさんとリンちゃん。仲の良い姉妹みたいでほっこりする光景だ。
しかし、そうか。アイを見たいのか。思えば俺も、決戦後に一度、会ったきりで一週間近く会ってないな、アイに。
愛らしい目をしたミニチュアドラゴンを思い返す。WSOのマスコットとしてデビューを控えているらしいあの子は、こないだ会った時もやはり無邪気で、誰からも愛される振る舞いをする赤ちゃん竜だった。
会いたくなってきたな、俺も。
良い機会だし、みんなで行ってみるのもいいかもしれない。
元より俺と行動を同じくするつもりな、両隣の二人にも確認する。
「せっかくだし、俺も行こうかな? 香苗さん、望月さん、大丈夫ですかね?」
「もちろん! アイちゃんには私も、また会いたいと思ってましたからね」
「公平様とご一緒できるなら、どこへなりともお供いたします」
当然のごとく快諾が返ってきた。よし、これで祝勝会までの予定は決まったな。
組合本部の職員さんが片付け始めているので、そろそろ俺たちも出ようか。立ち上がり、みんなを見る。
「アイのいる研究所は、ここからそう遠くないところにあるんだ。歩いてもすぐだし、腹ごなしくらいには運動にもなるかも」
「まあ、それは良いですね! ふふ、ドラゴンに会いがてらウォーキングも、健康的ですわ」
「しかしドラゴンと触れ合えるとは、こんな日が来るとも思っていませんでしたね……34年前の騒動について、師匠から話を聞いていたので余計に」
一同、外出の支度を整えながらも談笑する。中でもベナウィさんの言葉が意外というか、興味深い話だったので思わず反応する。
「34年前……って、たしかマリーさんが参加したっていう、ドラゴン退治の話ですか?」
「ええ。我が師サウダーデ・風間も当時新米ながら、かの戦いに参加していたらしいのです。付き添い程度とは仰っていましたがね」
「それでも新人で、ですか。すごいですね」
聞いたことがある。34年前、S級モンスターであるドラゴンが発生し、当時の名だたるS級探査者が勢揃いして対処したという。
大ダンジョン時代においても極めて有名な、探査者オールスター伝説として有名な話だ。マリーさんがその戦いの、中核メンバーとして参加していたことは知っていたけれど……まさかそのお弟子さんまでいたとは。
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